異世界喫茶カフィノム

-ラスボス前店-
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【第17話】ゲームをしよう

公開日時: 2020年9月8日(火) 07:00
文字数:3,079

【カフィノム日誌】

 ヒラユキ君と話していると、それぞれの個人的な話になった。

 ちょっとした遊びをして、勝った方が負けた方のプライベート話をするってことになったけど、どんな中身だろう?





 今日のお客さん、ヒラユキ君がローブのポケットから数枚のカードを取り出した。

 それを8枚づつ分けて、アタシと彼の手元に置く。


「じゃあファイちゃん。ゲームをしよう」


「絵が描いてるわね。5種類?」


 それぞれ、炎、雫、草木、放射状に広がる光、黒い靄……闇、かな? そんなイメージなのはわかる。魔法の基本的な要素みたいだ。


「簡単に言えば、カードをお互いに出して、相性の良い方が勝つ。そういう遊びだ」


「なんとなくわかるけど、一応ちゃんと教えてよね」


「あぁ、もちろんだ。ちらちら聞いてたが、ファイちゃん頭良いらしいからな。パッと勝負してみたかったんだ」


 ワクワクしたように、ハハハと笑いながら言うヒラユキ君。アタシが戦術剣士って話を聞いていたんだ、耳聡いなぁ。

 それにしてもお金好きだから、こういう博打も好きなのかもしれない。でも、そういうので得るお金も、きっと全部貯金なんだろうなと思う。


 とはいえ、今回の賭けるモノはお互いの情報。お金じゃなくて良かったと心底思った。アタシにそんな持ち合わせはない。


「基本的にはカードの柄の通りの相性なんだが、光と闇が特殊だ。いいかファイちゃん――」


 炎は燃やす草木に強い。草木は自らを育たせる雫に強い。雫は水だから炎に強い。

 この三すくみは間違いじゃなかった。説明を聞くに、次がこの勝負の目玉らしい。

 闇はこの炎、雫、草木そのすべてを覆い、破滅させるからすべてに勝つ。だけど、唯一光に負ける。

 だけど光は、すべてに恵みをもたらすから先の三すくみすべてに負ける。

 同じカードが出れば引き分け、とのことらしい。


 つまり、光と闇をどういうタイミングで切るかというのがこの遊びの肝だ。アタシにはそう思えた。

 カードの枚数、8戦して勝数が多い方が敗者のプライベート話を聞くという取り決めをした。


「って流れだ。オーケー?」


「大丈夫よ。腕が鳴るわ!」


「オレも楽しみだぜ。ファイちゃんとは手合わせしたかったのさ。個人的にな」


 今日と明後日来るから、その度にやろうとヒラユキ君が提案してきたから、アタシはそれを承諾。2度の勝敗がある。

 戦術剣士のアタシと頭脳戦か……ヒラユキ君も結構賢そうだけど、負けない。


 彼と遊ぶことが聞こえたようで、ハルさんとシキさんも近くにまで来て様子を見ていた。

 隣のテーブル席に2人で向かい合って座って、アタシ達をジッと見ている。

 今日はエスティアちゃんとゼールマンさんは来てないみたい。2人とも暇だから来たのね……。


「さて、じゃあ始めようか?」


「その前に! お互い、手札をしっかり見せましょう? あと、ローブ脱いで」


「おぉっと、抜かりないねぇ。いいぜ、そういう疑念は持った方がいい」


 ヒラユキ君がローブを脱いで椅子に掛ける。中着まで黒で、闇に溶け込む暗殺者って感じがした。

 中着に何かを隠せるポケットはない。これでズルいことはできないはず。折角だから、ガチンコで頭脳戦をしたいし。


「じゃあ、カード公開な」


「えぇ、間違いないか確認しましょ」


 お互いカードを見せ合う。間違いなく、5種類8枚だ。炎、雫、草木が2枚ずつ、そして光と闇で並んでいる。


「よーし、いくぜファイちゃん」


「えぇ、勝負よヒラユキ君!」


 カードを手に持ち、扇状に広げる。

 なんだか、すでに楽しかった。誰かとこういう頭脳戦をするのは初めてかも。

 プライベートな話題が賭けの中心だから、ちょっとドキドキもする。それにアタシとしては負けたくない。戦術剣士の名に賭けて……アタシ、賭けるモノひとつ多いなぁ。


「カードは交代交代で出し合うぞ。今回はオレから出すぜ。次はファイちゃんが先だ」


「なるほど、それが読み合いになるのね」


「察しが良いな。そう、同時とか素早く出すとかだと頭使えないだろ? それじゃあつまんねぇからな」


「わかったわ。じゃあ、どうぞ」


 促すと、ふーむと考えながらヒラユキ君は1枚出す。アタシから見て、『右から2番目』のカードだ。

 彼、早速仕掛けてきたわね。


「アタシはそしたら……コレよ」


 カードを出す。そして、表に返すのは同時だ。

 ズル防止のため、アタシのはシキさん、ヒラユキ君のはハルさんに開けてもらうことになる。そして、2人が「せーの」でカードを表に返した。


「おっ……なるほど?」


 結果はアタシが炎、ヒラユキ君が光だった。勝敗はアタシの勝ち。彼の自爆という形で1戦目が終わった。


「やるねぇ。てっきり、勝率の高い闇で1勝もぎ取りにくると思ったんだが」


「や、ヒラユキ君、カード混ぜなかったじゃない。アタシから見て右から2番目を取ったから、光だなーって」


「おぉっと、これはオレがバカだったか? っていうか、最初に見せ合ったのはこのためか!?」


 焦った様子で、急いで手札を混ぜるヒラユキ君。

 実は、そうだ。ズル防止のためと、相手の手札順を覚えておくためのアタシの布石だった。

 警戒して混ぜたらそれまでだったけど、特に何もしなかったからそこに付け込んだ。

 こういう些細なことに策を打つのがアタシは好きだ。


「2戦目はアタシからね。じゃあ……これで」


 すっとカードを置く。そして、ここでも一手だ。


「アタシ、雫を置いたから」


「うっ! そういうことするかい?」


 ヒラユキ君はたじろぐ。アタシはニヤついていた。

 揺さぶりだ。彼はもう光を切っているから、どうでてくるかな?

 アタシの中で実は答えは出ている。


「くっ、賢い奴はそうやって惑わしてくるよな……」


 悩みながらも、彼もカードを出した。

 そして、開く。


 ――結果は、アタシが光。ヒラユキ君は闇だ。


「わぁお。やりやがる! 思いっきり噓じゃんか!?」


「っふふ。絶対勝ちに来ると思った!」


 ここでさらに1勝もらう。しかもタイミングを間違えれば負けやすい光も処理した。圧倒的に有利だ。


「いきなり負けちゃったもの。次はヒラユキ君、絶対勝ちたいなーって思ってるに違いないなって。なら、闇でしょって読んだのよ」


「やるねぇー。最初から切り札出していく思い切りもすげぇよ」


 言った通りだ。アタシは光、彼は光と闇をもう切った。

 それなら、3枚目はもう決まっている。


「はい、アタシの勝ち」


「だよなぁ……そりゃ勝ちにくるわな」


 3戦目、ヒラユキ君は炎。アタシは容赦なく闇を出して勝った。向こうには光がないから遠慮なく切れた。

 やっぱり、特殊なこの2枚が勝敗を分ける遊びだなぁと思う。


「ちぇっ、これじゃあ負け戦だな」


「うふふっ! 最初から流れ良かったもん、悪いわね!」


 4戦目。アタシは雫、ヒラユキ君は炎でまたアタシの勝ち。4連勝だ。

 5戦目は草木をお互い出して、引き分け。これで、今日の勝敗がすでに決した。その後は消化試合だ。


「あ、あれ?」


「おぉいおい、ファイちゃん。ちょっとは手加減してくれよなぁー」


「あ、ご……ゴメン。ヒラユキ君慣れてると思ったから、本気でつい……」


「慣れてるつもりなんだがな。や、いいぜ。ファイちゃんの賢さに触れられて良かったよ」


「またそういうこと言う。じゃあ、ヒラユキ君?」


「おぅ、オレの何が知りたいんだい?」


「今日はじめに聞いた通りよ。ヒラユキ君の仲間のことを教えて?」


 これを聞けば、詰む前にどうして魔王討伐をしようと思ったのかも聞けると思う。

 単純に、彼のことはもっと知りたい。常連だもの。調子のいい人だけど、ここで働く以上は理解したいと思っている。


 どんな話が聞けるかな?

 何故か、ハルさんもシキさんもワクワクした様子で椅子をヒラユキ君側に向けていた

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