「……それはひょっとしてギャグのつもりか?」
ギーメルの街にある討伐者ギルド ギーメル支部。そこで発生した緊急依頼を見てコーザは首を傾げる。
「え、何……? ファンタズマが100体……??」
「冗談だろ?」
「流石に100は言い過ぎだ。車掌や乗客の見間違いだろう」
「まぁ……そうだよな。うん」
数分前、聖都セフィロトに向かうテンペランス・パスの運転士から送られてきた緊急連絡……それを受けたギーメル支部運営が急遽受注開始した緊急討伐依頼。その内容はギルドを訪れていた討伐者達が思わず目を疑う内容だった。
【セフィロト直通列車テンペランス・パスを追うファンタズマ100体の討伐】
まず一匹のファンタズマを倒すのにパーティを組む必要がある。腕に覚えがある高ランクの討伐者ですら一対一での戦闘は危険……そのような怪物が100体だ。
「真実か冗談かはさておき、誰が受けるんだよ。そんな依頼」
コーザの言う通りこの場に居合わせた者達は誰一人として受注しようとはしなかった。
この討伐依頼は強制参加ではなく、依頼を受けるか否かは個人に任されている。テンペランス・パスはまだサメフの街を出たばかりでギーメルの街からかなり距離があり、彼らが到着するまで列車と乗客が無事とは思えない。今、テンペランス・パスに一番近いのはサメフにある討伐者ギルドの者達だが……
「サメフの街の奴らはどうした? あそこにもギルドがあるだろ」
「それが……向こうと連絡が繋がらないらしい」
「まさか、襲われたんじゃ……」
「その可能性は高いな」
サメフの街とは先程から連絡が途絶えている。
「ま、そいつらには悪いけど災難だったってことだな」
コーザはそう言ってギルドを後にしようとする。
実際、100体のファンタズマを連れて来られるよりもそのまま犠牲になって貰うほうが被害は少なく済む。それにファンタズマは満腹になったり、ある程度満足するまで殺戮すると【黒き森】と呼ばれる領域に帰還する習性を持つ。サメフの街に加えてテンペランス・パスの乗客達も餌になってしまえばファンタズマも帰っていくだろう。
相棒のレントであれば助けに行ったかもしれないが、顔も知らない他人の為に命を懸ける甲斐性などコーザにはないのだ。
「じゅ、受注する方はいませんかー!? 緊急依頼発生中です! 莫大な報酬や昇格に加え、本部からの追加報酬も期待出来ますよー!」
栗色の髪の受付嬢が慌てて声を上げるが、誰も受けようとはしない。
「緊急依頼発生! 緊急依頼発生ですよー!」
「んー、いないいない。そんな命知らずなんぞ何処にも」
「緊急……えっ? 何です?」
受付嬢に通信係の男が耳打ちする。
「……はぁ!? ひ、一人!? 一人で、食い止め……!?」
受付嬢は通信係の話を聞き、驚きのあまり声を張り上げる。
「は?」
「じょ、冗談ですよね!? 一人って!?」
「いや、でも……運転士がそう言って……」
「嘘でしょ!?」
「……実際、その子が飛び出してからファンタズマが追ってこなくなったらしい……」
二人の会話に聞き耳を立てていたコーザの足が自然と翻る。
「……まさかな」
きっと恐らく聞き間違いだろう。そう思いつつも彼は受付嬢達の所に向かう。
「いやいや、ないない。流石にないって……」
どういう訳かコーザの脳裏にはとある金髪の少女の姿が浮かび、無意識の内に口角が上がっていく。
「大体、本当に100匹もいるんですか!? やっぱりパニックになった乗客さんがメチャクチャな事を言っただけじゃないんですか!?」
「なぁ、ちょっと……いいか?」
「えっ、あっ! はい! 何でしょうか!?」
「アンタ達の話、もうちょっと詳しく聞かせてもらえる?」
気がつけばコーザはニヤつきながら二人に話しかけていた……
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