討伐されたい転生魔王

〜弱すぎ勇者を強くする〜
ただのこびと
ただのこびと

帰還と湯船

公開日時: 2020年9月12日(土) 00:00
更新日時: 2020年9月12日(土) 16:18
文字数:3,551

氷のダンジョンを攻略した俺とセレネは城へと戻った。


「おかえりなさいませアルス様」


そう言ってくれたのは、いつも礼儀正しく出迎えてくれるディアブロだ。


「たっだいまー」


おい、セレネ。俺より先に返事をするな。


「変わりはないか?」


「何も問題は御座いません」


この城に何か問題が起こるとも思えないけど、一安心だな。


「で、いまの時間は?」


「アルス様が旅立たれてから一日と九時間、二日目の夕方でございます」


二日以上はかかると思っていたのが、想像以上にあっけなくダンジョンを攻略してしまった気がする。


俺が道に迷わないように魔術を使ったせいだろうな。

にしてもセレネにはそれなりの数の戦闘をさせたはずだ。

まぁ、苦戦するよりは良いことなのだが。




なんにせよ、


「ひとまず風呂だな」


「アルス、先に行って待ってるねー」


「おい、セレネ。凄まじく元気に何を言っている。一緒には入らんぞ」


「えー、夫婦なのにですか?一緒に入りましょうよー」


「断る、お前とは離婚した」


「えぇー、私達って離婚してたんですかぁー、いつ、いつですかあー、離婚はいやですよぉーー」


「騒ぐな煩い、冗談だ。一緒には入らん。早く行け。以上」


「べぇーーーだ!」


舌を出しながらセレネは風呂へと行った。

まったく可愛くない。



「でディアブロ、セレネのランクは?」


「いま現在ランク14でございます」


セレネのランクは爆上りしていた。

余りの勇者アホさ加減にバグったのだろうか?


「いやいや、さすがにそれは上りすぎじゃないか?」


「先日の祝福の効果かと」


「祝福ってそんなに凄いのか?そんなに一気にランクって上がるものなのか?」


「先日、出発される前の段階で13でごさいましたので」


寝る前が8、起きたら13になってたのか。

そりゃ手応えを感じないわけだ。


祝福の効果、想像以上だな。

今回もまた朝になると上がってる可能性がある。

明日の朝もう一度確認してもらうとしよう。


「そういえば猫はどうしてる」


「アスレチックコースで遊ばせております」


そういえばあったな。レジャー施設。

ペットを飼うには最高の環境じゃないか。


「そのまま明日の朝まで遊ばせておけ」


「かしこまりました」



これで四つの試練のうち東と北の二つを落とした。

俺の読み通りならば、次は西。

対策をどうするかだな。


「次は西へ向かう。出発は明日の朝。セレネには風呂の後、食事を頼む。俺は今からダンジョン攻略の準備に入るから、遅くなるようなら先に寝ておくように言っておいてくれ」


「かしこまりました」



俺は宝物庫へと転移した。


何かヒントになるものがあればいいのだが。


次が予想通りの場所ならばおそらく最難関だ。

対策ができなければセレネは死ぬだろう。


セレネに死なれると俺が死ねなくなる以上本気で考えないといけないのだが、正直対策が思いつかない。


前世にはなかったからなぁー。


なんでも世界のなんでも設定ならいけそうなんだがイメージがわかないことにはどうしようもない。

それでもなんとかしてくれそうな、なんでも設定に全て丸投げしてみようか。


ひとまず思いついたことから試すか。


宝物庫でごちゃごちゃ考えているよりはいいだろう。


まったくといっていいほど気が向かないが命がかかった場面でぶっつけ本番よりかはいいだろう。

しょうがない諦めろ、俺。



俺は転移した。




「キャァァーーーッ!」



到着したのは風呂場だ。


裸のセレネが体を隠し悲鳴をあげている。



「悲鳴をあげながら身体を隠すほど恥じらいがあったんだな?俺は嬉しいぞ」


「恥じらいもなにもいきなり出てきたら誰でもビックリするに決まってるでしょーが!」


「俺だから安心しろ」


「そーゆーこと言ってないってば!もぉー」


「それよりも試したいことがある」


「えっ、な、なに」


そんなに体を抑えて、もじもじせんでいい。

俺はゆっくりとセレネに近づいていく。


「待って、試しても良いけど、心の準備が」


俺はイメージを浮かべてセレネに魔術をかけ、そっとセレネの頭に手を置いた。


「な、何、まだ心の準備が、」


一気に湯船の底に沈めた。



ゴボ、ゴボボ、ゴボッ、ゴボ……



激しく気泡があがる。

ジタバタしているがしばらく底に沈めたままにしておく。



ゴボボ、ゴボッ……。



泡がでなくなったのを確認して引き上げる。


「なにしとんじゃ!ボケー!」


「ふむ、成功か?」


「ふむ、じゃなかろぉーがぁー、いきなり嫁を湯船に沈めて何をぬかしとんじゃー!」


「で湯船の中で呼吸は出来たか?」


「だから謝れやぁー!謝るのが先でしょうがぁー!」


「仕方ない、もう一度試すか。」


俺はセレネの頭を掴んだ。


「ちょ、ちょい待っ」


再び湯船に沈めた。



ゴボッ、ゴボボ、ゴボ、ゴボゴボ……。



泡がなくなったのを確認してから引き上げる。


「えっ!なんで?私、お湯の中でも息できるんですけどー」


ふむ、やはり成功のようだ。

さすがなんでも設定。

ごちゃごちゃ考えていた俺が馬鹿みたいだ。


「知らなかった、水の中って呼吸出来るんだ」


と言って湯船に潜っていったセレネはその後見事に風呂で溺れた。


確認が出来たから魔術を解除したことを教えてやればよかったかな?



とりあえず、これで最大の不安はなくなった。



と、同時にやる事がなくなった。

今後、必要になると思われる道具の作成は、北のダンジョンへ行く前にあら方作り終えている。

改良は問題があった時点でその都度行うとして、思いつく準備は終わってしまった。

セレネからクレームがあったローブの色も既に各属性の色に変更済みだし、細かい調整も終えている。


何をやろうか。

俺は考える。

考えたんだが何も浮かばなかったので結局風呂でのんびりしている。

風呂に入るための言い訳をしていた訳では断じてない。


「はぁーー。やっぱ風呂はいいなぁー」


「本当に素晴らしい、なんと素晴らしいのでしょう」


「だから、何故お前がここにいる、ディアブロ」


「アルス様の近くに控えておくのが私の役目ですので」


「何故一緒に入る必要がある」


「アルス様が宝物庫からお風呂へと向かわれた後、セレネ様の悲鳴が聞こえたため駆けつけた次第です」


「答えになっとらんだろ」


「アルス様の側で使えるのが役目に御座います」


ダメだ、完全にダメだ。

こいつのいきなり距離を縮めてくる感じはなんなのだ。


「ディアブロ様、アルス様がお困りになっています。即刻浴室から出ていくことを推奨」


「って、ラミア。いたの」


「セレネ様に付き添う。それが私の役目」


セレネは風呂で溺れた挙げ句、のぼせてダウン中だ。


「セレネに付いてなくていいのか?」


「セレネ様は、しばらくすれば回復する。それよりもアルス様との入浴。今はこれが最重要」


こいつ等、魔族は欲望に忠実過ぎる。

というかラミアさん近すぎます。

そして幼女顔なのにスタイルが良すぎです。

腕に柔らかい何かが当たっています。


「魔族に性別があるのかはわからんが男女別のほうがいいのではないか?」


「勿論魔族にも牡と牝がございますが、ここはアルス様の浴室にございます。分ける必要がございません」


おい、ディアブロ。誰が上手いこと言えと言った。

そして何故配下のお前達が俺の風呂に入っている。


「お前等が一緒に入る理由としては弱くないか?」


「理由など御座いません。アルス様と一緒に居たいからいるのです」


遂に開き直りやがった。

お前等自由過ぎ。

魔族のカガミだよ。


そんなこんなでセレネが回復するまでみんなでワイワイ風呂に入った。




現在、食堂ではセレネのフードファイトが開催されている。



さっきまでのぼせていたのにいきなり食えるって凄くないか?

俺なら無理だ。


前世では、周りからはかなり食べるほうだとはよく言われたが、俺は基本的に嗜む程度にしか食べない。

趣味の時間のほうが大事でそこまで食事に関心が無かったのもある。

俺がしていたのは死なないための食事だ。


目の前には、愚直に食欲をぶつけるセレネの姿。

積み上げられていく皿、皿、皿。

ここまで真っ直ぐだと迫力も凄い。

必死だ。

セレネがしているのは生きるための食事なんだろう。


見ていて気持ちが良い。



俺は静かに酒を愉しみながら美味い料理を嗜むのだった。





食事を終えるとセレネと食堂を出て自室へと歩いて向かう。


「今日はここまででよい」


俺はディアブロとラミアを下がらすと自室へと入った。


今日は寝室へと直行だ。

後はゆっくりと寝るだけでいいだろう。


セレネとベッドへと入り他愛もない会話をした。

食べ物の好み、飲み物の好み。

今まで行った場所、行きたい場所。

基本的にセレネが話して俺が頷くだけだが。


そうして俺とセレネは眠りについた。





そして、朝。



予想通り二人の間にモゴモゴ動く物体。


「見て見てアルス、子供が産まれました!」


「だから産まれるの早過ぎだし、何もしてない」


「見てください。二人の子供ですよ!」


「お前は毎回このくだりをやるつもりか」



ピヨピヨッ、ピヨピヨッ。




俺とセレネの間には真っ赤な雛鳥がいた。





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