「偉大なる白き主よ、我らが父よ。貴方の慈しみに感謝し、この食事を頂きます。我らが父、デウスによって……アーニマ」
「「「……アーニマ」」」
食前の祈りを済ませ、クロニカ達は用意された朝食に手をつける。
『……』
「大丈夫か? ポンコツ」
『ああ……うん。まぁ……多分……大丈夫』
何とか短時間で復帰できたもののポンコツは心ここにあらずといった調子で、遥か遠くを眺めながらクロニカの膝上に鎮座していた。
「ん、おいしー! シスター・ソロネのご飯は本当に美味しいね!」
「ふふふ、ありがとう」
「まぁ、確かに美味いっちゃ美味いけど……」
朝食のメニューはデウス芋のバター炒めとエリッサと呼ばれるホウレン草に似た野菜のクリームスープにパン。この孤児院ではこれが定番のメニューであり、祝日や祭りなどの特別な日でもなければ肉類はほぼ出されない。
「……肉が無ぇ」
「文句言わないの。デウス芋は栄養満点なんだから、お肉がなくても大丈夫でしょうに」
「そういう問題じゃなくてな、肉が食いたいんだよ!」
「いけませんよ、クロニカ。お肉ばかりを食べていては身体に穢れが溜まってしまいます。此処に居る時だけでも動物の肉を断って、身体を清き状態に戻すのです」
「うぐう……!」
『……何だか、いい匂いがするな』
食事の匂いにポンコツが反応する。ニョキッと手足を伸ばして机の上を覗き、キョロキョロと目を動かす。
「うおっ!? 何だ、それ!? 気持ち悪っ!!」
『気持ち悪いとか言わないでくれよ! 傷つくだろう!?』
「……本当に滅茶苦茶な性能してるわね、アンタ」
「ぽんこつお腹すいたのー?」
物欲しそうにテーブルの食事を眺めるポンコツを見て、ミーナはフォークに刺したデウス芋のバター炒めをそっと差し出す。
「はい、あーん!」
『あ、ありがとう……』
「おいおい食えるわけ無いだろ。ポンコツはエトじゃなくて聖異物だぞ?」
『うう、でも美味しそうな匂いは感じるし……ちょっとくらいは』
「いや、お前口が無いのにどうやって」
────バカンッ!
突然、大きな音を立ててポンコツの顎が裂ける。内部には光る舌と歯のようなパーツがあり、ミーナのくれたバター炒めをバクンと食べた。
「うおおおっ!?」
「あらあらっ」
「わー! 食べた!!」
『もぐもぐもぐ……』
「何だ、今の!? こわっ!!」
「ポンコツこええええっ!!」
「あはははっ、おもしろーい!」
年長のジャックとポークはポンコツが顕にした悍ましい口腔に怯えていたが、年少のミーナは目を輝かせて興奮する。
「……もう何でもありだな、ポンコツは」
「どう? おいしいー?」
『……美味しい!!』
ポンコツは嬉しそうに目を輝かせて言った。どうやらポンコツには食物を摂取する機能も搭載されているらしく、虫のような手をワキワキと動かして『もっと食べさせてくれ』と言いたげなリアクションを取った。
「ふふふ、ではポンコツさんの分も用意致しますね」
『……シスターも僕をポンコツと呼ぶんだね』
「だってポンコツだもんなぁ? 他に呼び方あるか?」
『ク、クロノス……』
「ぽんこつー!」
「うん、ポンコツが良いよなー」
『ううっ……!』
皆にポンコツと呼ばれて彼は大いに傷つく。
彼からすればバカにしているように聞こえるが、クロニカ達に悪感情は無い。むしろ『ポンコツ』という言葉は妙に語呂が良く、超高性能な聖異物でありながら何処かヘンテコで妙な愛嬌がある彼にはピッタリな名前であった。彼には大変不本意かもしれないが……
「はい、召し上がれ」
『あ、ありがとうシスター』
「ポンコツさんのお口に合うようで良かったです。まだまだ沢山ありますから、一杯食べてくださいね」
『……(モッチャモッチャ)』
「あはは、ぽんこつの食べ方おもしろーい!」
「そうかぁ……?」
「ポンコツの中ってマジでどうなってんだろ。クロニカ姉ちゃんは知ってるの?」
「うーん、オレにもよくわからないんだよな。ポンコツはこう見えて物凄い奴だからさー」
「そうねぇ、ポンコツはこれでも伝説級のお宝なのよね。やっぱり後でちょっとだけ中を見せてもらおうかしら……」
クロニカ達からは完全にポンコツ呼びが定着しており、他の呼び方を提案しても軽く流されてしまうだろう。ポンコツの話題で盛り上がる皆をシスター・ソロネはいつものように温かな笑顔で見守っていたが……
「……ああ、そうでした。クロニカ」
「ん? なんだよ、シスター?(もぐもぐ)」
「朝食を済ませたら少しお話があります。ポンコツさんと一緒に私の部屋に来てください」
『ん、僕もか?(モチャモチャ)』
「はい、貴方も一緒に。とても……大切なお話なのです」
彼女は静かにスプーンを置き、いつも閉じている目を開いて真剣な面持ちで言った。
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