俺は秋津島から魔王城へと戻った。
なんで出かける度に絡まれるんだ。
俺は呪われているのか?
「おかえりなさいませ。実に楽しそうでしたね」
「ディアブロ、お前見てたのか?」
「はい、一部始終」
こいつはまじで一度お仕置きをしたほうがいいのかもしれない。
「だったら止めろよ。そして助けてくれても良かったんじゃないのか?」
「いえ、新しいお妃様が増えるものかと思いまして」
やっぱりお仕置きじゃなくて消滅させてやろうか。
「なんで俺が嫁を増やさねばならん」
「魔族の発展のためであります。相手も人族とはいえ王属。問題はないかと」
「そういった身分など気にせん。ただ俺が気に入らんかっただけだ」
あんなに物事を簡単に出来ないと諦めている奴の事なんて愛せるわけがない。
それに俺はどうせ死ぬのだから子供なんて望んでいないのだ。
下手したら産まれてくる前に父親である俺が死んでいるかもしれない。
その後に産まれてくる子供……可哀相ではないか。
なわけで子供はいらんよ。
つーか嫁自体いらんよ。
どうせ俺は死ぬのに俺と結婚させられた女性が可哀相だ。
こいつ等のノリに付き合ってたらどんどん嫁が増えて行きそうで怖すぎる。
只でさえ出掛ける度に女に絡まれ城に持ち帰っているのだ。
一歩間違ったら日に日に嫁が増える。
何故にそんな引っ付けたがるのか……。
子孫繁栄。
一族の繁栄、わからん事ではない。
が頭と心とでの食い違いが大き過ぎるな。
俺はそんな簡単に割り切れん。
「言っておくが、これ以上嫁はいらんからな」
「ははは、かしこりました」
クソ苛つくなぁ、こいつ。
絶対にわかってない態度だ。
それよりもいよいよ待ちに待った昼食だ。
先に秋津島で買ってきた食材をキッチンへ運ぼうかと思ったが、魔術で作った空間収納に入っている物の時は止まる。ここに入れている限り腐ることはない。
後からでもいいか。
俺は食堂へと転移した。
ワクワク感が凄まじい。
なんでか?
それは昼食のメニューがハンバーガーだからだ。
しかも普通のハンバーガーではない。
ドラゴンの肉を使ったハンバーガーだ。
ドラゴンバーガー。
……って名前ダサ。
ありきたりでセンスのない不味そうなネーミングだが、正真正銘ドラゴンの肉を使ったハンバーガーだからドラゴンバーガーである。
ダサいから正式名にはしたくない。
といっても俺にネーミングセンスはないから正式名を公募したいぐらいである。
期待を煽るように、まず転移してきた物はいつものように濃い目のコーヒー、ではなく白のスパークリングワインが出てきた。
俺の好みが良くわかっている。
そう。
まずはコーヒー、ではない。
炭酸ありきのハンバーガーだ。
コーヒーは食後がベストだ。
そしてあえての白。
わかっている。
渋みがあって肉と合う赤ではなく甘みのある白のスパークリングワイン。
ハンバーガーといえば甘めの炭酸だ。
ぶっちゃげコーラが最強なんだがこの世界にはないし、作り方も知らない。
となると白のスパークリングワインを選んだのはナイスだ。
満を持してハンバーガーが転移してきた。
フライドポテトとオニオンリングも転移してきた。
テーブルに勢揃いした食べ物たち。
オニオンリングはなくても良かったのだが言ったのは俺だ。
あったらあったで嬉しいから良しとする。
なかなか完璧な組み合わせだ。
まずは主役のハンバーガー。
焦げ茶色で照りのある丸いバンズは見るからにふっくらふわふわ、それでいてまわりはサクサクそうである。
下からレタス、トマト、パティ、ソース。
至ってシンプルな作りだ。
俺はハンバーガーを紙に包むと大きく一口齧りついた。
全てを超えて口に広がるのは肉の旨味だ。
肉汁、油の甘み、肉肉しい旨味が一気に口を襲う。
後からこんがりと焼かれて表面がサクッとしたふわふわのパンの香ばしさ、ソースのスパイスの辛味と甘み、シャキシャキのレタスの仄かな苦味、フレッシュトマトのジュワっと溢れる果汁の酸味、間に入っていたスライスした玉ねぎのちょっとした辛味、全ての具材が程よく主張してくるがドラゴンの肉を中心に一体となっている。
美味い。
たまらずもう一口齧りつく。
今度は少しソースが多めに口に入った。
ハンバーガーというよりも肉を喰っているという満足感に襲われる。
次はあえて野菜多めに口に入れてみる。
肉の旨味がありながらもサッパリとした野菜がしっかりと主張してくる。
齧るところによっていろいろな味わいが楽しめるように工夫されている。
組み立てのバランスが素晴らしい。
忘れてはいけない。
そう、それは最強の食べ物、フライドポテト。
俺好みの細切りタイプ、フレンチフライだ。
一つ摘んで驚愕する。
なんなんだ……これは……美味すぎるぞ。
サクッとした食感、少し強めの塩分、じゃがいものホクホクとした甘さと周りのほんのり焦げたところのサクサク感とほろ苦さ。
だが、それだけではない。
たまらずもう一つ口に入れる。
ポテトからも肉の旨味が溢れている。
揚げ油か!
まさか……このポテトは、ドラゴンの油を使って揚げているのか!?
風味と旨味が凄まじい。
まさかマ○クのポテトを超える食べ物が存在するとは!
すかさずスパークリングワインをガッと口に含む。
口の中の塩分をサッパリとさせつつ口に広がる甘み。
喉越しのシュワシュワ感。
オニオンリングも周りの衣はサクサクで中の玉ねぎがトロトロになっていて美味い。
そして再びハンバーガーを齧る。
口の中に広がる旨味。
やはりここの食堂は天国だ。
完全に俺を殺しにかかっている。
かなりのボリュームのあるハンバーガーだったが一瞬であった。
ハンバーガーが残りが少なくなって行くにつれ感じる何ともいえない寂しさ、そして完食した後に訪れる猛烈な喪失感に襲われる。
食べ終えてしまった……。
だが忘れてはいけない。
ここは天国だ。
すかさず次のバーガーが転移してきた。
しかも次はチーズバーガーだ。
先程よりもチーズのコクが加わる分だけソースは控えめになっているが溶けたチーズのコクがガツンとしたパンチのある味となり俺を襲う。
トロトロのチーズが肉と絡んで美味い。
そしてさり気なくシャキシャキの野菜達が肉とチーズの濃厚さを抑え良い仕事をしている。
これまたスパークリングワインがよく合う。
最高だ。
おそらくこの世界中で俺だけが、俺こそが世界一の幸せを味わっている。
そう思えるほどの味。
美味すぎるぞ、ドラゴンバーガー。
……って、やっぱり名前がくっそダサい。
余りにもダサ過ぎる。
ドラゴンバーガーはなさ過ぎる。
……ドラゴンサンドバーガー……
これまたクソダサい。
多分言葉的には間違ってなさそうなんだがなんか違う。
ダメだ。
やはり俺にはセンスがない。
いかん。
わけがわからん事を考えずに味に集中しなくては勿体無さ過ぎる。
俺は無心でチーズバーガーを堪能した。
やがてチーズバーガーもなくなり、おかわりのポテトを摘んみながら少し食べ足りなさとハンバーガーがなくなった喪失感を感じる。
大丈夫だ、充分美味かった。
って、追加のバーガーきたぁーー!!
次に来たのは照り焼きだ。
ドラゴンの照り焼きバーガーだ。
一気に食欲に火がつく。
思いっきり齧りつく。
肉の甘み、旨味。
そして照り焼きソース特有の甘さとしょっぱさ。
野菜の旨味とマヨネーズのコク。
照り焼きソースには隠し味に少量の生姜を使っているのか。
クドくならない工夫がある。
美味い。
至高の食べ物がそこにはあった。
結局気づいたら味を変えながらハンバーガーを八個も食べていた。
そしていまマッ○よりも美味い最強のフライドポテトを摘みながらスパークリングワインを飲んでいる。
「ポテトって永遠食えるよなぁー」
絶対に永遠には食べれないんだけど、俺の頭に毎回浮かぶフレーズである。
この満腹になっているのにポテトを摘んでいる、このまったりとした感じがたまらない。
この後もしばらく一人で幸せにひたりながらダラダラとポテトをおかわりしまくっては摘んで酒をひたすら愉しんだ。
心ゆくまでポテトを食べた後、食後のコーヒーを飲みながら少し食堂でまったりとした時間を過ごした。
その後、キッチンへと転移し昼食が美味かったことをニクロスに伝え、残った材料でハンバーガーとポテトを作らせまくって空間収納にストックしまくった。
これで出来たてのドラゴンバーガーと揚げたてポテトがいつでもどこでも好きな時に好きな場所で食べられる。
ははは、笑いがとまらんよ!
そして忘れないうちに秋津島で購入した味噌汁の材料や干物、市場で買った魚介類を渡した。
材料の使い方や調理法などの詳しい事はディアブロが指導してくれるだろうから、素人の俺が変に口を出すこともないだろう。
これで近いうちに食卓に味噌汁がでてくる。
その時を期待しておこう。
あ、豆腐とワカメを忘れていた。
俺はすぐに秋津島へと転移すると、酒蔵の女将さんの所へ行き、豆腐屋の場所とワカメを売っている場所を聞いてから、豆腐とワカメを買ってきた。
転移は便利である。
すぐに買い物に行ける。
再びキッチンへと豆腐とワカメを渡しに行き、俺は玉座の間へと転移した。
なんでこんなに今日は忙しいのだろう。
充実はしているがバタバタしすぎだ。
つーかマジで食べ物のことばっかりやな。
後は出掛ける先での女性トラブルか。
今日は少し大人しくしとこうかと思ったが、なんとなく、本当になんとなく精霊大陸の事が気になったので様子だけ見に行くことにした。
俺は気まぐれに精霊大陸へと転移したのだった。
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