「レントさんっ!」
クロニカは礼拝堂を出てレントを探す。
『! クロニカ、あそこだ!』
先にレントを発見したポンコツがクロニカの視界に青い矢印を表示、傷ついたレントの場所を指し示す。
「ああ、クソッ……!」
クロニカはポンコツを外してレントに駆け寄る。彼を覆っていた鎧は即座に消失したが……
『!? ま、待て、クロニカ! 僕を外したら裸に……!!』
「し、知るか! あの姿を見せる訳にはいかねえだろ!? 今更裸ぐらい見られても気にならねえよ!」
『いやいや! 少しは気にしてくれよ! 裸を見せられる方が困る……』
何故かクロニカは変身を解除しても裸にならずに変身前の修道女姿だった。
『……!?』
当然、ポンコツは困惑する。服の消失と再生もクロノスの覚醒と何か関係があるのかと勘ぐったがとりあえず今は置いておく事にした。
「おい、しっかり! レントさん! レントさんっ!」
『……』
「ポンコツ! レントさんは大丈夫か!? 助かりそうか!?」
『えっ、あっ……ええとっ!』
「う……っ」
クロニカの声が聞こえたのかレントが意識を取り戻す。
「……ああ、お前か。どうして戻ってきた……?」
「そ、それは……孤児院に逃げ遅れた人が居て……! アンタの事も、心配だったし……!」
「……そうか、逃げ遅れた村人が居たのか……ぐぅっ!」
レントはグッと歯を食いしばって立ち上がろうとする。しかし片腕を失う重傷を負った身体には既に立ち上がる力すら残っていなかった。
「お、おい! 動くなよ! その怪我じゃもう……!」
「まだ、俺は生きている。心臓が動いている間は……まだ、止まるわけにはいかない」
「もうファンタズマは死んだよ! 孤児院の皆も無事だ!」
クロニカの言葉にレントは目を見開く。
「……奴は、死んだのか? 何故?」
「……それは……その」
クロニカは言葉に詰まった。
「……お前が倒したのか?」
レントの真剣な顔を見てクロニカの胸が締め付けられる。
「ち、違うよ! オレにそんな力なんてないよ! 孤児院の皆に襲いかかろうとした時に、突然血を吐いて死んだんだ!!」
……クロニカは咄嗟に嘘を吐いてしまった。
レントがここまで傷つき死力を尽くして戦っても、ファンタズマに目立った外傷は無かった。クロニカと違い正式な討伐者として数多の戦いを経験し、多くのファンタズマを討伐したであろう彼の力はあの怪物には全く通じていなかったのだ。
正直に言えるはずが無かった。
「……」
「ア、アンタがあの化け物を倒したんだよ! 凄いよ、本当に立派な討伐者だよ! アンタのお陰で皆……!!」
「はっはっ、お前は……嘘が下手だな」
そんなクロニカの嘘をレントは直ぐに見破った。
「う、嘘なんかじゃ……」
「奴と戦ったからわかる。俺の攻撃は殆ど効いていなかった……完敗だったさ」
「……」
「お前が、倒したんだろう?」
「ち、違う……オレは」
「……どうして隠す?」
レントの問いかけにクロニカは申し訳無さそうに呟く。
「……正直に言ったら、アンタが傷つくだろ」
クロニカが発した言葉にレントは目を丸くした。
「……ははっ、はっはっ……」
「……な、何だよ。笑ってる場合じゃないだろ! そんな大怪我してっ!」
「馬鹿だなぁ、お前……本当に馬鹿だよ。お前が気にする必要なんてない」
「なっ……」
「俺よりもあの化け物が、そしてあの化け物よりも……お前が強かっただけだ」
レントはくくくと笑ってクロニカに言う。あまりにもシンプルで、それでいて残酷な答えを彼はアッサリと認めた。
「……そんなことねえよ、オレは……コイツを使っただけだよ! コイツを使えば物凄い力が出せるってだけで! オレは全然強くねえよ!!」
「……それは誰にでも使えるものか?」
「そ、そうだよ! このポンコツを使えば誰だって」
『いや、僕はクロニカにしか使えない。クロニカ以外が僕を使っても……ただの喋る兜さ』
レントの言葉を素直に受け取れないクロニカを見かねてポンコツは言葉を遮る。
「おい、ポンコツ!」
『あの化け物を倒して孤児達を助けたのは君じゃないか! シスターから聞いただろ!? 僕を使える事が君の持つ特別な才能なんだよ! いい加減に認めろ!!』
「で、でもオレはっ!」
「……そうだ、クロニカ。自分を認めろ」
レントはクロニカの手をギュッと掴む。
「どんな力も……それを扱う者次第だ。お前はその力を、誰かを守るために使った……それは誇っていいことじゃないのか?」
「……!」
「俺の事なら、気にするな……こうなる覚悟はしてたさ」
「オレは、オレは……!!」
「自分を恥じるな……クロニカ」
レントはクロニカの潤んだ瞳をジッと見つめながら鼓舞するように言った。
「どんな形であれ……お前の手に入れた力は、お前の物だ……その力をどう使うかも……お前次第だ」
「……!!」
「ならば恥じるな、誇れ。お前がその力で救った者から、目を逸らすな……」
「レントさん……ッ」
「……いいな? お前は……強い。俺よりも……」
そう言い残してレントは静かに目を閉じる。
「……あれ、レントさん……?」
「……」
「お、おい、ポンコツ! レントさんはっ!」
『……生命反応が消えた』
「えっ……」
『彼はもう、行ってしまった』
ポンコツは言った。静かで落ち着いた声で、ハッキリと。
「冗談はやめろよ……ま、魔動鎧は凄い丈夫なんだぜ? きっと気を失ってるだけだよ……!」
『……』
「ほら、すぐ目が覚めるって! そうだ! 腕をくっつけてやらないと……! ええと、縛るもの、縛るもの……っ! これでいいかっ!」
クロニカは咄嗟に修道服の裾を破る。持ってきた腕を断面に合わせ、落ちていた木片を固定具に、破った裾を包帯替わりにして何とかくっつけようとする。
「くそっ! 少し痛むけど、我慢してくれよ!!」
『クロニカ。そんな事をしても彼はもう目覚めないよ……』
「うるさい、黙ってろ! おい、しっかり……しっかりしろよ!!」
クロニカはポンコツの言葉が信じられず、もう繋がらない腕を押さえながら既に息絶えたレントに声をかけ続けた……
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