討伐されたい転生魔王

〜弱すぎ勇者を強くする〜
ただのこびと
ただのこびと

秋津島の姫

公開日時: 2020年10月16日(金) 00:00
文字数:3,621


えぇぇーーーーーっ!!!!



俺が魔王であると告白をしたら、千代の凄い叫び声が部屋に響いた。


やかましい!

だが、なんでもいいからリアクションがあるのは嬉しいな。

黙られてフリーズされると完全にスベった感じがする。

いくら俺が魔王でもあの空気には耐えられん。


「それじゃー島へと帰れ、ちゃんと送ってやる」


何にせよこいつは島へと返そう。


「嫌です。秋津島へは、あの城へは帰りたくありません」


でった。姫のわがまま発動。


「理由は?」


「毎日毎日薙刀を持たされるんです。持てもしない薙刀を持たされての訓練なんて嫌なんです」


気持ちはわかる。

だが残念ながらそれはこいつの家の方針だ。

姫ともなれば襲われる可能性もあるだろう。

王属で普通のヤツより強いのはわかるが、自衛のためにも何か教えておくっていうのはよくわかる。


っておかしいな。


王属ならば他の者よりランクが高い。

なのに薙刀や刀が持てない?

やはり【精霊王の祝福】という呪いの一つか。


「一つ尋ねるが、お前の家族で剣が持てない者は他にいるのか?」


「いません。弟や妹がいますが弟は毎日普通に刀を振っています。母は刀を握りませんし妹はまだ幼いのでわかりませんが」


全員【鑑定】で見たわけではないが今まで【精霊王の祝福】を持っていたのは全員王属の女性だ。

何かしらのルールがあるのかもしれない。


女性といえば……出産?

もしかして王属の女性限定で遺伝しているのか?

なぜだ?

魔王の始末を考えているなら男のほうが力も強いし都合がいいはずだ。


たまたまセレネが勇者だった、かと思っていたが勇者も女限定じゃないだろうな?


「ど、どうされたましたか?」


「いや悪い。考え事をしていた」


「お願いします。ここにいさせてください」


「却下。ダメだ。お前は島へ帰れ。ディアブロ」


「かしこりました」


ディアブロが千代をサッと拘束してサッと転移していった。



ちょっとした時間潰しにはなった。

それに思いもよらない所から良い情報が手に入ったな。

精霊王が何かしらの理由で王属の女性を縛っている可能性が浮上した。

全くの無駄イベントでなかっただけ良しとしよう。


さてと、俺も改めて秋津島に味噌汁の材料を買い物に行くとしよう。




俺は転移して秋津島の酒蔵へと行った。


おっ、ちゃんと開いているな。

中へ入ると女将さんの元気な声がした。


「いらっしゃい!また来てくれたんだね!嬉しいよ」


ちゃんと覚えてくれていたようだ。


「昨日は本当に助かった。お陰で道にも迷わなかったし、いろんな物が買えた」


「ははは、いいんだよ。それに紹介した店の奴等からも沢山売れたって喜んで報告に来たよ」


かなりの量を買ったから、買い占めたとか言って怒られず良かった。


「で今日はどうしたんだい?お酒は昨日沢山買ってたじゃないか」


「いや、味噌汁を作ろうかと思ったんだが何処に材料が売ってるかわからないから聞きにきた」


「ははは、酒蔵に来て道を尋ねてくるヤツは初めてだよ」


「昨日の件で信用できると思ったからな。それにここの酒が美味かった」


「味噌汁となると味噌と出汁だね。味噌は昨日買ったんだろ?」


「ああ、乾物屋?みたいな鰹節や昆布とか売ってる所が知りたい」


「だったらここ行ってみな」


昨日に続き簡単な地図をくれた。


「悪いな。ついでだから酒を買ってもいいか?」


「あんた酒蔵に来といて何言ってんだよ。ここはお酒を売ってるところで、ここでお酒を買うのが普通だよ。そしてついでに道を聞くんだよ」


そりゃそうか。


「昨日買った酒はまだあるか?辛いヤツと甘いヤツだ」


「辛口は昨日あんたに売ったのが全部って言っただろ。辛口の酒が仕上がるのはまた来年だよ。甘口ならまだあるけど?それでいいかい?」


俺は女性陣にウケが良かった甘口の日本酒を購入すると多めの金額を払って女将さんにお礼を言って店を出た。


ここの女将さんは顔が広いなぁ。商売やってたら当たり前なのか?それにちゃんと常識がある。あれでもう少し若くてイカツイ見た目じゃなければ引く手数多だろうな。



酒蔵から比較的近い場所に乾物屋はあった。


「すまないが酒蔵の女将さんからの紹介できたのだが」


昨日の話しが商店街中に流れているらしい。

めちゃめちゃ話しが早かった。

鰹節節を数種類と昆布、煮干し、鰹節を削るための鰹鉋を購入した。

サービスでいろんな干物をかなりの数くれた。

その分多めに支払いはしたのだがかなり良い買い物が出来たと思う。


干物の食べ方について話しをしていると魚屋を紹介してくれたのでお礼を言って、魚屋へと向かった。


商店街の奥ばった場所にあった魚屋はなかなか良い感じの品揃えであった。

昼が近いということもあり半数以上は売れていたのだがそれでも氷の入った箱に入っている新鮮で綺麗な魚が沢山並んでいた。


酒蔵の女将さんからの紹介で乾物屋へと行き、ここを紹介してもらったことを告げるとすんなりといろんな魚を売ってくれた。

イカやタコ、アワビやホタテ、ブリやタイ、気になった物は片っ端から売ってくれた。

やはり朝イチで来るのがお薦めらしい。

また来ることを約束して多めの金額を払った。



さてと、日本っぽい食材はかなり揃ったような気がする。

途中で見かけた屋台でも空間魔術内のストックを増やすためにちょくちょく味見をしながら多めに買い物をした。

焼き鳥、イカ焼き、うなぎの蒲焼き、串団子等などだ。


この島の飯は美味い。


特別美味い訳ではないのだが、なんだかんだで慣れ親しんだ味が一番美味しく感じるのかもしれない。

人族の大陸で食べた飯が不味すぎたのが影響しているのは言うまでもない。


気づいたら本当に食べ物の事ばかりになってるなあ。

女性陣へのお土産でいくつか簪などの小物も買った。

食べ物の事ばかりではないと自分に言い訳するためだ。



しばらく商店街をプラプラしてると見知った女が現れた。


ディアブロに秋津島の城へと送らせたはずの姫、千代であった。


なんで城に送らせたのにこんなところにいるんだ?また抜け出したかのか?


「みつけましたよ!絶対に連れて行ってもらいますからね」


アホは無視するに限る。


「なんで無視するんですか!私を連れて行ってください。先程も最後まで私の話しも聞かないでいきなり城へと送り返すとか酷いではないですか」


はぁー、そうだった。

アホは無視するとでかい声で騒ぎ出すんだった。


「ちゃんと親には言ったのか?俺は親を説得しろと言ったはずだ。話しを聞くのはその後でだ」


「そんな事出来る訳ないじゃないですか」


「それが出来ないならこの話しは終わりだ。それに出来ないと決めつけるヤツは嫌いだ」


「いいじゃないですか。連れて行ってください。お願いします」


セレネと違ってきちんと頭を下げる事は出来るようだ。

でも頭を下げればなんでも聞いて貰えると思ったら大きな間違いだ。


「却下だ。俺は親を説得しろと言ったんだ」


「だから出来ないって言ってるんです」


「初めから出来ないと言うヤツを連れて行ったとして、今後お前に何が出来ると言うんだ。何もかも出来ないって言うつもりか?そんなヤツはいらんと言ってるんだ」


「私にだって出来る事ぐらいあるかもしれないじゃないですか?お願いします、連れて行ってください」


「お前如きに出来る事などない。出来る事があると言うならまずは親を説得しろ。以上だ。これ以上同じ事を言わせるなら俺も怒るぞ」


「親の説得は出来ません。でも私に出来る事もあります。私が貴方の子供を産んであげます」


「おい、誰が|あ《・》|な《・》|た《・》だ。マジで一回ぶっ飛ばしてやろうか?それに貴様の子供などいらん。こちらから願い下げだ」


「そんなに私に魅力がないのでしょうか?」


話しにならん。そして何故に泣く。

突然子供の話しになる意味がわからんし、誰も魅力の事など一言も話していない。


というか商店街のど真ん中で何を言ってるんだか。

遠巻きに見ているギャラリーの視線が突き刺さってるぞ。

ギャラリー共は好き勝手に妄想してこそこそ話しているが全部聞こえているからな。

痴話喧嘩でも別れ話しでもないぞ。

ただ俺はこいつに絡まれているだけなんだぞ。

と言うかこいつ等はこれが姫様だと知らないのか?


「面倒くさくなってきたから、一度城へ案内しろ。そこでお前が親を説得しろ」


「嫌です」


「だったらこれ以上話すことはない」


本当に面倒くさくなったので俺は会話をやめた。

と言うか会話になっていない。

会話にならなかった。


ふと前世で付き合いのあった外国人を思い出した。

あいつらも会話にならなかった気がする。

テメェーの価値観だけを押し付けてくる。

そしてわからないの一点張りだった。

価値観の違い云々もわかるし大事かもしれないが、価値観の前に話しを聞く耳を持ってもらわないとどうにもならないな。

わからんと言うヤツが死ぬほど嫌いかもしれん。

少しはわかろうとしろ!


「じゃーな」



俺は、転移の瞬間に再び引っつかれて一緒について来られなくするために、予め魔術で自分の周囲に透明な壁を作ってから、一人転移して城へと帰ったのだった。



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