「はっはっは……お?」
笑いながらコーザが駆動機を走らせていると、数フォート先にある森に飛翔船が降りていくのが見えた。
「……はっ! これは急いだ方が良さそうかぁ!?」
コーザは更にスピードを上げ、飛翔船が降りた森を目指して駆動機を爆走させた。
「倒したファンタズマを全部この森に埋めたの?」
「全部じゃない。まだ外に何十体か転がってる」
「……まぁ、今更拾いにいけなんて言わないわ。早くアカツキに乗って」
クロニカを迎えに来たレイコは複雑な表情で言う。
普通なら今日の大大収穫に歓喜するところだが、とてもじゃないがそんな気分にはなれない。
「……コイツらに、サメフの街は滅茶苦茶にされたのか」
クロニカが倒したファンタズマ達は街を一つ滅ぼしているのだ。それも数時間前にクロニカも訪れた場所を……
「……」
「クロニカ?」
『……行こう、クロニカ。それを望んだ訳じゃないが、彼らの仇討ちは済んだ。今はそれでいいじゃないか』
「……そう、かな」
意図せぬままにサメフの街の仇討ちを成したクロニカは沈痛な面持ちでアカツキに向かう。
「……こんな奴ら、埋めずにあのまま捨てておきゃよかった」
『……』
大勢のエトの血肉を啜った獣を土に埋め、あろうことか心の中で弔いの言葉すらかけそうになった。その事がクロニカの心に深い陰を落とす。
「……なぁ、レイコ」
「サメフには行かないわよ。あたし達に出来ることはもう何も無いの。当初の目的通り、さっさと聖都セフィロトに向かうわよ」
「……わかってるよ」
レイコはクロニカが何かを言う前に断言する。
「……何考えてんだか。そうだよな、もう何も出来ねえよな」
〈ヴーン〉
「おっ……」
苦笑するクロニカを励ますようにガルーダはそっと背中を押す。言葉こそ発さないが、頼れる相棒の優しさが伝わって思わずクロニカは表情を崩す。
「……ありがとよ、相棒。そんじゃ行きますか、セフィロトに!」
『うん、行こう。彼らの弔いは用事を済ませてからでも』
「ああっ、やっぱりだ! また会えたね、クロニカちゃーん!」
気持ちを切り替えたクロニカの背後から彼を呼ぶ声がする。
「……」
『……』
「……」
この声に聞き覚えがあったクロニカ達は揃って嫌そうな顔をした後、何も言わずにその場を去ろうとする。
「おーい、ちょっと! ちょっと待ってくれよ! クロニカちゃん! クロニカちゃーん!」
「……」
「クーロニーカちゃーん!!」
「ああ、くそぅ!」
無視に徹しようとしたが上機嫌に何度も クロニカちゃん と呼ばれ、ついに我慢の限界が来たクロニカは後ろを振り返る。
「何だよ!?」
「うおっ、可愛い! 急にそんな顔で振り向かないでくれよ、あまりの可愛さに心臓が止まっちゃうだろ!?」
「馬鹿にしてんのか!?」
「いやいや、マジだって。いやー、久しぶりに見たけどやっぱり可愛いね。惚れ直しちまうよ」
振り向いた先にいた赤毛の男 コーザはニカッと笑ってそんな事を言う。
『……』
「おっす、アーサルナントカ君。元気にしてたか? いつもクロニカちゃんに抱っこされて羨ましい限りだねー」
『……羨ましいなら交代するかい?』
「ははは、冗談だよ! 本気にすんな、ヘルメット君!」
コーザは煽るように笑いながらポンコツをペチペチと叩く。普段は温厚なポンコツも額に青筋のような光の線を走らせて嫌悪感を剥き出しにする。
「で、何だよ!? オレに用事でもあんのか!?」
クロニカはポンコツをたたくコーザの手を払い除けて用件を聞く。
「いーや、特になにも? 討伐者ギルドでファンタズマ100体討伐依頼ってのがあってさ! それを受けて来ただけさ!」
「受けたって……本気でそんな依頼受けてきたのか?」
「当然だろ、俺はプロだぜ?」
コーザはキラリと歯を輝かせながら即答した。
勿論、彼の言葉は嘘だ。プロだという自覚はあるがそれだけで蛮勇に走るつもりはない。彼には少しでも危険だと思った依頼は絶対に受けないと決めているのだ。
「……あ、そう。ご立派だね。でも無駄足だったな」
「ああ、本当にな。依頼にあったファンタズマはもう死体になってら。この森に来る途中で物凄い数のファンタズマの死体を見かけたが、それでも100体はいなかったな。依頼者が数え間違えたのかねえ?」
「……そういうことだろうよ」
クロニカはポンコツをギュッと抱き、コーザを警戒しながら会話を続ける。
「一応、聞いておきたいんだけどさ。あのファンタズマをやったのは」
「さぁな、想像に任せるよ」
「じゃあ、そうするよ」
コーザはこの期に及んで恍けるクロニカを見つめた後、ぐるりと周囲を見回してまた上機嫌に笑った。
「感動の再会を邪魔して悪いけど、あたし達は先を急いでるの。クロニカを口説くのはまた今度にして」
沈黙を貫いていたレイコはここでようやく口を開く。
「おっ、君はレイコちゃんだったかな? やっぱり君も美人だねー、その鋭い目付きがグッとくるよ」
「ありがと。それじゃあね、コーザさん」
「君達は女二人で旅をしてるの? 危ないなぁ、もし良かったら俺がガードマンになってやろうか? 報酬はタダでいいぜ」
「遠慮しとくわ。アンタより頼れるガードマンはここに居るから」
レイコはそう言ってガルーダを叩き、ふんと鼻を鳴らしながらアカツキに戻った。
〈ヴヴーン!〉
「おっ!? 何だ!? ひょっとしてそのバイクも喋るのか!?」
『彼は喋らないよ。その代わりに自分の意思で動いて悪者をやっつけてくれるけどね』
「へー! そりゃ頼もしい!」
「じゃあ、オレ達は急いでるんでここでサヨナラだ。またな、クソヤロー」
「俺はコーザだよ、クロニカちゃん。次に会う時は忘れられないように服に名前を書いてやるよ」
憎まれ口を叩いてこちらに背を向けるクロニカに、コーザはライターをカチカチと鳴らして言う。
「……やってみろ。その時はテメーの顔面に拳をくれてやるよ」
憎たらしいコーザを睨みつけながら吐き捨て、クロニカはガルーダと一緒にアカツキに乗り込む。
「あー、あー! そうだ、おーい! クロニカちゃん! ちょっと! 伝えたいことがあるんだけどー!!」
『……変身するかい?』
「無視しろ、無視。あんなヤツにお前の力を使いたくない」
「ファンタズマ達をやっつけたのが君じゃなかったらゴメン! でも、そいつに助けてもらった列車の乗客から伝言があるんだー!!」
徐々に後部ハッチが閉じていく中、クロニカに聞こえるようにコーザは大きく息を吸って叫ぶ。
「『金髪でオッパイが大きい変な兜を持ったブレイバーのおねーちゃん、助けてくれてありがとう!』だってさ!」
「はあッ!?」
『ぶふぉっ!?』
「もし違ったら、君が代わりに伝えてやってくれー! 金髪でオッパイが大きくて変な兜を持ったおねーちゃんにさ! はっはっ、頼んだよーっ!!」
「てめぇ、コラッ! ふざけんなーっ!!」
クロニカが顔を真赤にしながらコーザに振り向いたところで、後部ハッチは硬く閉ざされた……
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