セレネと結婚をした。
二回ほどお色直しで衣装を変えた。
お色直しなどする必要はないと言ったのだが、セレネの世話をしてくれているというメイド衆から猛烈なブーイングがあったので、一旦会場を出て服を替えた。
一回目はシックな蒼のドレス、俺は蒼のフロックコート。
二回目はゴージャスな赤のドレスと赤のタキシードだ。
お披露目するたびに会場からは歓声があがった。
各テーブルを周り日頃の感謝を伝えた。
余りにも魔族が多すぎて誰が誰だか全く覚えてなんかいないんだけどな。
披露宴は盛大に盛り上がりまだパーティは続いている。
このまましばらくはお祭りが続くらしい。
各エリアでは謎の余興大会が開催されていたりもする。
大盛り上がりだ。
そんな中、俺とセレネは一足早く退散することにした。
コソッとホールを抜けようと思ったのだがアホな神父姿の悪魔が、『アルス様とセレネ様の門出の時です!』とか宣言しやがったものだから会場中から歓声が上がってしまった。
「「「「ウァーーーー!!!」」」」
「お幸せにー!」
「このあとのご予定はー!」
「初夜ってやつですかー!」
「おめでとーこざいまーす!」
「今日は盛り上がってください!」
「「「小作り!小作り!」」」
ホールを出る頃には謎の小作りコールの大合唱が巻き起こった。
イラッとしたのでホールを出るのと同時に、ホールに向かって圧縮した炎の魔石を打ち込んで吹き飛ばしてやった。
何故か爆破したホールからは大爆笑が起こっていたがそのまま無視して転移した。
たまには羽目を外すのもいいが俺はゆったりと落ち着いた時間のほうが好きだ。
転移した先の自分の部屋へと入る。
何気にここを使うのは始めてだ。
城をディアブロに案内してもらった時に少しだけ中を見たぐらいだ。
部屋へと入ってすぐの近くにあったソファーに座ろうとしたらセレネに止められた。
「ここは玄関なのであっちのほうがくつろげますよ」
何故知っている?
そして他にも部屋があるのは知っているがここは玄関なのか?
この広さは普通に住めるぞ。
セレネに言われるままに廊下を歩き更に広いリビングのような部屋に来た。
「私のお勧めはこの椅子です」
言われたソファーに座るとふかふかで良い感じだった。
「かなり良い椅子だな。って何故知っている?」
「私ここに住んでいますから」
「は?セレネってここに住んでいたのか?」
「はい」
はい、じゃない。
俺の居住区の空き室に住んでいるとは聞いた。
別の部屋じゃなかったのか。
俺が使っていなかった部屋なんだから空き室だったのか?
違うだろ!
「俺が使う前にセレネが使ってるってどうなんだ?」
「固いことはいいじゃないですか」
「良くはない。まぁ今更か」
「お茶でも淹れましょうか?」
「ああ頼む」
なんだか新婚っぽいやりとりだな。
とか自分でも不思議なことを考えていたら、キッチンと思われる方向から奇妙な音が聞こえだした。
カタカタカタカタ……
「おいなんかスケルトンでも出てきそうな音が鳴ってるんだが?」
「お茶入れたことないから緊張して」
「だったら無理して淹れなくてもいいぞ!」
「だってお茶ぐらい淹れてあげたいじゃないですか」
「わかった、待っている」
カタカタカタカタ……
カチャカチャカチャカチャ……
カタカタカタカタ……
カチャカチャカチャカチャ……
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
緊張で震えていたのか、スケルトンの群れだとか、鎧を着たアーマースケルトンの群れだとかが出てきそうな音がしていたが、突っ込むのものも無粋か。
あえて無視しておこう。
一口お茶を飲む。
「ぐぅぁっ!」
半端なく苦い。
俺は何を飲まされたのだ。
学生時代に飲まされた罰ゲームのヤツより苦いぞ。
「苦すぎないか?」
「そうですか?少し苦いかもしれませんけどこんなもんじゃないですか?」
「離婚だな」
「えぇぇーーーっ」
「味覚の不一致だ」
「さっき結婚したのにもう離婚ですか!」
「決定だ」
「そんなんで離婚とか嫌ですよぉーー」
「お前は金輪際キッチンへの出入りを禁止する」
「頑張れば料理ぐらいできます」
「信用ならん。食材の無駄だ」
「アルスの味覚がズレてる可能性もあるでしょ?」
「俺の味覚は正常だ。では試してみるか?」
俺は扉の方へと声をかける。
「おい、いるな?」
空間が歪み少女メイドが現れた。
俺は少女メイドへ飲みかけのカップを指差し言った。
「これを飲んで正直な感想を述べよ」
「アルス様のご命令とあらば」
少女メイドは俺のカップを手に取る。
心なしか手が震えている。
『アルス様の……』とか言っている。
酷い命令をしてしまったか?
意を決したのかそっとカップを近づけ中のお茶を飲んだ。
「凄まじい苦味です。新手の毒物かなにかでしょうか?毒物だとするなら無味無臭でなくては成功しないでしょう。ここまで不味いと飲み込める者はほぼいないかと。これは失敗作ですか?」
「だそうだ」
「どこが新手の毒物じゃぁー」
「セレネ様、毒物でないのであればこれはなんなのでしょうか?」
「冷静に言わないでよ、ずっと見てたでしょ?お茶だよ」
「お茶を毒物へと変えるのはセレネ様の能力かなにかなのでしょうか?」
「能力ちゃうわぁー」
「そんなわけで不合格だ。今からはただの他人だ」
「嫌ぁー!離婚は嫌ぁー!」
「おい、新しいお茶を淹れてくれ」
「かしこまりましたアルス様」
「苦くないやつを頼む」
「お任せください」
「無視はもっと嫌ぁー」
多少はいつもの感じに戻ったか。
「で、緊張は解けたか?」
「あっ」
「無理はせんで良い」
「ありがとうアルス」
タイミング良く少女メイドが戻ってきた。
「どうぞ、お茶です」
「悪いな、下がって良いぞ」
完璧なタイミングだった、ナイスだ。
「かしこまりました」
そう言うと少女メイドはスッと消えた。
「うん、美味いな」
「いろいろとごめんね」
「お前が駄目で無能なのは俺が一番良く知っている。結婚したからと無理して出来ないことをする必要はない、最早お前に出来ることなど何もないのだから何もするな」
「本音で罵倒されてる。こ、心が折れる」
「ははは、今更だろうが」
「ぅー」
「落ち着いたならゆっくり休むといい、俺は次の旅の準備を始してくる」
「はーぃ」
「次は俺も行くからな、離婚旅行だ」
「新婚旅行って言ってぇー!」
「ははは」
「笑って誤魔化すなぁー」
俺は転移して宝物庫に行った。
俺は宝物庫で旅の準備を進める。
現在、セレネに渡してある武器はミスリルの剣とカーボンソード。
ミスリルの剣に装着する魔石は全属性用意してあるので弱点属性がある敵には問題はない。
無属性のカーボンソードもある。
攻撃力に若干の不安はあるがひとまず武器は大丈夫だろう。
やはり問題は防具か。
セレネの非力さを考えると軽くて頑丈、それでいて各属性への耐性が必要になる。
いくつか作っていた試作に改良を加え持っていくことにした。
道具の確認を終えた俺は部屋へと戻った。
「あっアルスおかえりなさい」
「なんだセレネまだ起きていたのか?」
「急にいろいろあって」
「まだ緊張していたのか」
「そうじゃなくて急にいろいろあったからご飯食べ損なってて食べに行ってたの」
「あー、なるほど」
セレネらしい。
言われてみればダンジョンから連れて帰ってきてそのまま風呂へ入り、いきなり結婚式だったもんな。
俺も食事のことなどすっかり忘れていた。
「ホールに戻って食べてきたのか?」
「さすがにみんなの邪魔になるかなと思って食堂で」
「セレネが世話になったな」
「とんでも御座いません」
扉の前にいつもの少女メイドが現れた。
背は低く百五十センチもない、白い肌、人形のように整った顔、そして全く動かない表情、赤の瞳、長いピンクの髪の毛をツインテールにしている黒いメイド服を着た少女。
「そういえば名を聞いていなかったな」
「我等魔族に名前はございませんので」
「ならばこれより『ラミア』を名乗るが良い」
「承りました」
「これからもセレネを頼むぞ、ラミア」
「御意」
ラミアは無表情のまま大粒の涙をこぼしていた。
ヤバい。
まずったか?
「良かったね。ラミア」
「はい、ありがとうございますセレネ様」
セレネの言葉に感謝を述べている。
良かった。喜んでくれているらしい。
喜んでいるんだよな?
ディアブロも名前をやったとき泣きながら喚き散らしてたし意外と魔族って涙もろいのか?
気づけばセレネと二人抱き合って泣いているぞ。
名前ぐらいでそこまで喜んでくれるとは。
今度他の奴等にも名前をつけてやろう。
「感動しているところを悪いがラミア、気分が落ち着く飲み物を用意してくれ」
「はい、ただいま」
「セレネ、まだ寝るには早い時間だが飲み物を飲んだら寝るぞ」
「は、はぃ貴方」
寝るぞと言ったら急にしおらしくなってもじもじ仕出した。
それとあなた言うな!
「もじもじせんでいいから一旦座れ」
「お待たせいたしました。私はこれで下がらせていただきます。また明日の朝お迎えにあがります」
変な気を使う少女メイド、改めラミア。
何故にお前の顔も赤い。
さっきまで泣いていたからだよな。
きっとそうだ。そういうことにしとこう。
「普通にいてもらってもいいんだが、わかった。明日の朝起こしにきてくれ」
「かしこまりました。では失礼致します」
そう言ってラミアは消えた。
俺はテーブルに用意された飲み物を飲む。
「甘みがあって美味いな」
用意してくれていたのはココアのような風味がする少し甘めの飲み物だった。
「どうした飲まないのか?」
「急に緊張してきちゃって」
「二人しかいないんだから緊張する必要はないだろ」
「二人だから緊張してるんでしょ」
「俺といて緊張するぐらいなら、離婚するか?」
「離婚はダメ!ダメ、絶対!」
薬物のポスターか!
「ははは、セレネも飲め。美味いぞ」
「ぁ、美味し」
「な!」
この後、少しだけ他愛もない話をして二人で寝室へと向かった。
そして二人でベッドで寝た。
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