これまたなんか、えらく賑やかなことになっとるな。
時刻は夜明け方。
俺は散歩がてら五階のレジャー施設に来ていた。
アスレチックコースで爆走しまくる白虎、空で火を吐きながら優雅に飛ぶ朱雀、水飛沫を上げながら流れるプールを逆走している青龍。
こいつ等のために用意された施設ではないのだろうかと疑ってしまうな。
おっ、俺に気づいた朱雀が降りてきたので腕にとまらせる。
朱雀は鷹ぐらいのサイズにまで成長しているので気分は鷹匠だ。
一度こうやって腕に鷹とか乗せてみたかった。
ピヨピヨ言っていたのに鳴き声がピーになったんだな。なんだか勇ましくて格好いいぞ。
俺が撫でてやると機嫌良くまた飛んでいった。
テンションを上げるのはいいが火を吐くのは程々にしなさい。
バカみたいに広いから忘れがちだがここは室内だ。
室内で火は危険だからな。
パッと目線をやるとフリーズして動かなくなったのは白虎。
さっきまでの走りまわっていた勢いはどこへ消えた。
なぜ俺と目があっただけでガクブルしている。
そんな必死に存在感を消そうとしても普通の虎よりデカくなった体は隠しようがないぞ。
俺が近づくとサッと仰向けに寝転がって腹を見せる服従のポーズになった。
ようやく俺にも懐いたようだ。
これまでの反抗的な態度は忘れてやるとしよう。
わしゃわしゃと撫でてやった。
嬉しそうに尻尾が揺れている。
よし、遊んできていいぞ。
ガルと返事をした後、走り周りに行った。
猫から虎に進化したと思っていたが、あれは恐らく虎の姿をした犬だ。
一心不乱に流れるプールを逆走して泳いでいるのは青龍だ。
なぜそんなに頑張っている。
何がそうさせているのだ。
俺に頑張っているところをアピールしているのだろうか?
とりあえず挨拶だけでもしとこう。
よ、みんなとは仲良くやれているのか?
バッシャー!
俺に水を飛ばしてきやがった。
ほう。
俺は指をデコピンの形にする。
水の中なら負けないと強気な態度の青龍。
俺はすかさず魔術を使用する。
どんどん俺の方へと引き寄せられる青龍。
えっなんで?いやいやみたいに体を降ってる。
そうしているうちに青龍がどんどんと引き寄せられる。
引き寄せられた先にある到着地点はデコピンの発射準備を整えた俺の手だ。
発射!
パァーンッ!バシャバシャバシャ!
吹き飛んだ青龍は水面を三度ほどバウンドして水面に浮いた。
よし!お仕置き完了。
青龍が飛ばしてきた水は魔術でバリアを張って防いだので俺は一滴たりとも濡れてはいない。
ちなみに青龍を引き寄せた魔術は磁石をイメージして作った魔術だ。強制的に俺のデコピンの射程圏内まで引きずり込む。デコピンと同時に魔術を解除すれば相手は吹き飛んでいくわけだ。
うん、便利。
今後もう一匹増えるとなるとここも更に賑やかになりそうだ。
ふむ、まだ時間はあるなぁ。
レジャー施設を一通り見た俺は地下へと転移した。
来たのは地下三階のキッチンだ。
どこの工場だ?ってぐらい広い空間をところ狭しといろいろな魔族が作業している。
至る所で指示を出す声が響き渡り活気に溢れている。
結婚式の時に全員集めたが魔族が一万体?一万人?以上はいた気がするからなぁ。
その全ての食事を一手に任されているだけのことはある。
魔族は食べなくても寝なくてもいいのだが別に食欲や睡眠欲がないわけではない。
我慢は良くないしな。
いきなり暴走されても困る。
そんな訳で、俺が三食きっちり食べるように命令したからだ。
この光景を見るとなんか悪いことをしたような気がする。
毎食一万食以上の準備か。
ゾッとするな。
俺に気づいた魔族が俺に近づいてきた。
「これは、アルス様。お初にお目にかかります。私はディアブロ様の仰せられ、こちらで料理長を勤めさせて頂いております。こんな早朝にお越しになられて如何なさいましたか?」
「いや、特に理由はないのだがな。なんとなく一度見てみたくなったのだ」
「お出しした料理に満足頂けていればよろしいのですが」
「いつも美味い料理を悪いな。堪能させて貰っているぞ」
「ありがたきお言葉」
「セレネも喜んで食べている。いつもありがとう。これからも頼むぞ」
「勿体無きお言葉。これからも精神誠意を持ちましてお食事の準備をさせて頂きます」
「いままで通りでかまわないぞ。日々最高の食事をありがとう。お前には『ニスロク』の名を与える。これからも頼んだぞ。料理長ニクロス」
「はっ、有り難く頂戴致します。このニクロス、命にかえましてもアルス様に尽くさせていただきます」
いや、だからこれまで通りでいいと言っているのだがな。
まぁやる気になってくれたのなら良しとしよう。
「お前ら今日は朝から豪勢にいくぞ!気合入れ直せ!朝食までに間に合わせるんだっ!!」
「「「はい!!!」」」
なんか凄い声が聞こえているが無視をして転移した。
行くところもなくなったのでなんとなく露天風呂にきた。
何故か露天風呂ではラミア率いるメイド軍団が待ち構えていた。
しかも全員『裸にエプロン』でだ。
「いらっしゃいませ、アルス様」
なにが『いらっしゃいませ』だ。
なんのサービスをやる気だ。
俺は迷うことなく転移して逃げた。
一度に複数の裸の女性からのサービスを楽しめるほど屈強な精神力など持ち合わせていない。
そんなハーレムモードはいらん。
なにせ元はシャイで有名な日本人だぞ。
ラッキースケベぐらいがちょうど良い。
まかり間違って俺があんなところに飛び込んだら間違いなく喰われる。
いろんな意味で喰われる。
結果行くところがなくなった。
今いるのは地下四階の闘技場。
なぜかと言われても理由はない。
ただ咄嗟に転移で逃げたのがここだったからだ。
今更部屋に戻ってもなぁー。
軽く朝風呂ぐらいが時間を潰すのにはよかったのだが。
ガチャン!ガチャン!ガチャン!
ん?謎の金属音?
おぉーー!!!
『鎧くん』ではないか!
動いている所を始めてみた。
いつも城の至る所に微動だにせず配置されている鎧くんだ。
絶対に来ない城への侵入者に対して二十四時間体制で警備にあたってくれている鎧くんだ。
その数およそ百。
一糸乱れぬ統率のとれた行進を見せてくれた。
全長五メートルの鎧くんの行進は大迫力だった。
ブラボー!いくら拍手しても足りんぐらい感動した。
いつもありがとう。鎧くん。これからも頼むぞ。
鎧くんは俺に一礼すると一糸乱れぬ足並みで闘技場を後にしていった。
俺の暇つぶしの相手にだけに来てくれるとは本当にありがとう。
お陰でやる気が回復した。
朝の散歩はこれぐらいにしとくか。
俺は玉座の間へと転移した。
「おはようございます、アルス様」
「ああ、おはよう」
「本日はお早いのですね」
「昨日は昼に少し寝たしなんとなくな」
本当にただの気分転換だったんだが、何気にいろんなところを見て回るのも悪くないかもしれないなぁ。
ただし朝の風呂は危険だ。
そのうち確実に襲われる。
そうだ、セレネを連れて行こう。
さすがのメイド衆もセレネがいれば大丈夫だろう。
「セレネを連れて風呂に向かう。その後食事にするから準備を頼むぞ」
「かしこまりました」
俺は部屋へと転移した。
まだ寝ぼけていたセレネを捕まえ風呂場へと行った。
結果、全裸の魔族が増えていた。
「お待ちしておりました、アルス様」
「何故お前がここにいる、ディアブロ」
「準備しろと仰ったのはアルス様ではありませんか」
わかっている。こいつ等がダメなことぐらいわかっている。
俺は食事の準備と言ったのであって、お前が裸になる準備をしろとは言っていない。
俺はイケメンだろうが男の裸に興味はないのだよ。
毎回毎回なんでこうなる。
「ご飯まだですかぁー。ぐぅー。」
「先に風呂にするぞ。起きろ」
「ぐぅー。」
てい!
バシャーーン!
プカーーー
風呂に投げ入れたのに無反応?死んだか??
飛び起きるかと思ったんだが、そ、そのまま寝ているだと。
水面から見えているのは背中だ。
顔は完全に浸かっているぞ。
まじか。
ついにセレネは人間をやめたのか。
そのまま放置すること三十分。
普通に起きた。
「あ、みんなおはよう。ってなんで私お風呂の中にいるの?」
「お、おう、おはよう」
「お風呂の中で寝ると気持ち良いですねー、しりませんでした」
「そ、そうなのか?のぼせるぞ?」
「やっぱり水の中は呼吸できるんですねー。しりませんでした」
「それは俺も初耳だ。風呂で呼吸はできんぞ」
「えーできますよ」
「えっ?できるの?」
やはりセレネは人間をやめていたらしい。
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