勇者のランクが5。
俺は計測不能で最低でもランク100。
勇者の弱さ、というか人間の弱さが明らかになったところで、勇者の育成方法を考えなければいけない。
何せその差二十倍、聖剣の性能でバフ、デバフを合わせて二倍強くなるとしても、最低後十倍は強くなってもらわないといけない。
レベルを上げるというのなら適当な相手と戦わせていれば少しずつは強くはなるだろう。
どこかにほたって気長に待てばいい。
だが気長に待つ気など更々ない。
問題はどの方法が一番早くて効率がいいのか、だ。
手っ取り早くランクをあげる方法はないのだろうか。
どこぞやの戦闘民族のように、死ぬ直前まで痛めつけてから回復させれば強くなったりしないのかなぁ?
いっそ、殺して生き返えらせるを死ぬほど繰り返すとか?
初心にかえってデカイ亀の甲羅でも背負わせて鍛えるとか?
全身にバネをつけるなんてのもあったな?
あっ、全身に負荷をかけるのは案外いいかも。
全部試してみるかなぁ。
うーん。
「ございますよ」
ん?
何が?
「すぐにランクをあげる方法です」
頭の中で考えていると思ったら全て声に出ていたのか?
目の前で控えていた悪魔リーダーが独り言に対して答えてくれたようだ。
恥ず。
「人族のランクを簡単にあげるのでしたら魔物にしてしまえばいいのです」
ちょいちょいちょい。あんたいきなり何を言い出すの?
あかんやろ、人を魔物にしたらあかんやろ。
こともなげに、どう考えてもあかんことを言いはじめるイケメンリーダー。
でも一応聞いとくか。
「勇者を魔物にする、本当に可能なのか?」
「ランクが高い魔族がおこなえば可能です」
怪しい薬でも使うのだろうか?
こいつのことだ。薬程度だとかわいいかもしれん。
ここで詳しい方法を聞くとおそらくダメなやつだ。
確実に人体実験がはじまってしまう。
方法は聞かずにスルーすることを選択。
というよりは、
「勇者を魔物にしたとして、俺を討伐することは可能なのか?」
「無理でございます」
「無理なんかいっ!」
かつて無いほどキレッキレのツッコミが飛び出した。
前世を含めて過去最速だ。
かなり喰い気味にツッコんでしまった。
そしてなぜかツッコまれたイケメンリーダーは嬉しそうにキラキラエフェクトを発動させている。
そのエフェクトはイケメン専用の課金アイテムなのだろうか?ちょっと羨ましい。
「そもそも魔王様は不死でございますので、どう足掻いても魔物如きに勝ち目はございません」
「ふぁっ!?」
満面の笑みでサラッと恐ろしいこと言いやがった。
そして新事実発覚!
俺って不死だったのね。
ありがちな設定ではあるけど不死なのね。
「不死の魔王様を倒すには聖剣を使う以外にないのです」
「魔物化させた勇者に聖剣使わせれば?」
「魔物に聖剣はあつかえません」
なるほど勇者を魔物にすれば手っ取り早くランクは上げられるが聖剣は使えなくなるため不死の俺は殺せないと。
って駄目やん、まったく意味ないやん!
やっぱ地道にランク上げてもらうしかないのかぁ。
「勇者のランクを上げるのに適したいい場所はないのか?」
「それでしたらウルカラン大陸の東側がよろしいかと」
人族大陸の東か。
試しにそこに勇者を連れて行って鍛えるとしようか。
「そこになにかあるのか?」
「活性化した魔物の巣がございます」
ほう、活性化というのがいまいちわからないが巣というぐらいなら魔物も多そうだしいいかもしれない。
そこで四六時中戦わせていればランクは必然的に上がるか。
まずは試しに、魔物の巣に勇者置き去りが決定。
悪魔リーダーに命じ、再び勇者を玉座の間へと連れてこさせた。
「お前を魔物の巣にほたることにした」
「ほたぁぅ?」
今後の行動について話したつもりだったのだが、どこかの北の広大な大地で何もない所に家を建ててしまうオッサンみたいな喋り方で返答が返ってきた。
「お前を魔物の巣に放置、置き去りにする」
きっぱり言い直してやった。
「断ります。」
きっぱり拒否された。
何故か強気に拒否してくる勇者。
「お前に拒否権はない」
強気に言い放つ。
「せめてご飯を食べさせてください!」
強気で要求がきた。
凄まじい迫力だった。
「あなたのせいで温かいご飯食べ損ねたんです。しかも聖剣まで折られて、ご飯ぐらい食べさせてほしいと直訴します」
なにがあったガクブル勇者。
完全に別人になっとる。
「食べずとも死なんだろ」
面倒くさいので適当にあしらってみた。
「いーえ、死にます。人間は食事を摂らないと死にます。どうせ殺されるぐらいならご飯を食べてからでお願いします」
確かに食べなきゃ死ぬが、なんなんだこの開き直りは。
ガクブル勇者が開き直り勇者になっとる。
「そもそも聖剣が折れたのは俺のせいではない」
「もはやあんな聖剣なんてどーでもいいんですよ。私は、もうすでに一回は死んだも同然なんです。なのでこれからは死ぬまで死ぬ気で人生を楽しみます。なのでご飯をお願いします」
聖剣に対する扱いが酷い。
そして相変わらず言ってる意味がまったくわからん。
「では食事を与えれば大人しく魔物の巣に行くのだな?」
「わかりません。食事をしてから考えます。食事をください、私は温かい食事を要求します」
ダメなやつだ、そういえばこいつも違った意味でダメなやつだった。
「おい、食事はあるか?」
「いつでも御用意は可能です」
さすがイケメンリーダー、完璧である。
「では食事を用意しろ」
「かしこまりました。では食堂へどうぞ」
あっ、食堂なんてあったのね。
よくよく考えたら俺って玉座のあるこの広間からまったく出てない。
当然、この城の構造なんてまったくわからん。
食堂ってどこよ。
「ご案内いたします。こちらの魔法陣へお乗りください」
勇者と一緒に悪魔リーダーが作った魔法陣の上に乗る。
と、長い大きなテーブルのある部屋に着いた。
「こちらが食堂になります」
さすがイケメンリーダー、俺の心すら読む。
食堂の場所がわからなかったから良かった。さすがだ。
テーブルにはすでに豪華な食事が沢山並んでいた。
「どうぞ席についてお召上がりください」
ってすでに食べている勇者。
貪り食っている。
しかも基本素手だ。
何日ぶりの食事なんだ?
どこの肉食動物だよ。
そんなにガッつかなくてもまだまだ沢山食べ物はあるぞ。
おいおい、そんなに焦って食べると火傷するぞ。
ちゃんと噛めよ。
喉に詰まらすぞ。
一応飲み物の位置ぐらいは確認しとけ。
とか、俺は変なことを思いながらゆっくりと席につく。
席につくと同時にスッと飲み物を添えてくるイケメンリーダー。
完璧なタイミングだ。
「ッ!」
出された飲み物を飲んで驚いた。恐ろしく美味い。
酒にはそこまで詳しくはないが、かなり飲みやすいワインだ。
渋みの角がとれ旨味にかわっている。
前世で飲んだどの酒よりも美味い。
「喜んでいただけたようで光栄でございます」
俺の様子をみて満足げなイケメンリーダー。
近くにあった料理を口に運ぶ。
「ッッ!」
どれもこれも美味い。食事をとる手が止まらない。
どの肉も柔らかく程よく弾力がありソースの種類も豊富なのがいい。飽きが来ない。
新鮮な魚介類もサラダも抜群に美味い。
そしてさり気なく置かれているパンが凄まじく美味しい、焼きたてふわふわ絶品である。
なんだここは天国なんか。
「ご要望がございましたらすぐさま改善いたしますので何でもお申し付けください」
神がいる。ムカつくほどイケメンな神がいる。
そうか悪魔リーダー。
お前は神だったんだな。
イケメンなその見た目はムカつくけど。
お前、神だったんだな。
俺は美味しい料理を只々堪能するのだった。
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