悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.84

公開日時: 2021年1月18日(月) 00:06
更新日時: 2021年4月4日(日) 00:35
文字数:2,085

『凄い……ファンタズマに突き刺さったぞ!!』

「凄いのはコイツクロノスの力だけどなっ!!」


 ファンタズマの頭上を取ったクロニカはファンタズマを縫い付けたを見ながら不敵に笑った……



「もう痛みを感じないが……首の怪我が治ったのか?」

『出血は止まったし、首の傷も殆ど治癒してる。だが切り裂かれた装甲の修復にはまだ時間が必要みたいだ』


 少し時は遡り、森に入ったクロニカは痛みが引いた首から手を退けて溜め息を吐く。


「ガルーダ……悪いけど少しの間だけ囮になってくれ」

〈ヴンっ!〉

「大丈夫だ、お前が襲われる前にケリをつける。今度は絶対に壊させねえよ」

〈ヴヴーン〉

「……頼むぞ、相棒」


 ガルーダにコツンと頭を当ててクロニカは高い木の上に登る。クロニカの命令通りにガルーダはわざと大きな音を立てて走り出し、薄暗い森の奥へと向かった。


『どうするんだ?』

「敵の攻撃の正体がわからない以上、考えなしの突撃はリスクが高い。コイツのスピードとパワーならゴリ押しでも行けそうな気もするが……そうやって食われかけたことがあるからな」

『……』

「それに今もこうして森に逃げ込んでるわけだし」


 クロニカは自嘲気味に言う。


「だから、ここからは慣れ親しんできた方法でやろうと思う」

『慣れ親しんだ方法?』

「ぶっちゃけ俺は殴り合いには向いてないんだよ」


 目についた長い木の枝を折り、余分な皮と枝をクロノスの掌をヤスリ代わりにして剥ぎ取って即席の槍を作る。


「あんまり言いたくねえけど俺は背が低いし、おまけに身体も軽い。だからすぐふっ飛ばされるし、正面切っての殴り合いで勝てたことなんて数えられるくらいしかねえ」

『むむ……』

「トドメに眷能ギフトも使えないからなぁ。正直、探索者ハンター討伐者ブレイバーの適性はレイコより大分低い。アイツが優秀なだけとも言えるけどな」


 女体化する前からクロニカは体格で他の者より劣る面が多く、力と頑丈さはそれなりあるが軽い体重が原因であまり戦いには活かせない。クロノスに変身する能力を得ても身体の軽さは変わらず、ダメージを受けずとも衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。


 結論から言うと、クロニカに戦士としての適性は無いのだ。


 かと言って銃の扱いに長けているかといえばそんな事も無く、射撃の腕もそこそこで狙撃手としての適性も低い。戦士にも狙撃手にも向いていない上に眷能ギフトまで宿らなかったのだから自信を無くすのも無理はない……


「でもな、戦いバトルじゃなくて狩りハントの事になると話は別だ」


 そんな彼が、唯一自慢に出来るものがある。


『狩りだって……?』

「俺の育て親が猟師だって話はしたっけ?」

『……話は聞いてないけど、記憶は少し覗かせてもらったよ』

「そうか。まぁ、その人に色んな事を教えて貰ってな。俺もその人みたいに尊敬されるエトになりたいと思って必死で真似したんだよ。そうしている内に狩りだけは上手くなっていったんだ」

『ふ、ふむ……?』

「凄い力を手に入れた癖にこんな手を使うなんてと思われそうだが……」


 クロニカは尖らせた槍の先端をじっと見つめる。


「やっぱり俺にはこういうやり方の方が性に合ってるのさ」



 ……普通であれば命中しても表皮すら貫けない唯の木槍。だが、クロノスに変身して極限まで強化された腕力で投擲すれば黒き獣すら穿つ剛槍になる。


〈ヴャガアアアアアッ!〉


 ただ貫きはすれど所詮は木。ほんの少しでも身動ぎすれば容易くへし折れる……が


「ほんの少しでもお前の動きを止められればっ、十分だあああっ!!」


 そのワンテンポの隙を生み出すことがクロニカの狙いだった。


『気をつけろ、クロニカ! 来るぞっ!!』


 ――――キィンッ!


 刹那に響く風を切るような音。ファンタズマの背中から突き出た棘状の器官が発光し、一瞬だけ裂けるように展開して不可視の斬撃を放つ。


「わかってるけど、見えねえから関係ねえっ!!」


 クロニカはそのまま斬撃を受ける。白銀の装甲に一筋の大きな傷が刻まれるが、中のクロニカを切り裂くには至らなかった。


〈アアアアアアアアッ!!〉

「くたばれぇえええええっ!」


 光を纏ったクロニカの拳を叩き込まれてファンタズマの顔面が潰れる。青い血が近くの木々に飛び散り、大きな手足をビクリと痙攣させて黒い獣は地に伏した。


『やった!』

「よし、それじゃ……」


 ――――ヴォオオオオオオオオンッ!


「早速、使わせてもらうぞ! お前の身体をっ!!」


 大勢のファンタズマを引き連れながら此方に戻ってくるガルーダを視認し、クロニカは絶命したファンタズマの黒い鎧のような外皮を剥ぎ取ってバキバキと細かく砕いていく。


「ガルーダッ!!」

〈ヴンッ!〉


 ガルーダは装甲の隙間から迫り出した小型ブースターで急加速しながらジャンプして彼を跳び越える。ガルーダが跳んだ瞬間を狙ってクロニカは腕を大きく振りかぶり……


「お前らもいい加減に止まれぇぇぇぇッ!!」


 握りしめたファンタズマの外皮を黒い群れに向かって投げつける。


〈ヴァッ────!〉


 ────キュドドドドドドドッ!!


 細かく砕いた鎧はまるで拡散する徹甲弾のようにファンタズマの身体を次々と貫通し、血の混じった土煙と共に緑々とした森を一瞬にして青く染め上げた……

Thank you for reading‼…。・*・:≡( ε:)旦+

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