【カフィノム日誌】
今日はヒラユキ君の接客になった。彼とちゃんと話すことになるのは初めてだ。
彼は飄々としてるのもあって、まだどんな人なのかがわからない。ちょっと緊張する。
出来上がったシキブレを持って、ヒラユキ君のところへ向かう。
ついでだったのか、アタシのぶんも用意してくれた。アタシは一応タダ飲みなんだけど、お金は本当にいいのかと後ろめたくなってしまう。
一昨日の夜にふと聞いた時には、「ファイちゃんは頑張ってくれてるからねぇ」とだけ言ってくれたけど……。
「お待たせしました。シキブレです」
「ありがとうよ。ん、2杯?」
「なんか、あそこの2人がヒラユキ君と話したら? って、もてはやしてきたのよ」
「あぁ、なるほど。いいぜ。でも、ファイちゃん自らの意思だったら嬉しかったんだけどなぁ」
自然に言ってくるヒラユキ君。なんというか、エスティアちゃんが人たらしの暗殺者って言う理由はちょこちょこ出ている気がする。
「まぁ、座るわね」
ヒラユキ君の向かいに座る。「隣じゃないのかー」なんて言っていたけどスルーした。
自分なりに警戒心はある。常連じゃなければあんまり信用はしたくないタイプの人だ。
「や、でも賢いぜ。オレ、暗殺者だし」
「それよ。アタシはそっちの理由で向かいに座ったの」
「ってことは、男といるのに抵抗はないのか?」
「うん。お客さんだし、そこに抵抗あったら接客やれないでしょ」
「おぉ、プロ意識。そういうの好きだぜ、オレとは違うなぁ」
適当そうにアタシを褒める。息をするように好きみたいなことを言う人だ。
軽い人よね、とっつきやすいと言えば聞こえはいいけど。
とはいえ、話すことには変わりない。振りたい話題も決めてきた。
「アタシは北部なんだけど、ヒラユキ君は東部出身?」
「おっ、正解。もしかしてオレのこと気になってた?」
「お客さんとしてね。名前でなんとなくそうかなーって」
切り返しは我ながら早かった。いちいち気にしていたら話が全然進まない。軽く流しておく。
東部は少し変わった名前の人が多い。ヒラユキ=イルマって名前はこの中だと珍しいから、そこからの予想だ。今日は戦術剣士としての読みが光りそう。
聞きたいことは聞ききった方が、この後の話が弾みそうだ。
「お金好きなの? いつもそういう本読んでるわよね?」
「まぁな。でも、魔王討伐はカネ目当てじゃないぜ」
と思っていたら、アタシの予想は大きく外れた。
てっきりアタシみたいに、そういう理由で旅人になってここまで来たのかとばかり。
というか、アタシが邪(よこしま)か? 俗っぽいとは自分でも思うことがある。
「カネは溜め込んでるからな。オレ、貯金が趣味なんだよ」
「貯金が、趣味?」
「変わってるだろ? でもいいぞー、カネは良いもんだ。金貨はオレを裏切らないからな」
「ま、まぁモノだしね……そういえばヒラユキ君、他に仲間いるんでしょ?」
アタシはそこが気になっていた。来るのはいつも彼だけだ。
町にいるんだろうなーって勝手に予想してるけど、なんで彼だけなのかな?
「多分、ファイちゃんが思っている通りだぞ。喫茶店はオレしか興味なくてさぁ」
「結構冷めてるのね。じゃ、じゃあ町にいるんだ?」
「その通り。道が開けたら呼んでくれ、だとさ。適当だよなぁーオレに似て」
半分笑いながら言うヒラユキ君。抜け道の話は小声だった。シキさんに聞こえるとまずいのは彼もわかっているらしい。
「今は宿をしばらく貸し切って家みたいにしてる。あ、俺の貯金から出したんだぞ?」
「使いどころだったわね。他の2人は町で何を?」
「アイツらは酒場に通い詰めだろうな。オレら、全員20歳だからさ」
お酒を飲んでも良い年齢だ。アタシは2年ほど足りない。
そっか、同じくらいって思ってたけど年上だったんだ。
「へぇ……せっかくだから、ヒラユキ君や他の2人の事も教えてよ」
コーヒーに口をつけて、軽く聞く。結構話にはなっている。
酔うって特殊体質なのはハルさんくらいだから、初接客なのに雑談として成り立っているのは結構すごいかも。
でも、彼が未だにコーヒーに口をつけないのはなんでだろう?
「アイツらのこと? 別にいいが、ファイちゃん。それならちょっと遊ぼうぜ」
「えっ? いきなり何?」
「賭けをしよう。ファイちゃんが勝ったらオレのことを話す。オレが勝ったらファイちゃんのことを話す」
そう言って、ヒラユキ君は黒いローブのポケットから、1枚1枚が厚い紙……カードを数枚取り出した。
遊びに賭け、って言ったよね……そのカードでどんなことをするんだろう?
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