朝食を済ませた俺達は玉座の間へと集まっていた。
「朝から……食べすぎたな……」
のんびりと朝風呂に入る予定が、結局いつものように魔族が待ち構えていたせいでわいわいと賑やかに入ることとなった。
入浴後は、食堂へと向かったのだが、食堂のテーブルの上にはアホなのかってぐらい豪華な食事が並んでいたのだ。
誰だよ、朝から豚を丸焼きにしたヤツは!
せめて鳥ぐらいにして欲しかった。
いや、違う!
そもそも朝から丸焼きはやり過ぎだ。
ベーコンエッグぐらいで丁度いいんだぞ。
だが、悔しいことにどれもこれも美味しかった。
普段は顔を見せない料理長のニクロスも食堂でニコニコ顔だった。
朝から豚の丸焼きを用意した犯人がここにいるのだが、俺が朝一にノリで命名をしたせいだとはとても言えない。
もはや完全に食べれないとは言えない空気だった。
「私は満足です。幸せです。ニクロスさんには感謝です」
そこには朝から壮絶な戦いを終えたファイターの姿があった。
ちなみに丸焼きの豚の殆どはファイターの胃の中だ。
「セレネは凄いな」
「朝から記録更新ですよ。自己新です」
これからダンジョンへ潜るとは到底思えない空気感だ。
さぁーてと北のダンジョンへと向かわないと行けないのだがこのやる気がでないダレた感じはどうしたらいいものか。
そういえばセレネのランクは27になっていた。
えげつない。
ランクがレベル単位で上がっていく。
もはや文句を言う気もないが。
そして、霊獣の祝福の効果で属性への恩恵を得ているらしい。
光属性の強化と無効化。
火属性の強化と無効化。
水属性の強化と無効化。
最後の水属性の恩恵で水中でも呼吸出来るようになっているらしい。
恐ろしい。
どんどん人間から遠ざかっていく勇者の図。
セレネならそのうち普通に空とか飛びそうだもんな。
おっと話がそれた。
緊張感の欠片もないが出発するとしますか。
「セレネ行くぞ!ディアブロ後は任せた」
「いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」
俺はセレネを抱えて北の海上空へと転移した。
「さぁーてと、もう俺がどうこう言う必要もないだろ?」
「えっ!こんな所でまさかの置き去りですか?」
「違うわ!俺も行くが、いらん心配はもうせん。一人でやれるだろ?」
「うーん、まだ自信はないですけどねー。頑張りますよ」
「まぁ水で呼吸が出来るんだ。なんとかなるだろ」
俺はセレネを抱えて渦潮の中へと入っていく。
深い海の底に入口らしき建物があった。
周りは苔で覆われてボロボロになっている。
入口らしき所から慎重に中へと入る。
通路の作りは今までと変わりはなく、光もある。
ただし、中に入れば空気があるのかと思ったが完全に水浸しだ。
青龍を討伐して祝福を受けてなかったら完全に無理ゲーである。
先程からセレネを確認しているが普通に呼吸している。
本当に人間をやめていた。
残念ながら会話はできない。
声を発しても聞き取れないのだ。
とりあえず魔術を使って話しかけてみる。
『セレネ鼻水が垂れてるぞ』
急にバタバタと鼻をつまむセレネ。
『急に何言ってんですかぁー!』
おお、普通に出来た。
『いや、魔術で会話出来るか試してみただけだ』
『その言葉のチョイスはないでしょー』
『安心しろ。見たままを言っただけだ』
『ほんとなんかい!』
まぁーこれで中での会話はなんとかなったな。
残る問題は、
『ほら、来たぞ』
現れたのはニメートル程の魚の魔物。
トビウオのような羽を付けていて口がカジキマグロみたいに尖っている。
凄いスピードで突っ込んでくる。
さすが魚だ。かなり早い。
セレネは身を捻るが殆ど同じ場所から動いてない。
魚の魔物、改めカジキくんに吹き飛ばされるセレネ。
やはり水の中だと動きに制限がかかるらしい。
必死に体制を整えようとするがカジキくんのほうが早い。
再び吹き飛ばされるセレネ。
だが先程のように体制が大きく崩れることはなかった。
三度方向を変えて突撃してくるカジキくん。
セレネはすっと身体を動かしてすれ違いざまにカジキくんを斬った。
真っ二つだ。
俺のカジキくんは光となって消えた。
よく見るとセレネは薄く身体を覆うように魔術を展開していた。
強化された水の魔術で身体を覆っているのだろう。行きたい方向の逆に水を出す。そうすることで水の中でスムーズに移動した。
そんな感じかな?
ほんとに人間じゃなくなっている。
ちなみに俺もやってみたら普通に出来た。
歩くより早いし慣れると基本的に浮いているだけだからめちゃめちゃ楽。
魔術もこういった使い方が出来るとは奥が深い。
今回は探知の魔術は使わない。
基本的にセレネが行きたいところに付き合うだけだ。
戦闘もセレネにお任せ。
現れたカジキくんはどんどん捌かれている。
密かにカジキくん美味しそうだなーと思っているのはナイショである。
快適なスキューバーダイビングの旅が続く。
景色は洞窟の通路のみ。
そして浸すら捌かれるカジキくんの群れ。
飽きてきた。
いろんな景色がみたいしいろんな魚が見たい。
基本的にダンジョンってモンスターが固定っぽい。
いろんな魚に出会えることはないのだ。
カジキくんが食べれるなら、俺は本気で漁を開始したであろう。光になって消えるのだから食べようがない。
ダンジョンの特性とはいえ残念でならない。
ちなみに光になって消えるのはダンジョンの特性だ。たまに魔物の一部分が残る事もあるのだそうだがそれは素材として使われる。
ダンジョン以外のモンスターだと死体はそのまま残る。
今度適当な海に潜って漁でもしようかなぁ、ってゆうか今から行こうかなぁ。
新鮮な魚が食べたくなってきた。
カジキくんのおかげて猛烈にマグロが食べたい。イカやタコなんてのもいいな。
いかん。頭の中がセレネになっていた。
海はまた今度行くとしよう。
幸いなことにダンジョンは狭かった。
すぐに下に続く道が見つかり気づけば一番下の階まで到達していたらしい。
いつものようにセレネが扉を見つけたからだ。
扉の中には空気があった。
「なんとも不思議な作りだな」
扉の外は水が溢れているのにこちらには入ってこない。ファンタジー仕様だ。
「はぁー、やっと陸地ですね」
「ホッとするのもいいが準備は怠るなよ」
「はーい」
事前に説明もしているからとやかくは言わない。
「でも陸地って疲れるんですね。水の中のほうが楽でした」
何を言うかと思ったら水中競技のアスリートみたいなこと言い出した。
「だな」
残念ながらその意見には同意なのだ。
慣れると水の中のほうが楽である。
魔術があるから尚更。
浮力を受けなくなるからだろうが陸だと身体が重く感じる。
そのうち元の感覚に戻るんだろうけどな。
「準備が出来たならそろそろ行くか?」
「オッケーです」
ボスの扉を開けて中へと入る。
これまでで一番広い。
縦横数百メートルはある。
「デカイな」
中央にはデカイ亀がいた。
全長二十メートル以上はあるか。
尻尾が蛇のドデカい亀がいた。
玄武だ。
セレネは一気に突っ込んで行く。
亀の背に乗ると剣を突き立てるが、ガギンッ!と弾かれる。
どう考えてもあの甲羅は硬い。
硬そうに見える。
尻尾の蛇がセレネに襲いかかる。
それを躱しざまに斬りつける。
甲羅は無理と悟ったのか、亀の背中から降りて剥き出しの手足に的を絞ったようだ。
蛇の攻撃を避けながら浸すら亀の手足を斬りつけている。
このまま一方的に終わるかと思ったがそうはいかない。
蛇の傷が治っている。
よく見ると手足の傷もどんどん治っているな。
どうやら亀は自動回復持ちらしい。
「喰らえぇー!白い雷」
ズドォーーン!
「くっそ!やっぱ無理かぁ!」
直撃した亀は無傷。
玄武は地属性持ち、雷は無効だ。
セレネとの相性は最悪だ。
セレネの攻撃力は高くはない。
見た感じ、亀の体力は多そうである。
しかも回復持ち。
こりゃ長引くなぁー。
実際にかなり長引いた。
一度は迫りくる蛇を切断したのだが時間の経過とともに再生された。
斬りつけている足も半分は再生されている。
セレネは相変わらずノーダメージではあるのだが。
こうして、長い、アホみたいに長い戦いが幕をあけるのであった。
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