俺はセレネを連れて城の中を案内する事にした。
というのも、霊獣達と遊んでいるときにセレネからお願いがあったからだ。
「私、気づいたら『拉致』されて、そのままここに住んでるんですけど、お城の中って見たことないんですよねー。さっきのプールがある部屋なんて全く知りませんでしたし。一度案内してくださいよー」
そういえば、こいつって俺が転生した初日に、ディアブロ達に命令して連れてこさせたんだった。
拉致か、と言われたら……拉致だな。
完全に忘れていた。
普通に生活してるから、もはや頭の片隅にもなかった。
気づいたら俺は拉致ってきたヤツとそのまま結婚している。
前世ではいくら駄目サラリーマンだったとしても、ここがいくら異世界だとしても、これはいくらなんでも酷いのかもしれない。
酔った女の子をお持ち帰り、そのまま監禁、結婚。
逮捕!あかん!あかんやつや!
魔王だから許されるのか?
許されはしないだろうがいまさらあいつの両親に挨拶に行くのもクソ面倒くさい。
『娘さんをください!』的な?
俺なら迷わず『ははは、娘は貰ったぞ!』とかノリで言ってしまいそうだ。
いや間違いなく言う!
あかん!
この件は保留だ。とりあえず蓋をしておこう。
ってな、出来事があって城を案内することを決めたわけだ。
けして後ろめたい気持ちがあったわけではない。
一階と二階は客室ばかりだから別にいいかと思ったのだが、そのことを説明するとセレネから「見ておきたい」と言われ、言われるままにやってきた。
一階のエントランスホールだ。
鎧くん今日もありがとう。
「凄いですね。ここのエントランスホールって王宮のよりも広いですし、置かれている物とかも王宮では見られないような物ばかりですよ!凄いです!」
ふ、俺の城が人族の王宮如きに負ける訳がない。
その後もお風呂を見ては驚き、キッチンを見ては驚き、中ホールを見ては驚き、見るもの見るものに感動の声をあげていた。
感動されると俺も悪い気はしない。
とはいってもこの無駄な空間を作ったのはディアブロなんだけど。
「この大ホールってどんだけデカイんですか?」
「俺たちが結婚式をしたホールがここだ」
「みんながいたから気づきませんでしたけど凄い広さですね」
ついこの間のことなのにな。
なんだか懐かしい。
「とはいえあの日以外でこのフロアを使ったことはないのだがな。今後も使うことは恐らくない気がする」
「なんですか、その贅沢な使い方!」
「俺に言うな、文句があるならディアブロに言え」
「掃除だけでも大変そうですね」
「それは俺も思う」
なにせ部屋どころか通路に至るまでホコリの一つも落ちていない。
日頃掃除をしてくれているヤツにも感謝しないとなぁー。
「さぁーてと、次は上に行くか?下に行くか?」
「下から行きましょう、下から」
一番下からだと、最終決戦の間、宝物庫、格闘場。
下二つは論外。格闘場はこの前、一緒に模擬戦で使ったからいいか。
「全部見ても切りが無いからな。無駄な所は省いていくぞ」
地下三階のキッチンに連れてきた。
「圧巻ですねー」
「ここで全員分の食事を作っているのだからな」
「これはこれは、ようこそおこしくださいました。お二方揃ってとは珍しい」
料理長のニクロスが出迎えてくれた。
「少し邪魔をするぞ、ニクロス」
「邪魔など滅相も御座いません」
「いつも美味しい食事をありがとうございます、ニクロスさん。ところで今日のご飯はなんですかぁ?」
キラキラした目で何を阿呆なことを質問しとるんだ。
「セレネ様、それは食事のお時間までのお楽しみということで」
「アルス、今すぐ食堂へ行きましょう!」
「まだ行かんわ!時間が早過ぎる」
「えーっ」
「っていうか、お前は食べる専門だな。たまには料理ぐらいしたらどうなんだ?」
「じゃ、今度アルスにご飯作ってあげるね」
「無理だ!絶対に食べん!」
「そこまで拒否しなくてもいいじゃないですか」
お茶を毒に変える能力の持ち主が作った飯など食えるわけがない。
断固拒否だ。
「大丈夫で御座いますよセレネ様。私が今度丁寧にお教えいたしましょう」
「ありがとうございます、ニクロスさん。よろしくおねがいしますね」
「はい、かしこまりました」
ニッコリ笑顔でなんて約束しているんだ、こいつ等は。
焦げて固くなった肉なんぞ出されたらキレる自信がある。ベチャベチャのポテトサラダなんか出された日には死刑だぞ!
「もういいだろ、行くぞセレネ。ニクロス邪魔したな」
地下二階へ。ここは女性使用人達の専用フロア。
俺もまじまじとは見ていない。がっつり見たのは地下一階だ。
だが明らかに進化していた。
「えっ?ここって城の中ですよねぇ?普通に街があるんですけど」
そう、この居住区。実は完全に街なのだ。
一軒家が建ち並び、メインストリートには店も並んでいる。
悪魔が総勢一万人以上。男女比半々として、このフロアだけで五千人が住んでいる。
人口五千人の街なのだ。
ぶっちゃげ地下一階と地下二階は広さがバグっている。
ディアブロはまだまだ数倍は拡張可能とか言っていたが明らかにおかしなサイズなのだ。
それに俺が『人型になれ』と言ったせいで新しい文化が生まれたらしく、美容室やエステサロン、ネイルサロンなんてのも出来ていた。
服屋やアクセサリー屋は人気が高いそうだ。
食堂や屋台もかなりの数があるのだが料理はキッチンから転移してくるシステムらしい。
街はかなり活気に溢れていた。
セレネはずっと『ここに入りましょう』とか『あそこに行きましょう』とか『あれ、美味しそうじゃないですかぁー』とか、はしゃいでいたが全部却下した。今度ラミアに連れてきてもらえ。俺は付き合いきれん。
続いて地下一階はこれのメンズ版。
理髪店、服屋、アクセサリー屋、トレーニングジム、稽古場、賭博場なんてのもあったが、セレネが一緒だったため、このフロアは軽く見てスルーした。
三階の美術館へ。
「これって魔獣ですよねー?」
「侵入者が来ると動くらしいぞ」
ん、よくよく考えたらこの魔獣を使ってセレネ鍛えればよくない?もしくは闘技場にセレネを監禁して魔獣を転移させればいいんじゃないのか?
おー、思いつかなかった。どっかでドラゴンとか捕まえてきてもいいかもしれん。
「アルスなんかすっごく意地悪な顔してる」
「そうか?いいことを思いついたのでな」
「えーっ、嫌な予感しかしないんですけどぉー」
「気のせいだろ。次行くぞ」
四階、図書館は図書館。
どこからどう見ても図書館だ。説明の必要性もない。ここは静かに見て回る。
図書館で騒ぐやつは俺が許さん。
再び五階、レジャー施設。
相変わらずみんな好き放題だ。
何故か一番充実した空間になっている気がする。
ここに美術館の魔獣を放つのもいいかもしれない。めちゃめちゃ賑やかになりそうな気がする。今度やってみよう。
さぁーてぼちぼちいい時間だ。
「残りはいつもの二フロアだけだ。どうする?風呂に行くか、先に飯食うか」
「お腹は空いてるんですけど、まだ少し時間もありますし、のんびりとお風呂にでもいきませんか?」
「そうだな、あいつらに聞かれるとまた騒がしくなるし二人で行くか」
転移して脱衣所の前へ。
ここで男、女に別れる。
「じゃー中でな」
「はーい」
脱衣所で服を脱ぎ露天風呂へ。
「「お待ちしておりました」」
だからなぜいるんだディアブロ、そしてお前たち。
黙ってきたのに普通にみんないた。
「アルス様の隣に控えるのが私の使命であります」
もういいよ、その件。
どうせ何を言っても聞かないのだろ?
こいつ等はなんで風呂だけはみんなで入ろうとするのだろうか?
しかも普通に混浴になってるんだぞ。
いまや隠しているほうが恥ずかしくなるぐらいみんなフルオープンだ。
風呂での行動以外は、みんなとても優秀だ。
接する態度も仕事も、普段の距離感も申し分ない。
何故に風呂だけ!
「裸の付き合いというやつでございますね」
「だから、お前が言うな!」
「あは、またみんな一緒なんですねぇー」
こうしてまたいつものように、わちゃわちゃと風呂に入り、食堂でセレネの爆食いを見学して、騒がしく一日が終わっていくのであった。
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