討伐されたい転生魔王

〜弱すぎ勇者を強くする〜
ただのこびと
ただのこびと

優勝者

公開日時: 2020年10月14日(水) 00:00
文字数:3,193


俺は一人バルコニーで昇る朝日を眺めていた。


昨日は酷かった。

だいぶ酷かった。


朝からボーリングをし、山で昼食をとりドラゴンを狩り、黄金の国をブラついた。

夕食で昼に狩ったドラゴンの肉を思う存分堪能して、ゆっくりと風呂に入った、ところまでは良かった。


風呂につかりながら綺麗なお姉さんのメティスにお酌して貰った、ところまでも良い。


だがメティスに酒を飲ませてはいけなかった。

最終的には朝までひたすらまとわりつかれた。

風呂から出て服を着るために引っ付いているメティス引き離したら凄い勢いで号泣された。


だがそれも良いのだ。

俺だって男だ。

酔っているとはいえ綺麗なお姉さんにまとわりつかれて悪い気などするはずがない。

もはやお金を払っても良いぐらいだ。

すごく良かった。

お金を払うからまた是非お願いしたい。



只々セレネがウザかった。


セレネは風呂場でメティスの酒を奪い取り一気に飲み干すとただの酔っぱらいになった。


叫ぶし喚くし、泣くし怒るし、暴れるし……最終的には剣まで抜いたからな。

酒癖悪いフルコースだ。

酒乱の域を軽く超えていた。


メティスが引っ付いていた事もあり、風呂を出た後に向かった食堂では謎の宴会が始まるし、カオスな状況がひたすら繰り広げられた。


気づけば、調子に乗ってディアブロとラミアが煽りだすし、セレネはセレネで煽りに乗っかるし……


メティスはずっと引っ付いたままだったし、気づけば一人無言でちょこちょこ酒を飲んでいたエイアは酔い潰れていたし、ラミアも気づいた時には潰れていた。


俺とディアブロを除く、騒ぎの張本人達は朝方になってようやく眠りについた。



そう先程ようやく解放されたのだ。


はぁー、朝日を眺めながら飲むコーヒーが美味い。



「アルス様、先程ボーリング大会が終了したそうです」


えっ、あの大会ってまだやってたの?昨日から?ずっと?

確かに参加者一万人規模の大会だ。

だからといってまさか夜通し行われていたとは。


仕事があるものは仕事を優先しながら空いた時間で大会に参加していたそうだ。


なんなの?その頑張り具合は?

魔族は食べなくても寝なくてもいいのは知っている。

仕事もきちんとしてくれてたなら文句はない。

けど、そこまでしてボーリング大会やるか?


「お疲れの所を申し訳ないのですが一言頂ければと」


「わかった。行こうか」



転移してレジャー施設へと向かった。


食堂で酔いつぶれているセレネ、ラミア、メティス、エイア以外のみんな揃っているようだ。


「第一回魔王杯ボーリング大会の優勝者を発表致します」


「「「ウワァァー!」」」


ディアブロが司会をやりだした。

みんなも盛り上がっている。


「優勝者、キッチン担当パン職人!前へ」


「はっ」


「「「ウワァァー!」」」


ディアブロから目で合図された。

何か言えってことだろう。


「お前が今回の優勝者か。パン職人と言ったが毎朝パンを用意してくれているのはお前か?」


「はっ、アルス様にお出しするパンは全て私が命をかけて焼かせて頂いております」


いやいや、それは重すぎるぞ。


「これだけの数の中から激戦を勝ち上がったのだ。運だけではなく実力もあるのだろう。褒美に『ダゴン』の名をやろう。優勝おめでとうダゴン。これからも美味しいパンを頼むぞ」


「はっ、有難き幸せ」


「「「ウワァァー!!」」」


観客から大歓声が上がった。


ってダゴン、お前もそうだが何故に名を付けると泣くんだ。

まぁ、喜んでくれているならいいのだが。

ぶっちゃげお前には毎日パンを焼いてくれて感謝していたから優勝しなくても名前ぐらいあげるつもりだったんだけどな。

丁度良かったといえば丁度良かった。


「これにて第一回魔王杯ボーリング大会を終了とする!」


「「「ウワァァー!!!」」」


大会は大盛況で幕を閉じた。

こんだけ盛り上がってくれたのなら定期的に何かしてもいいかもしれないな。

ただし人数が多過ぎる。

もう少しちゃんと日程は考えたほうがいいかもしれない。


そういえば、いつから魔王杯なんてついたんだ。


なんにせよ見切り発車で始まった大会だったが無事に終われて良かった。




さてと朝食には早いが食堂でのんびりするとしようかな。


ってダメだ。


あそこには眠りについたばかりのゾンビ達の巣窟と化していたんだった。

下手に刺激したら再び目を覚ましてしまうかもしれない。

そして俺が襲われる。


さてどうするか。


「食堂でしたら片付いております」


「はぁっ、もう片付け終わっているのか?」


「はい、セレネ様を含めて寝ている方はお部屋へとお運びさせていただきました」


転移で運べばすぐか。

にしても手際がいいな。


「では食堂へと向かおう」



転移して食堂へといった。



確かに先程までの地獄絵図は鳴りを潜め、いつもの食堂になっていた。


いろいろと人には言えないようなあんな汚れやこんな汚れも跡形もなく綺麗になっている。

ちなみにエロい汚れではないからな。

掃除担当のエイアも寝ていたと思ったのだが、他の者がやったのか?

なんにせよ優秀な配下が多すぎるな。


「コーヒーを頼む」


いつものように濃い目のコーヒーがすぐに転移してくる。

うん、美味しい。


そして転移してきた物に俺は驚く。


焼き立てのパンである。


パン職人のダゴンはさっきまで表彰式にいたはずだ。

しかも決勝戦まで行ったならギリギリまで試合に出ていたはずだ。

予め下準備をしておいて、決勝戦を制し表彰式に出て、この短時間で焼いたのか?

能力高すぎるだろ。どんだけ凄いんだ。


そして更に料理長ニクロスの仕事に驚かされる。


すじ肉の煮込み。

見た目はビーフシチューのようなブラウンソース。

食べて更に驚かされる。

ドラゴンのすじ肉の煮込みだった。

長時間煮込まれトロトロになった部分とまだ少し歯ごたえが残っている所があり旨味が凄い。

そしてパンにめちゃめちゃ合う。


昨日のドラゴンの残った部分らしい。

確かに皮は食べれそうにないがスジなんかは余りが出る。

それを捨てずにちゃんと調理する所が流石だ。


ちなみに昨日食べた肉の残った端切れの部分はひき肉にしてからハンバーガーにして昼食に出してくれるそうだ。

今から昼食が楽しみでしょうがない。


ニクロスに言ってフライドポテトの用意もお願いしておいた。



「そういえば気づいたらボーリング大会が魔王杯になっていたんだが、あれはなんなんだ?」


「魔王様から名前が頂ける大会を総称して『魔王杯』と名付けさせて頂きました」


なるほど、この大会は魔王主催でマジですよ。

みたいなことやね。


まぁ今後開催するかどうかは俺の気分次第なんだけどな。



というか今日の予定どうしよ。

セレネはさっき寝たばかりだからしばらくは起きないだろう。

下手したら起きるのは夕方だろう。



うーん、下手に他の国の探索に行くと、また別の女の子をお持ち帰りしてしまいそうで怖いし、城の中では特にやることない。

うーん。

昨日の今日でまた日本もどきの島にでも行くか?

あら方いるものは買ったからなあ。


あっ!そういえば出汁を買ってない。

鰹節や昆布、いりこなんてのは日本特有の品物じゃなかったか?

なんてことだ、味噌汁が飲めないじゃないか!

だから昨日は味噌汁が出なかったのかもしれない。

出汁とのバランスで完成しなかった可能性が高いな。

そうなると出汁を買いに行くか。


忘れにワカメも買っておかないと。

そうなると豆腐もだな。



って、ちょっと待て俺!


思考回路が食に偏り過ぎではないだろうか。

いや偏っている。

確かに前世の記憶がある以上、日本食を求めるのは必然だ。

だからといって拘り過ぎていないだろうか。

いや拘っている。


こんなに食に拘るヤツではなかったんだがな。

なんでこうなった?

魔族になった弊害か?


セレネの変な病気が移ったか?

それはない、とも言い切れないから怖い。


一旦、食のことは忘れて何か違う事を考えよう。



……。


浮かばなかった。


何も浮かばないならしょうがない。



黄金の国に行って味噌汁の材料だけ仕入れに行くとしよう。



俺は昨日に続き再び黄金の国へと転移した。



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