悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.61

公開日時: 2020年11月16日(月) 00:18
更新日時: 2021年2月25日(木) 23:08
文字数:1,722

 バギーは変身したクロニカの姿を見て、彼女と出会った時を思い出す。


「はっ、そうかよ……エリザベス!」


 先程までバギーはクロニカに勝ったつもりで居た。だが、それは間違いだ。


「だよなぁ、おかしいと思ってたんだよ。お前は姿にならなかったもんなぁ! はははっ、俺としたことが一杯食わされたぜぇ!!」


 何故なら、クロニカはまだ変身していなかったのだから。


 初めてクロニカと遭遇した時はこの姿だった。遺跡の中から現れた白銀の鎧姿を守護者スプリガンと見間違い、問答無用でバズーカ弾を撃ち込んだ。それを切欠に戦闘が始まり……


 バギーは手も足も出ずに完敗した。


 目にも留まらぬ速さで動き、此方に怪我一つ負わせることなく無力化した圧倒的な実力。予期せぬトラブルで戦闘は有耶無耶になってしまったが、あの一瞬でバギーは敗北を悟った。


 相手に攻撃される前に負けを認めたのはその時が初めてだ。


「お前はこのバギー様の愛を試していたんだな! 俺に本気を出す価値があるかどうか! そうだろう、エリザベスゥ!!」


 自分を圧倒出来る力がある筈なのにそれを使わない。それどころかわざと自分に負けてピンチを演出し、この想いが本物なのか、この男に本気を出す価値があるのかを彼女は確かめていた。


全てはこのバギーが自分に相応しい男であるかを見極めるために。


「……何言ってんだ、コイツ」

『……さぁ』


 ……などと勝手な解釈をして一人興奮しているバギーにクロニカは冷たい視線を向ける。


「うおおおお! 来いよ、エリザベス! もう手加減なんてしなくていいんだぜ! 俺がお前の本気を受け止めてやるよぉー!!」

「……コイツってこんなに気持ち悪い奴だったか?」

『僕は最初から気持ち悪いと思ってたけどね。主に髪型が』


 クロニカは軽く準備運動し、此方の攻撃を待ち侘びるバギーを見る。


「来いよ、エリザベス! 手加減なんて捨ててかかってこい!」

「オーケー、それじゃあ」


 クロニカはトンと大地を蹴ってバギーとの距離を詰める。エトの反応速度を越えたシルキーを遥かに上回るスピードに当然バギーは反応できず、気がつけば白銀の拳が腹部にめり込んでいた。


「────おぱっ!?」

「お言葉に甘えて!」



────ッゴン!!



 変身したクロニカの拳をまともに受けて2ブレイルを越える巨体が人形のように吹き飛ぶ。


『……本当に本気で殴ったのかい?』

「いや、手加減した」


 遥か彼方に吹っ飛んで砂埃を立てながら転がっていくバギーを追ってクロニカは走り出す。


 可能な限り手加減したのだが、この吹き飛び具合。やはりクロノスの力はエトに使うには過剰火力の一言に尽きる。あれ程の防御力を誇ったバギーですらこれなのだから、普通のエトなら即死だ。例え魔動鎧マキナ・メイルを装備していても重傷は免れないだろう。


「おーい、生きてるか?」


 バギーの所に到着したクロニカは血達磨になったバギーに声をかける。


「うっ、ゴフッ! ゴボボッ!」

『うわぁ、生きてる!』

「本当にタフだな、コイツ……すげえわ」


 あまりのタフさにポンコツも戦慄する。激しく喀血して全身が血塗れになっているがバギーは五体満足で生存しており、その天晴な生命力にクロニカも素直に感動した。


「うぐっ、エ、エリザベス……」

「何だ、バギー」

「お、俺はまだ……やれるぜ……! ゴブーッ!」

「いや、無理だろ。さすがにもう一発くれたら死ぬよ、お前」

「こ、こんなの、どうってこと……ぐ、ぐぐぐぅうっ!」


 何とバギーはクロノスのパンチを受けても立ち上がる。


「お、おい! 無理すんな、死ぬぞ!?」

「これくらいじゃ俺は死なねぇー! さぁ、もっと来ぉい!!」

『な、なんて奴だ……』

「はっ……コイツは本物だな」

「もっと殴れぇー! バギー様はまだ受け止められるぜ、エリザベスゥ!!」


 割と深刻なダメージを受けながら尚も殴れと言うバギーの姿にクロニカは小さな笑みを浮かべる。


「少し見直したよ、バギー。お前って本当に凄いやつだったんだな」

『クロニカ……?』

「でもな、これだけは言っておく」


 クロニカはバギーの少年のような目を見つめながらギュッと拳を握りしめ……


「オレはエリザベスじゃねえって言ってんだろ、ボケェェェェ────ッ!!」

「ぶぁっぶっ!」


 バギーの顔面に輝く拳を叩き込み、地面が陥没するほどの勢いで殴り倒した。

Thank you for reading!ヾ(*‘ω‘ )ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート