俺は味噌汁の材料を求めて、昨日に続き再び黄金の国へと転移した。
転移したのはいいのだが、思い付きですぐに行動するものではなかった。
昨日良くしてくれた酒蔵の女将さんの所へ行ったのだが、まだ店は開いていなかったのだ。
一瞬今日は休みなのかと思ったが周囲にある他の店もまだ開いておらず商店街は閑散としていた。
そこでまだ朝のかなり早い時間だった事を思い出した。
日の出を見てからボーリング大会の表彰式をして、朝食をとってすぐに転移して来たのだ。
こんな早い時間ならまだ店が開いていなくても当たり前だな。
ちゃんと営業時間を聞いておくんだった。
ミスった。
市場とかなら開いているかもしれないと思い、閑散とした商店街を一人歩いた。
といってもどこに市場があるかなんてまるで知らない。
人もいないので道も聞けない。
うーん。困ったもんだなぁ。
やがて商店街の端まで来てしまったらしく道はどんどん狭くなる。
人どころか店らしき建物もなくなってきたので一旦帰ろうかと思ったら女性の悲鳴が聞こえた。
……ベタなイベント発生だ。
そう思ったが悲鳴が聞こえたのに無視は出来ない。
とりあえず声がした方向へ歩いていくと一人の少女がいきなり抱きついてきた。
これまたベタな展開である。
「どこの誰だかわかりませんが追われているんです。助けてください」
どこまでもベタな展開である。
パッと見て十代半ば、島特有の黒髪に黒い瞳。
仕立ての良い着物を着ている。
彫りは深くないが綺麗で可愛らしい顔をしている。
胸の大きさは着物でわからない。
切羽詰まった状況なのはわかるのだが、この少女をいきなり信用するほど俺もアホではない。
この子が極悪人の可能性だってあるわけだが……。
「おい、兄ちゃん痛い目にあいたくなければその女をよこせ」
はい、極悪人の登場だ。
相変わらずベタベタな展開だな。
とりあえずこいつ等はアウトだ。
何がって言葉遣いと見た目がアウトだ。
とりあえず一旦話しを聞きたいので追いかけて来た奴等の動きを魔術で縛る。
「俺も痛い目にあっている野郎共の姿なんか見たくないんでな。少し大人しくしておいてくれ」
俺はしがみついている少女に視線を向けると声をかけた。
「状況を説明してもらおうか。何から逃げている。そしてお前は誰だ」
俺からゆっくりと離れるともじもじしながら話しを始めた。
「いきなりですみませんでした。あの私は秋津島の娘で千代と申します。追いかけて来ていたのは、えーと……あの……ですね……」
全くわからん!
「悪いがここへ来て間もない。わからない事ばかりだからこちらも尋ねるが、秋津島とはこの島の名称でいいのか?」
「そ、そうです。この島国が秋津島です」
「でその娘とは?姫様か何かってことか」
「そうです。この国を治める秋津家の娘です。千代と言います」
「でこいつらは?」
またもじもじしだした。
「あの……言い辛いのですが……家臣です」
なるほどね。
ベタベタのベタな展開か。
「ようは、この国のお転婆姫が城を抜け出した。そして家臣から追いかけられていた。ってことだな?」
「……そうです」
アホだ。アホがいた。
「仕事の邪魔をして悪かったな」
俺は動きを縛っていた魔術をといた。
「こちらこそ姫が迷惑をかけて悪かったな。慌てていたとはいえ口が過ぎたことを詫びよう」
やはり、話せば分かり合えるもんだな。
「いや気にするな。お前等はお前等の仕事をしただけなんだろ?ほらお前もおとなしく城へ帰れ」
「帰りたくないんです!あそこは嫌なんです!」
なんじゃそりゃ!
「城に住む姫なんだったら自由はなくとも不自由は少ないだろ?」
「私は自由になりたいんです」
ガチめのアホだ。
「で、どうしたいんだ?」
「とりあえず自由になりたいんです」
ダメなタイプのアホだった。
「だったら自分で親を説得しろ!そして自由を勝ち取れ!それができないなら大人しく従え。そのほうがお前のためだ」
「そんなこと言わなくてもいいじゃないでずがあーーーん」
強めに説教したらめちゃめちゃ泣き出した。
「貴様姫様になんて事を!」
ガキーンッガキーンッガキーンッ!
おお、こいつら全員いきなり刀で切りつけてきやがった。
無論防御なんてしてない。
奴等の刀が折れて飛んでいった。
「バ、バカな……刀が折れた……だと……」
いい感じにベタなリアクションありがとう。
雑魚い感じの演出は満点だ。
話しをすれば分かり合える奴等かと思ったのにいきなり実力行使とは、只々残念だ。
「お前等は俺に剣を向けた。ということは俺の敵だな」
俺は敵に容赦はしない。
さてお仕置きの時間だな。
行動にでようとしたら姫様が引っ付いてきた。
「申し訳ありません。私が悪いのです。どうかお許し下さい」
ほう。こいつはちゃんと相手の力量がわかるらしい。
俺は姫様に【鑑定】のスキルを使った。
秋津千代
人族(人王属)
ランク 3
攻撃力 F
防御力 F
素早さ E
器用さ E
知力 C
スキル
【指揮官B】【忍B】【精霊王の祝福B】
こいつも【精霊王の祝福】持ちか。
というか王属はみんなランクは違えど持っているのかもしれんな。
にしても【指揮官】に【忍】かあ。
指揮官はそのまんま指揮官なんだろうな。
指揮能力が高いとか、指揮する兵にバフがかかるとかか。
忍、ってことは忍者か。
なんだ忍者って。潜伏とか偵察が得意とか?よくわからん。
にしてもここが前世でいう戦国時代とかなら指揮能力が高いとなると期待はされているのかもしれないな。
男尊女卑がどこまであるかもわからないが。
「わかった。今回は姫様に免じて許してやろう」
「旅の方ありがとうございます」
「ただしお前等、次に刀を向けたら即座に殺すからな。肝に命じておけよ」
って、めちゃめちゃガクブルしとるやんけ。
「それじゃー、俺は帰るからな。強く生きろよ!」
「待ってください。私も連れて行ってください」
なんなんだ。テンプレかよ。
ベタな展開はこれ以上いらないんだよ。
「お前みたいなヤツは面倒しか起こさんから正直いっていらん。俺の平和を乱すつもりならこの島を沈めるからな」
俺は姫様を置き去りに城へと転移しようとしたらタイミング良くしがみついてきやがった。
「おかえりなさいませアルス様。と、これはまた」
くそ、引っ付いて来やがった。
「何ここ?夢の世界ですか?」
すぐに島へと返そう。
「夢で見たよりも凄く綺麗……」
当たり前だ。
世界最高峰の魔王城だぞ。
「……こんなの初めて見ました」
国が違うからな。
見るもの全てが新しいだろう。
「私が来たかった場所はここだったのですね。何度も夢に見た場所です」
そういえばここに来た奴等みんな、夢に見たとか憧れていたとかそんなことを言うな。
「夢に見ていたのか?」
「はい。毎日という訳ではないのですが鮮明に記憶に残る夢でした。少し形は違うんですが間違いなくここが夢で見た場所なんです」
【精霊王の祝福】とやらに何か関係があるのかもしれんな。
「それでその夢でここへ来て何をするんだ?」
「はい、魔王を殺せと。実際に夢で魔王と戦ったというわけではないんです。ここに似た場所へ来て魔王を殺せって言われるんです」
一種の暗示か?
というか、夢に出てくるって、もはやただの呪いだ。
「で、実際に似た場所へ来て声は聞こえないのか?と言うか魔王を倒さないのか?」
「魔王なんて倒せるわけないじゃないですか!悪魔のような風貌をした悪魔なんですよ!それに私は刀も握れないんです。倒す以前に戦えません」
「ははは、悪魔のような風貌をした悪魔か。そういった悪魔なら俺も見たことはあるが、俺も悪魔のような風貌をした悪魔なのか?」
「どういうことですか?」
「俺が魔王だ」
「……はぃ?」
きょとんとするなリアクションをしろ。
俺がスベったみたいになってるじゃないか。
「俺が全ての魔族を束ねる魔王だと言ったんだ」
えぇぇーーーーーっ!!!!
凄い叫び声が部屋に響くのだった。
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