ボーリングは大いに盛り上がり一段落した。
他の者たちはこのまま夜までボーリングを続けて優勝者を決めるそうだ。
昼食を食べるためにどこか景色が良い場所へと移動しようと思うのだが、残念ながら俺はこの世界の事をあまり知らない。
景色が良くて美味しく食事の出来る場所はないのだろうか。
「お待たせいたしました」
タイミングよくディアブロが戻って来た。
「悪いんだがどこか、景色が良くて昼食をとるのに最適な場所は知らないか?」
「良い場所を知っております」
さすがディアブロだ。
俺は詳しいことは何も知らんから丸投げだ。
「そこへと案内してもらってもいいか?」
「かしこりました」
昼食を食べるためにみんなで転移した。
ただ残念なのが、鎧くんは城の警備があるからと城に残ったことだ。
転移した先は山脈の中で一番高い山の山頂であった。
雲一つない暖かな場所だ。
街や川、草原、麓に広がる森など遠くまで見渡せる。
まさに絶景である。
天気もいいし、風も少ない。
通常ならここまで歩いて来ないといけないのを考えるとやっぱり転移は便利だ。
山頂へ辿り着くまでに味わうであろう辛さや、見る景色、肌に感じる自然、それこそが醍醐味だあ!とか言うヤツの意見は無視だ。
俺はロープウェイがあれば使うし、エレベーターがあれば躊躇わずに使う。
「さすがだな。かなり良い場所だ。早速昼食の準備をするとしよう」
俺は魔術でテーブルや椅子を作り、ディアブロが風避けと日差し避け用に屋根と片側だけ壁になった簡易のテントもどきを作ってくれた。
食器の類はディアブロの便利魔術で転移してきた。
「先程アルス様が仰っていた食べ物が完成したのでお持ち致しました」
おお!見た目は完全にハンバーガーとホットドッグだ。
ハンバーガーには途中でソースが溢れないようにちゃんと包み紙も用意されているではないか。
こういう所に気が回るのは流石だ。
「アルス、これってどうやって食べるの?」
「セレネ、お前がそれを聞くのか?いつものように手掴みだ。ただし途中でソースや中の具が溢れる危険がある。この包みの中に一度入れてから食べるんだ」
俺は手本を見せながら一口齧りついた。
おー!美味い!
甘辛いソースに口に広がる肉汁、野菜のシャキシャキ感も程よくアクセントになっている。
よく見るとハンバーガーはいくつかの種類があった。
トマトソース、チーズ入り、照り焼きの三種類だ。
ちなみに俺が食べているのは照り焼きだな。
「なにこれ!めちゃめちゃ美味しんですけど!」
「手で食べるのはどうかと思いましたけど美味しいですわね」
「美味」
「おいしいです」
セレネ、メティス、ラミア、エイアからも好評だ。
そういえば配下の物と一緒に食事をするのは結婚式の時以来だな。
普段は絶対に同じテーブルにつくことはないからなあ。
こういう日をたまに作るのはいいかもしれない。
「ディアブロは食べないのか?」
「試作品をいくつか食べておりますので」
嘘か本当かは知らないが皆の給仕に徹してくれている。正直ありがたい。
そういえばホットドッグもあったな。
紙の上にホットドッグを乗せて軽く包み、ガブッと齧りつく。
「これまた美味いな!」
パリッとしたソーセージ、溢れる肉汁、酸味の効いたトマトソースが口の中で一体になる。
ハンバーガーの時もそうだったがこのホットドッグもパンが美味い。
あえてパン特有の風味を抑えて肉やソースの控えに回っているが素材によって小麦粉や焼き方、パンの種類をキチンと変えてある。
素晴らしい仕事だ。
今回のホットドッグはプレーンタイプのみだったので好みによってはマスタードやフライドオニオン、ピクルスなんかを添えてもいいかもしれない。
こうなるとフライドポテトと炭酸が欲しくなるな。
次回は用意してもらおう。
というか、さっきからグォォーという地鳴りのような音が煩い。
みんなで楽しく飯を食っているときぐらい静かにして欲しいものだ。
心なしか風もでてきたか?
簡易テントを出て空を見上げると鳥のようなものが旋回していた。
ほう、さっきから煩いのは貴様の仕業か。
俺達の食料を奪おうというわけだな。
俺は鳥に向かって圧縮した魔力をぶっ放した。
ドガァァーーン!
直撃を喰らった鳥は白煙に包まれたまま落下してきた。
近づいてくる度にその姿が段々と露わになる。
なかなかのデカさだ。
やがて地面へと落ちた。
体長十メートル。
真っ黒な鱗をしたドラゴンだった。
既に白目を向いて気絶しているようである。
「よし、セレネ。とどめを刺してこい」
「よし、じゃなーい!なんで、いきなりドラゴン撃ち落としてんのよ、あんたバカなの!?」
「ほう、セレネ。俺に喧嘩を売っているのか?」
「そうじゃないけど、なんでお昼食べてただけなのにいきなりドラゴン退治になるのよー」
「煩かったからな。ほら早くいかんと意識が戻るぞ」
「わかりましたよ!やればいいんでしょ!やれば!」
セレネは剣を逆手に持つとひたすら首に剣を突き立てている。
ガギンッ!ガギンッ!ガギンッ!
なんかスゲー音だな。
鉄と鉄が激しくぶつかるような音が辺に響き渡っている。鍛冶屋かここは。
ようやく静かになったと思ったのに余計に煩くなってしまった。
さすがはセレネだ。
俺の予想の遥か斜め上を行きやがる。
「ははは、これはおもしろい。流石でございます」
「どうかしたのか?」
「このドラゴンは、エンシェントドラゴンにございます」
は?これが?
討伐の予定を立てていたエンシェントドラゴン?
世界最高峰のドラゴンだったか?
これがか?
ってことはここは西の山脈地帯だったのか。
「よっしゃーーーっ!」
いちいちやかましい。
やっと終わったか。
って、あーー!
ドラゴンは光りとなって消えていく。
くそ、ダンジョンじゃないから死体は残ると思っていたのになんて事だ。
ドラゴンで焼き肉したかったのに、くそ!
肉も骨も無くなり、でっかい魔石だけが残った。
はぁー、ため息をつきながら魔石を回収すると空間魔術で収納した。
「やりましたよ。これで私もドラゴンキラーですね」
やりましたよ、じゃないし。
ドラゴンキラー?なんじゃそりゃ。
「ドラゴンを討伐した者が名乗れる称号でございます」
まじどうでもいいな。
それよりもドラゴンの肉……。
「なあ、ディアブロ。ドラゴンの肉って美味いのか?」
「魔物の肉はランクが上がるほど美味しいとされています。ドラゴンはその中でも最高峰の肉になります」
聞くんじゃなかった。
残念感が半端ない。
「アルス、なんでそんな顔であたしの事見てるの?えっ、あたしなんかした?」
こいつしらばっくれやがって、|ドラゴン《俺の肉》を光りにしただろうが。
この罪は重いぞ。
よし、こうなったらドラゴンを狩りに行こう。
そうしよう。
「お前等はそのまま食事を楽しんでいてくれ。ちょっと一狩り行ってくる」
俺は魔術を薄く広げて魔物の位置を探る。
…………いた。
すぐさまその方向へ飛ぶ。
山の崖沿いにある洞窟の入り口。
体長五メートルほどのドラゴンをみつけた。
そのまま急降下するとドラゴンの頭をおもくそぶん殴って吹き飛ばした。
洞窟の奥には群れがいたがとりあえず一匹いれば充分だ。
俺はドラゴンを抱えるとそのまま山頂まで戻った。
「ふう、ただいま」
「おかえりって早っ。って何それ、うわぁー、そのドラゴン頭吹き飛んでんじゃない!」
「血抜きだ」
「おかえりなさいませ」
「今日の晩ごはんに頼む。出来ればシンプルな焼き肉がいい」
「かしこまりました」
ディアブロはドラゴンの死体をスッと転移させた。
おそらく厨房へと運ばれたのだろう。
まだ昼食中だというのに晩ごはんが楽しみでしょうがない。
さぁーてと、それまで何して遊ぼうか。
まだまだ時間はたっぷりとある。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!