朝から各国を巡りやることの無くなった俺は少し早めに食堂へと入り、ゆったりダラダラと昼食をとり、ボーっとしながらコーヒーを嗜んでいる。
やべぇ、マジでやることがねぇ。
転移が出来るお陰なのかなんなのか、やろうとしている事が直ぐに終わってしまうのだ。
何か、もっと別の目標がないとダメだなぁ。
それと案外人間には移動にかかる時間とか、出発するまでの準備にかかる時間とか、そういった無駄な時間というのも必要なのかもしれん。
魔術のお陰で準備も移動も一瞬で済むから想像以上に時間が余る。
無駄な時間も大事!
何か野心や欲があればもっといろいろやりたい事が浮かぶのだろうが、どうせ死ぬと決めているのにやりたい事なんて浮かぶ訳がない。
だって死ぬのだから。
どうやってこの暇を潰すか。
結局のところ娯楽がなさすぎて食うか寝るかしかやることがないんだよなぁ。
前世で憧れた食っちゃ寝の生活は出来る。
だが娯楽がなかったらただの拷問だと思う。
テレビで見た刑務所の独房とか反省室みたいなのもこんな感じのお仕置きなのだろうか……、他の囚人と会わずに済んで、作業もせず一人になれて、三食運んでくれて食っちゃ寝出来る、あれほど羨ましい環境はないと思ったのだが……、罰を与える施設なのだからあれはあれで地獄なのだろうな、きっと。
「あっパパ帰って来てたのー、おかえりなさーい」
考え事をしていたらセレネとエマが食堂へとやって来た。
仲が良いのはわかるが二人揃って何をしていることやら。
「ああ、ただいま。エマとセレネは二人揃って何をしているんだ?」
「そ、それはいろいろなの」
「う、うん、いろいろあるのよね、エマちゃん」
おいおい、なんだよ二人してその怪しすぎる間は。
俺には秘密か?
女同士の秘密に首を突っ込むほど野暮でもなければ蛮勇でもない。
まぁいい、知らん振りしてほたっておこう。
つーか本当に暇なんだよなぁ。
「私がどこか、ご案内いたしましょうか?」
あっ、ディアブロ、お前いたのね。
つーか、有難いお誘いだがお前に案内されるのは嫌だ。
何が楽しくてイケメンに案内されながらお出かけしないといけないんだ。
ストレスでしかない。
「ディアブロ、ちなみに案内とは、どこをだ?」
「アルス様が行きたいところがあればどこでもご案内いたします」
おい、結局一番大事な行き先を決めるのは俺任せなのかよ!
なんか面白そうなところがあれば行ってみたいがこの世界の観光スポットなんて何も知らんからなぁ。
つーか俺はもともと観光とかそういった物に全く興味がない。
花や紅葉を見て感動するヤツの気がしれない。
虫が寄ってくるから嫌なんだけど、ぐらいの感覚だ。
虹を見ても、あぁ虹だなぁって感じだし、壮大な景色なんて一回見て、おぉーと言ったら終了じゃないか、それ以外に何を感じろというのだろう。
それ以外も大体同じだ。
『騙されたと思って一回見て見なよー』と言われて何回騙された事と思っているんだ。
『一回やったらハマるからやってみなよー』と言われて何回騙されたと思っているんだ。
実際に見て体験する事に意義はあるかもしれないが、そういった物で人生左右された事がない。だから尚更だ。
どこかに行く時間があるぐらいならゲームしたり漫画読んだりしてたな。そのほうが有意義だ。
とはいえ、大好きな声優さんやアニメのイベント、聖地巡りなんかはテンション上がりまくりだったが……。
今はそんなゲームや漫画もなければ聖地もない。
どこかに行く? どこに行く?
別に行くとこがねぇよ。
といってダラダラすることも何故だが出来ないんだよなぁ。
「アルス様、どこか行きたいところはございませんか?」
行きたいところ? んなもんない、この世界にはない。
しいて言うなら前世、別次元か?
とはいっても別次元には行けんだろ。
つーか行ったところでこちらへゲームや漫画を持ち込めんだろ。
別次元に移動なんて出来る訳はないからなぁ。
「申し訳ありませんがそちらの世界に行く事もそちらの世界の物を持ち込む事も出来ません」
やはり無理かぁ。
なんでも設定なこの世界なら別次元にもいけるかもと思ったんだがなぁー。
「壁がございますから、私では無理でございます」
この世界を空から見渡した時にもあったな、謎の壁。
結局あれはなんなのだろうか?
壊そうと思ったら壊せたのか?
用があるならぶっ壊すけど、壁の向こうになんか興味はなかったから、そんなこと考えもしなかったな。
なんなら試しにぶっ壊してみるか?
なんか新しい物でも発見出来るかもしれんな。
……でも、変な影響ありそうだから止めとくか。
地球でいうオゾン層ぶち壊す的な事になったら大変だ。
壁があるというなら何かしら意味があるのだろうから壊すとしたらその意味がしっかりとわかってからだな。
うん、そうしよう。
となるとやっぱ行きたい所も行ける所もないではないか。
「ドワーフの国などいかがでしょうか?」
ドワーフ?
チビくてゴッツイ体をした、鍛冶ヤロウのことか?
俺は魔術でいろいろ作れるから、鍛冶に興味はないぞ。
こう見えて俺は家事なら興味あるけどな。
伊達に一人暮らしが長かった訳ではない。一通り出来るしな。
料理なんかも好きだから、家事ヤロウなら会いたいが鍛冶ヤロウには何の魅力もない。
「アルス様、『精霊の川』に興味はございませんか?」
そういえばあったな、そんなヤツ。
聖剣を作る為に必要なオリハルコンを精製する時に使うとかなんとか……。
多少なりとも精霊王とやらの情報もあるかもしれん。
そうなると行ってみるだけ行ってみてもいいかもしれないな。
「よし、ではドワーフの国とやらへ案内しろ。セレネとエマはどうする? 一緒に来るか?」
「パ、パパと一緒に行きたいけど、エマは用事があるのなの」
「わ、私も用事があるから」
二人揃って何故にそこまで動揺しながら拒否をする。
まあ、あえて突っ込まないが。
「んじゃ、ディアブロ、ドワーフの国まで案内を頼む」
「かしこまりました」
俺はディアブロに連れられてドワーフの国へと向かったのだった。
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