バギーは変身したクロニカの姿を見て、彼女と出会った時を思い出す。
「はっ、そうかよ……エリザベス!」
先程までバギーはクロニカに勝ったつもりで居た。だが、それは間違いだ。
「だよなぁ、おかしいと思ってたんだよ。お前はその姿にならなかったもんなぁ! はははっ、俺としたことが一杯食わされたぜぇ!!」
何故なら、クロニカはまだ変身していなかったのだから。
初めてクロニカと遭遇した時はこの姿だった。遺跡の中から現れた白銀の鎧姿を守護者と見間違い、問答無用でバズーカ弾を撃ち込んだ。それを切欠に戦闘が始まり……
バギーは手も足も出ずに完敗した。
目にも留まらぬ速さで動き、此方に怪我一つ負わせることなく無力化した圧倒的な実力。予期せぬトラブルで戦闘は有耶無耶になってしまったが、あの一瞬でバギーは敗北を悟った。
相手に攻撃される前に負けを認めたのはその時が初めてだ。
「お前はこのバギー様の愛を試していたんだな! 俺に本気を出す価値があるかどうか! そうだろう、エリザベスゥ!!」
自分を圧倒出来る力がある筈なのにそれを使わない。それどころかわざと自分に負けてピンチを演出し、この想いが本物なのか、この男に本気を出す価値があるのかを彼女は確かめていた。
全てはこのバギーが自分に相応しい男であるかを見極めるために。
「……何言ってんだ、コイツ」
『……さぁ』
……などと勝手な解釈をして一人興奮しているバギーにクロニカは冷たい視線を向ける。
「うおおおお! 来いよ、エリザベス! もう手加減なんてしなくていいんだぜ! 俺がお前の本気を受け止めてやるよぉー!!」
「……コイツってこんなに気持ち悪い奴だったか?」
『僕は最初から気持ち悪いと思ってたけどね。主に髪型が』
クロニカは軽く準備運動し、此方の攻撃を待ち侘びるバギーを見る。
「来いよ、エリザベス! 手加減なんて捨ててかかってこい!」
「オーケー、それじゃあ」
クロニカはトンと大地を蹴ってバギーとの距離を詰める。エトの反応速度を越えたシルキーを遥かに上回るスピードに当然バギーは反応できず、気がつけば白銀の拳が腹部にめり込んでいた。
「────おぱっ!?」
「お言葉に甘えて!」
────ッゴン!!
変身したクロニカの拳をまともに受けて2ブレイルを越える巨体が人形のように吹き飛ぶ。
『……本当に本気で殴ったのかい?』
「いや、手加減した」
遥か彼方に吹っ飛んで砂埃を立てながら転がっていくバギーを追ってクロニカは走り出す。
可能な限り手加減したのだが、この吹き飛び具合。やはりクロノスの力はエトに使うには過剰火力の一言に尽きる。あれ程の防御力を誇ったバギーですらこれなのだから、普通のエトなら即死だ。例え魔動鎧を装備していても重傷は免れないだろう。
「おーい、生きてるか?」
バギーの所に到着したクロニカは血達磨になったバギーに声をかける。
「うっ、ゴフッ! ゴボボッ!」
『うわぁ、生きてる!』
「本当にタフだな、コイツ……すげえわ」
あまりのタフさにポンコツも戦慄する。激しく喀血して全身が血塗れになっているがバギーは五体満足で生存しており、その天晴な生命力にクロニカも素直に感動した。
「うぐっ、エ、エリザベス……」
「何だ、バギー」
「お、俺はまだ……やれるぜ……! ゴブーッ!」
「いや、無理だろ。さすがにもう一発くれたら死ぬよ、お前」
「こ、こんなの、どうってこと……ぐ、ぐぐぐぅうっ!」
何とバギーはクロノスのパンチを受けても立ち上がる。
「お、おい! 無理すんな、死ぬぞ!?」
「これくらいじゃ俺は死なねぇー! さぁ、もっと来ぉい!!」
『な、なんて奴だ……』
「はっ……コイツは本物だな」
「もっと殴れぇー! バギー様はまだ受け止められるぜ、エリザベスゥ!!」
割と深刻なダメージを受けながら尚も殴れと言うバギーの姿にクロニカは小さな笑みを浮かべる。
「少し見直したよ、バギー。お前って本当に凄いやつだったんだな」
『クロニカ……?』
「でもな、これだけは言っておく」
クロニカはバギーの少年のような目を見つめながらギュッと拳を握りしめ……
「オレはエリザベスじゃねえって言ってんだろ、ボケェェェェ────ッ!!」
「ぶぁっぶっ!」
バギーの顔面に輝く拳を叩き込み、地面が陥没するほどの勢いで殴り倒した。
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