俺はセレネと一緒に寝た。
朝になって起きると俺とセレネの間には真っ赤な雛鳥がいた。
真っ赤で小さな鳥。鳥の違いや種類なんてわからないが見た目はヒヨコ。拳大の真っ赤なヒヨコだ。
「かわいいー」
ベッドでピヨピヨいっている。
ふむ。
とりあえず首根っこを摘んで持ち上げる。
「邪魔だな」
持ち上げられた雛鳥は凄い勢いで頭をペコペコさせている。
ジッと観察する。
どうやら謝っているっぽい。
『すみません、自分が悪いんです』みたいな目をして、俺の顔を見つめては頭を下げる。
まるで仕事で失敗した部下のために、取引先でひたすら頭を下げる上司のようだ。
雛鳥のくせに哀愁感が半端ない。
結論、攻撃の意思なし。
「よし、お前は俺の味方だな。許してやろう」
嬉しそうにピヨピヨ言っている。
やっと取引先に熱意と誠意が伝わった的なやつだな。
俺は雛鳥をセレネに渡すとベッドから出た。
「俺は先に玉座の間へと行っている、準備ができたらその鳥も連れて来い」
「はーい、貴方。いってらっしゃーい」
チッ、あなた言うな。
俺は返事をせずに玉座の間へ行った。
「おはようございます、アルス様」
「おはよう、ディアブロ。すまないが猫を連れて来てくれ」
「かしこまりました」
ディアブロは転移して行った。
俺は玉座へと座るとモニターを出し西の方角を調べる。
が、中々ダンジョンの入口は見つからない。
距離感的にはこの辺りのはずなんだが、ない。
うーん。
俺の頭にあるのは転生後にディアブロから見せてもらった地図のみだ。
とするならばもうちょい下。で、もうちょいこっちか?
俺はモニターに写っている場所をどんどん南下させて行く。
恐らくこの辺に。
あった。西のダンジョンへの入口らしき祠を見つけた。
続けて俺は画面を動かし、別の場所の位置を確認する。
なるぼど。
やはりそういうことか。
なんとなくは解っていたが、この世界に正確な地図がない。
誰かが作った地図を模写して使っているのか、何かしらの理由であえて正確な地図を作っていないのか。
であれば俺の知っていることとの違いも埋まる。
そして俺の予想とも一致する。
完全に自分の考えを信じきるような愚かなことはしないが、大方予想通りといえるだろう。
「猫を連れて参りました」
ディアブロが猫を連れて戻ってきた。
「これまたデカくなったな」
連れて来てくれた猫はデカくなっていた。
最初見たときは両手で包めそうなサイズだったのに柴犬ぐらいのサイズになっている。
もはや猫と呼んで良いサイズではない。
「喋れるか?」
ガルゥゥーッッ!
唸っとるな。
こいつはまだ理解が足りていないと見える。
また躾が必要か?
そこへ、ラミアがセレネを連れて転移してきた。
「みんなおはよー。あっ、猫ちゃん大きくなってるぅ」
一目散に猫のところへ行って撫ではじめた。
猫もグルッ、グルッとか可愛らしい声を出している。
ふむ。セレネにはなついていると。
これはお仕置き決定か?
「これまた珍しい」
わかりきっているくせに鳥を見て声を上げるディアブロ。
グルッ?
セレネが抱いていた鳥に気づいた猫は驚きの声を上る。
ピヨピヨピヨッ、ピョン。
鳥はセレネの腕から抜け出し、ピヨピヨ言いながら空を飛ぶと、猫の頭の上に乗った。
やるではないか、鳥。雛鳥のくせに飛べるとは。どう考えてもそんな指先程度の羽で飛べるとは思えんのだが。そこらへんは魔術かな?
鳥と猫は何か話しているらしく、お互いにガルガルピヨピヨ言っている。
ひとまずこれで必要なキャストは揃った。
まずはセレネを追い出す。
「セレネ準備が整ったのなら朝食を済ませてこい。すぐに食堂へと行かないのならこのまま出発するぞ」
「えっ!何言ってるんですか、食べますよ。朝ご飯は一番大事なんですよ。食べるに決まってるじゃないですか。すぐに行ってきます」
セレネはラミアと一緒に食堂へと転移していった。
「ディアブロ、セレネのランクはいくつになってる?」
「ランク20で御座います」
ここのところ一気にランクが上り過ぎだよセレネさん。
出かける前が14だったから、二日で6。
バグってるな、なんか上り過ぎな気がする。
「予想以上の成果なんだがな」
「まだまだ我らの足元にも及びませんが人族としては異例の早さかと」
「まぁ早く強くなって欲しいと言ったのは俺なんだから文句はない。が順調過ぎるのも怖いな」
ひとまず四つの試練を終えてから考えるとしよう。
次はと、
「で、お前等」
俺は猫と鳥に目を向ける。
「白虎と朱雀だな」
猫はプイッと顔を背けたが鳥は必死に頷いている。
やはりこいつ等は霊獣ってことか。
「おい、白虎。あまり俺に反抗的な態度をとってると躾が必要になるぞ」
猫は先程と同様に顔を背けたままこちらを見ようとしない。頭の上の鳥はガクブルしながら必死に頭をペコペコしてる。
俺は玉座から立ち上がるとゆっくり猫へと近づいていく。
指は勿論デコピンの形だ。
俺はゆっくり近づいていく。
手のデコピンの形が視界に入ったのだろう。猫は身体が硬直したのか全く動かなくなった。
鳥は小さな翼を必死に羽ばたかせて危険地帯を脱していった。
俺は猫の前まで行き、猫の目をジッと見つめる。
猫の目がキッとした。
発射!
パンッ!ゴロゴロゴロ……パタッ。
デコピンを喰らった猫は広い玉座の間を転がりまくって入口付近でパタッととまった。
大の字のまんまピクリとも動かない。
壁までは届かんかったか、残念だ。
一先ず躾はこれで良しとしよう。
「こいつ等は霊獣なんだろ?生まれ変わりかなんかなのか?」
「分体でございます」
「なんだ分体って?」
「本体である霊獣をセレネ様が倒しました。その後、祝福で霊獣の力を授かった訳です。ですが人族だと吸収できる力に限りがあります。その溢れた力の集合体にございます」
「なるほど本来セレネに吸収されるはずだった力の集まりと」
「左様でございます」
「では最終的に吸収されるということか?」
「セレネ様次第かと」
なるほどな。
倒した霊獣は祝福として一度セレネの中に入る。
一気に吸収すると負担になるため一晩かけてじっくり吸収するのだろう。
その時に吸収しきれなかった力が『分体』として実現化したと。
正体がハッキリしたところで、こいつ等を連れて行っても役に立ちそうにない。
「しばらくこいつ等はレジャー施設で適当に遊ばせておいてくれ」
「かしこまりました」
さぁーて朝の確認は終わったかな。
「予定通りこれから西へ向かう。今回、帰りの予定はわからん。なるべく早く戻るつもりではあるが、状況に応じて潜る時間が長くなる可能性がある。それまで城はまかせたぞ」
「かしこまりました」
「後、ディアブロ。出来るだけでいい。いろんな場所から地図を集めてくれ」
「地図でございますか?」
「そうだ。なるべく様々なエリアで扱っている地図が欲しい」
「かしこまりました」
「ただいまー!お腹いっぱいです。もう動けません」
元気よくセレネが戻ってきた。
「おい、今から出発するのに、動けなくなるまで食べてどうする」
「えー、これが最後の食事だったらどうするんですか?やっぱりあれ食べとけば良かった、とか思いながら死ねっていうんですか?」
「セレネは死なせないし殺させん、何があろうともだ」
「あなた」
「あなた言うな!殺すぞ!」
「うぇーっ!いま私のこと死なせないって、愛してるよ、一生守るよって言ったじゃない!」
「うるせぇー!他のヤツには殺させんしお前が勝手に死ぬことも許さん。お前が死ぬときは俺がお前を殺す時だけだ!」
「オマエって言うなぁー!」
「後、勝手に言葉を盛るな!愛してはないし一生までは守らん」
「ははは、相変わらず仲がよろしいようで」
「「黙れ!仲良くない!」」
「息ピッタリでございますね、ははは」
「「このクソ悪魔が!」」
俺達は砂漠のダンジョンへと向かった。
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