昨日は本当に疲れた。
夜の食事は気分が乗らずあまり喉を通らなかった。
やっぱ苛つくと良いことはない。
セレネには悪いがあのアホ二人の事は忘れることにさせてもらう。
予定ではドラゴンの討伐に向かう予定だったのだが、これでもかってぐらい気分がのらない。
なんというかやる気がごっそり持っていかれた。
あんなアホを相手に世界平和とか願っても叶いそうにない。
いっそ滅ぼしたほうが平和になりそうだ。
前世の歴史で出てきた独裁者が大量虐殺なんてやったのも同じ理由かもしれない。
話し合うのが面倒くさく。
だったらいっそのこと、ってことだろ?
めちゃめちゃ気持ちがわかる。
いかん。
思考がめちゃめちゃ魔王っぽくなっとる。
俺、魔王なんだけど。
いかん。
忘れると自分に言い聞かせたのに半端なく影響されとる。
なんかスカッとさせないといかんヤツだ。
海に向かって思いっきり特大の魔術でもぶちかましてやろうか。
ダメだ、スカッとはするが多分知らないところで大災害が起こる。
なんかいい方法はないものか。
「ボーリング大会などいかがでしょうか」
「いきなり現れて勝手に俺の心を読むんじゃない、ディアブロ」
俺の心を読むヤツ代表、俺の専属執事のディアブロ。
「ストレスが溜まっていらっしゃるのかと思いまして」
「その通りなんだが、的確に心を読まんでいい」
確かに何かやったほうが気が紛れるか?
「今日は思い切って一日、遊び倒すか?」
午前中はディアブロの意見を採用。
ボーリングだな。
昼はどこか外で食べるのも良いかもしれん。
どうせ食事は空間魔術でも転移でも運べるだろう。
午後からは……その時の勢いで考えよう。
「そうと決まれば朝食後、希望者を集めレジャー施設に集合だ」
「かしこまりました」
やはり楽しい予定が詰まっているのは良いな。
ワクワク感がある。
仕事や人からの頼まれ事なんかで予定が埋まるのは勘弁してもらいたい。
妻の両親への挨拶なんて以ての外だ。
いかん、いかん。
せっかくの楽しい気持ちが台無しになる。
昨日の夕食は楽しめなかった分、朝食をゆっくりと楽しく過ごすとしよう。
「セレネが起きたら食堂へ連れて来てくれ、俺は先に食堂へ向かう」
俺は一足先に食堂へと行った。
「コーヒーを頼む」
俺はいつもの椅子に座り転移してきた苦目のコーヒーを味わう。
ふう。気持ち一つで味が変わるから不思議だ。
コーヒーが美味い。
「おはよー、アルス」
のんびりコーヒーを飲んでいたらセレネも起きて来たようだ。
「では朝食にするか」
「はーい、いただきまーす」
ほう、どうした?
珍しくナイフとフォークを普通に使って食事をしている。
当たり前なんだがいつものセレネからすると当たり前ではない光景だ。
「なんですか?その顔?私がナイフとフォークを普通に使ったらいけないんですか?」
「いいんだが、セレネらしくないな。何かあったか?」
「女性らしくしないとアルスから嫌われるかもしれないじゃないですかぁ」
「お前場合は今更だからな。気持ち悪いから取り繕うな。もっと美味そうに好きに食え。作ってくれたニクロスにも悪い」
「ふふ、はーい、いただきまーす」
だからと言って誰が手掴みで食べろと言った。
お前は野生児か。
まあセレネらしいんだがな。
やはり気分で味が変わるもんだな。
今日の朝食は一段と美味かった。
「さてと朝食も食べた事だしレジャー施設へ向かうぞ」
「ドラゴンを倒しに行くんじゃなかったんですか?霊獣さん達は連れて行きませんよー」
「ドラゴン如きいつでも狩れる。今日は一日遊ぶ事にした」
「えっ、何して遊ぶんですか?何するんですかあ?」
なかなかのテンションの上がり具合だな。
「行けばわかる。行くぞ」
俺はセレネを連れてレジャー施設へと転移した。
「まだ少し早かったか。みんな来るまで霊獣の様子でも見とこう」
そう言った矢先、俺たちに気づいた朱雀が降りて来た。
が、小さくなっている?
俺が右手を出すとスッと右手に止まった。
うん、見た目は朱雀だ。
俺の顔を見ながらどう?ってアピールしている。
グル!
おお白虎も来たか。
ってこいつも小さくなっている。
像並のサイズがあったのに中型犬サイズになっている。
なんでだ?
俺が首を傾げていると白虎は少し距離をあけてからグル!と一鳴きした。
ぐんぐんと体がデカくなり像サイズになった。
おお、体のサイズが変えれるようになったのか!
凄いぞ!
朱雀もか?
ピー!
なるほど凄いぞお前達!
周りをよく見ると同じく中型犬サイズに成長した麒麟、朱雀と同じサイズに成長した鳳凰がいた。
プールでは相変わらず青龍が逆走している。
その横を泳ぐ応龍。
亀は、と。
ニメートルサイズになった霊亀の上に体を五十センチほどに体を縮めた玄武が乗っている。
リアルな亀の上にのる亀のキャラはあざと過ぎるぞ。
さすがだ。
体のサイズを変えれるのは良いな。
お陰で撫でやすくなった。
「アルス様、準備が整いました」
「よし、行くか。セレネ」
「はーい」
周りを見たら凄いことになっていた。
「お前等みんな来たのか?」
「希望者と仰っいましたので希望者でございます」
まさか全員来るとは思わんだろ。
十人、多くても二十人ぐらいだと思っていたぞ。
どうするんだこの人数。
数日がかりでやるか?
いや飽きる!俺が飽きる!
「よし、よく集まってくれた。これより第一回ボーリング大会を行う!」
「「「ウォォーーー!!!」」」
「一つ提案がある。お前らには悪いが二つのグループに分けさせてもらう。名前がある者は第一グループへ。まだ名がない者は第二グループとする。第二グループ優勝者には俺が名前を授けよう。どうだ?やるか?」
「「「ウォォォォォ!!!!」」」
「「「名前だァァァ!!!」」」
「「「名前がもらえるぞぉ!!」」」
なんなんだ、この盛り上がりは?
「アルス様、魔族にとっての名前とは人族で言う所の爵位の上位版とお考えください」
そうなんだ。知らなかった。
勲章どころか賞状ぐらいに思ってました。
名前を貰うといきなり上位貴族になるわけね。
なるほど、そりゃテンション上がるな。
言った以上は撤回はしない。
「必ずルールを守ること、賭けは許すが不正は許さん。熱くなるのはいいが暴力は無しだ。いいな!」
「「「はっ」」」
こうしてグループわけをしたわけだが。
俺、セレネ、執事筆頭ディアブロ、メイド長ラミア、料理長ニクロス、司書官メティス、掃除番エイア、そして城のセ○ムこと防衛担当の鎧くん。
ヤバい鎧くんのサイズを考えてなかった。
なんせ五メートルを超えてるからな。
どう考えてもボーリングなんて出来ん。
ここでデカイから無しとは言えない。絶対に落ち込む。
お、そういえば霊獣共は自由にサイズを変えていたな。
アイツ等にやれて俺にやれない理由はない。
俺は魔術を駆使して鎧くんにスキルを付与する。
与えたのは【サイズ変更A】のスキルだ。
「鎧くん。悪いがスキルを付与させてもらった。サイズを変更してみてくれ」
鎧くんは試行錯誤しながらスキルを使う。
一度ニ十センチ程に縮んだが俺達と同じぐらいのサイズになった。
俺達と変わらないサイズもかっこいいが、小さな鎧くんも可愛くていいな。
「よし、それでは始めようか」
俺たちはボーリング場がある施設へと入った。
これまた。
中世ヨーロッパなこの世界観はどこへ行った。
完全なボーリング場ではないか。
前世の記憶まんまのボーリング場だ。
五十レーンぐらいはあるのか?
各席にモニターも付いている。
受付の横には貸靴、その横には何故か軽食やドリンクを販売している店が並んでいる。
なんじゃこりゃ。
いや、深く考えたら負けだ。
俺たちは受付へと行くと各々靴を借りて一番レーンへと移動した。
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