城や街を覆っていた黒い霧はなくなった。
今は住人や兵士の回復を待っている。
「結局は黒幕と思われる奴等は全く姿を現さなかったな」
街の結界を解いたり、黒い霧の濃い城へと向かったり、黒い霧そのものまで取り除いたのだ。
邪魔をしに来てくれてもいいのではないかと思ったのだが虫がいい話しだったらしい。
襲って来てくれたほうがいろいろと情報を集められたんだけどなぁ。残念だ。
「それはそれとしてだ。何故に俺に引っ付いている?」
「だってアルス様が『側にいろ』と」
確かに言ったな。言った。
危険だから決して離れるな、側にいろと。
「結果としてなにもなかったが危険な状況だったからな」
「急に抱きしめてきたり、危険な状況から守ってくれたり、『ずっと側にいろ』だなんて……私は愛されているのですね」
なんかいろいろ盛られとるぞ。
なんでどいつもこいつもチョロインしかいないのだ。
ここではっきりと否定しとかないとまた食堂に巨大なウェディングケーキが用意されてしまう。
めっきり出番の少ないオリハルコンの剣の出番が再び訪れてしまうではないか。
「言っておくがそういった感情は全く持ってないからな。俺は俺のためにやっているだけだからな」
「私の気持ちなんて全く考えてなく、自分の考えを貫いて行動する。まさしく書物にあった魔王の姿ですね。そんな魔王に私も攫われるのですね。キャー」
解釈がおかしい。
明らかに最後の部分がぶっ飛んでいる。
そして何故攫われることに喜ぶ。
「別にお前のことは攫わんぞ。今後も自分の好きに生きてくれ」
「嬉しいです。私の気持ちまで理解してくださっているのですね。わかりました。王女の座は他の者に任せます。私は自分の意思でアルス様と一緒に人生を歩んで参ります」
何故にそうなる!
「だから俺はお前のことが好きでもないし、今後一緒に歩んで行く気もない。王女を全うしろ!最後までやり遂げろ!」
「失礼します!何処の誰だかは存じ上げませんがこの度は我が国を救っていただき感謝致します。そして今後の国の、我らの為にとティターニア王女を国に残そうとお考え下り誠に有難う御座います」
誰だよ、こいつ。
「アルーヴ、気がついたのね」
「ティターニア様。この度は申し訳ございませんでした。私の落ち度で御座います。処分は覚悟しております。なんなりとお申し付け下さい」
「いえ、全ては私の落ち度です。あなた達に非はありません。それよりも良く無事でいてくれました」
「ティターニア様のご慈悲に感謝致します」
だから誰だよ、こいつ。
ディアブロに匹敵するほどの美男子だ。
俺の評価はかなり低い。
「失礼致しました、アルス様。この者はアルーヴ。アルフヘイム国の将軍を任せている者です。アルーヴ、この方は魔大陸の王アルス様です。この度のアルフヘイムの危機から皆を救って下さった英雄です」
「失礼致しました。アルス様。この度は誠に有難う御座いました。感謝致します」
紹介されたところでこいつと何を喋れと?
俺はイケメンが嫌いだ。
大事なことなのでもう一度言うが、俺はイケメンが嫌いだ。
「ひとまず落ち着いたようだな。他の者も直に目覚めるだろう。俺はここで失礼する。じぁな」
「お待ち下さい。アルス様」
なんだ、イケメン。
俺を呼び止めるな。
どうせ禄なこと言わないのだろ?
「アルス様がティターニア様を好意に思っているのは聞いておりました。我らの為を思って身を引いて頂けるのは嬉しいのですが、どうかティターニア様を連れていって頂けないでしょうか?」
いきなり何を言い出すんだ。このイケメンは。
有耶無耶にして逃げようとした俺の気持ちを考えろ。
「アルーヴ!アルス様に失礼ですよ!」
「いいえ、言わせてもらいます!王女も長い間この国の為に尽くされて来ました。そろそろ御自身の幸せも考えるべきです。お互いの立場があるのもわかります。ですがこのまま別れるのは間違っていると思うのです。王女には幸せになって貰いたい。この国の全ての民の願いにございます。どうか、どうか我が願い聞き入れて頂けないでしょうか」
黙れ。イケメン。
お前はなにもわかっていない。
「私とて願いは一つです。ですが国がこのような状況に陥ってしまった今、まずは国の立て直しが先ではありませんか」
「私が王になります。ティターニア様に変わり私が王として必ずやこの国を立て直してみせます。ですのでティターニア様。ティターニア様は御自身の幸せを掴みとってください」
マジで黙れ。イケメン。
俺を置いて話しを進めるな。
「ありがとうアルーヴ。あなたの気持ちはわかりました。私も自分の幸せを願ってもいいのかもしれませんね……」
いやいや王女。そんなんで理解するな!
「このアルーヴ、命の限り国の為に尽くすと誓いましょう」
「アルーヴ。あとは任せましたよ」
「御衣!」
勝手に誓うな。任せるな。
王がそんな簡単に変わって良いのか。
この世界はアホしかいないのか。
俺は帰ると言ってから一言も発してないのにどんどん話しが進んでいくな。
こちらの意見も聞け。そして理解しろ。
都合がいいようにしか捉えないのはこの世界のデフォなのか?
「アルス様、私も連れて行って頂けませんか?」
「だから何故、そうなる。ここがお前の国だろ。お前の家はここだ。以上。もう俺は帰るからな」
俺は問答無用で転移して魔王城へと帰った。
ーーーーーーーーーー
「さすがアルス様。完全には踏ん切りのついていない私の気持ちなどお見通しだったのですね」
「申し訳ございません。余計なことを」
「いいのです。私に国を捨てることなど出来ません。アルス様が仰っていた通りここが私の家なのですから。それよりも、これからはアルーヴが王となって皆を導くのですよ。私はこの状況が落ち着くまでは補佐に回ります」
「仰せのままに」
そして国が落ち着いた時はあの人の元へ行こう。
ーーーーーーーーーー
「おかえりなさいませ」
うわ!
何故にウェディングケーキ。
食堂ならまだしもここは玉座の間だぞ。
なんてもん用意してるんだ。
「まさかお一人でお戻りとは」
何故、ため息まじりで左右に首を降る。
俺は何かやらかしたのか?
「一人で戻らないとでも思ったのか?」
「はい、読みを外してしまいました」
まかり間違ってティターニアを連れて帰って来ていたから、強引に結婚式まで行う流れが出来上がっていただろうな。
「茶目っ気がすぎるぞ」
「アルス様を思えばこそ」
俺のことを思うなら無理やり女性を引っつけようとするな。
俺は一人で過ごしたい派だ。
そんな派閥があるかは知らんが。
「ひとまず精霊大陸の件は終わった。なんの手がかりもなかったがな」
「アルス様なら当然の結果かと」
にしても魔力を使い過ぎた。
残りの時間ははゆっくりと過ごそう。
「お疲れのところを申し訳ないのてすが、こちらをご覧下さい」
ウィーーン。とモニターが降りてくる。
そこに映っているのは闘技場で戦うセレネ。
鎧くん達のバカデカイ剣がいくつも地面を叩きつける。
そして巻き上がる無数の土煙。
その中から姿を現すセレネ、そこへ襲いかかる鎧くんの巨大な盾。一瞬動きを止め横へと躱すセレネ。
そこには再び巨大な盾。今度はバックステップで躱すセレネ。
頭上から迫りくる巨大な剣、振り下ろされる前に一気に鎧くんの懐へ飛び込み一撃入れるセレネ。
なんじゃこりゃ。
八体がかりの鎧くん全ての攻撃を躱して鎧くんへと攻撃するセレネの姿があった。
「先程からずっとこの調子で御座います」
いや、強くなるの早すぎない?
鎧くんもなかなかの強さだよ。
最初は一体にしようと思ってたんだよ。
いま八体もいるのになんで攻撃が当たんないの?
おかしくないか?
「バグってるなぁー」
鎧くんでダメとなるとセレネの相手がつとまるのは俺かディアブロぐらいしか残っていないんじゃないか?
「いかがなさいましょうか?」
「ひとまず訓練は今日で終わりだな。明日からは予定していた他の霊獣を先に倒しに向かう」
「かしこまりました」
「というかこのケーキどうするんだ?」
「もちろん食後のデザートにセレネ様にお出しします」
あーね、あいつなら食後のデザートとかいって半分以上は食べるだろうな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!