魔王城三階、美術館。
ここの壁には等間隔に、豪華な額縁に入ったよく解らない絵が大量に飾られている。
残念ながら俺には絵心がない。
学生時代でいえば美術の成績は良かったがアート作品とかになるとからっきしだ。
恐らく前世で言うところのピカソやゴッホなどのメジャーな作家の絵が並んでいるのだろう。
そしてフロアの至るところには魔獣の剥製。
正確には剥製ではなく時を止められているだけで生きているらしい。
そんなメインフロアの中央にはでかい龍の骨格標本がある。
全長十メートルは軽く超える。
とはいえ骨だけだから比較的小さく見える。
「まさかこいつが黄龍だったとは」
当たり前の用に置いてある骨格標本が霊獣で、しかも黄龍だと誰が思うのだ。
「いまさらこいつを倒してもなあ」
一度ディアブロに敗れ、その上、骨にされているのに、わざわざ蘇らせてもう一度倒す必要性が俺にはわからない。
こいつは無視だな。
そうなると残るはドラゴンの討伐か。
各ドラゴンの棲家は以前調べさせている。
直接乗り込んで倒していくか。
配下に行かせて闘技場へと転移させて倒すか。
まあ、ぼちぼち考えよう。
俺は玉座の間へと転移した。
「おかえりなさいませ」
「セレネはどうしている?」
「先程昼食を終えて現在お部屋でくつろがれているかと」
昼寝中ね。
「ディアブロの見立てでセレネとドラゴンを戦わせたときの勝算はどうだ?」
「恐らくセレネ様が勝たれるかと思います」
俺もそう思う。
セレネには基本的に殆どの魔術が効かない。
そしてまともに攻撃は当たらない。
唯一の弱点である、非力さもある程度は動きでカバー出来るようになってきている。
ディアブロにはボロ負けしたがセレネに勝てるヤツはそんなにいないだろう。
今日はゆっくりして明日からドラゴン退治に行くとしようかなあ。
「でドラゴンの棲家は何処にある。」
「まずは三体のドラゴンですが、人族大陸の東、すみません、今は西の山脈に一体。東の砂漠に一体、南の氷山に一体でございます」
「もう一体いたよな?」
「はい、この城で骨になっております」
骨格標本の黄龍だった。
というか、あれ霊獣は霊獣でもエンシェントドラゴンなの?
神として祀られる存在なの?
やっぱ生き返らせてトドメささせるか?
さすがにそれは鬼過ぎる気がする。
というか三体のドラゴンも霊獣のダンジョンの近くにいるんだな。
となれば北の海にもいそうな気がする。
シードラゴン的なヤツが。
「悪いが北の海も調べさせてくれないか?ダンジョン周辺にいるのに北にだけいないのは腑に落ちん」
「かしこまりました」
まずはどこから行くかだな。
気候等を考慮すると西の山脈からが無難なのかもしれない。
「アルス様、失礼ですがお聞きしたいことがございます」
「お前からとは珍しいな。で聞きたいこととはなんだ?」
「セレネ様のご両親の件でございます」
あー、完全に忘れてた。
あれから何日たったんだ?
「一度ご連絡だけでもしておいたほうが宜しいのではないでしょうか」
「それもそうだな。ディアブロ任せてもいいか」
「かしこまりました」
スッとディアブロは転移していった。
時間ができたなあ、俺も少し寝るとしようか。
部屋へと転移して、寝室へと向かった。
扉を開けようと思ったらなんだか部屋が騒がしい。
嫌な予感がして一気に扉を開けた。
「きゃーかわいいー」
めちゃめちゃ霊獣と戯れているセレネの姿があった。
「あっ、アルス見てください。可愛くないですかあー」
手のひらサイズの霊獣達。
グルグル言っている馬は麒麟か?
馬って産まれたときからある程度の大きさがあった気がするが、霊獣だし気にしたら負けか。
ピヨピヨいっている雛鳥は鳳凰だな。
シャーと唸っているのが応龍か。
残る亀は……普通の亀だった。残念だったな霊亀。お前にはあざとさは宿らなかったようだ。いや違う、これが普通なんだ。
「こいつ等もすぐにデカくなるんだろうな」
「レジャー施設に預けてもいいですか?」
「まあ、あそこ以外置いておけるところがないからな」
四体の霊獣をまとめて抱えるセレネを連れてレジャー施設へと転移した。
「集合!」
ガウッ!ピーッ!シャー!……キュ、キュー!
玄武お前はゆっくりでいいからな。
そんな刹那そうな顔をしながら急がなくてもいいぞ。
歩む速度は人、じゃないな、霊獣それぞれだ。
キュー……
わかったよ。
お前も列に並びたいんだな。
俺は玄武の元へと向かうと両手で抱えて列に並ばせた。
キューッ!
ははは、いい声だ。
「よし、紹介しよう。新しい仲間達だ」
俺がそう言うとセレネは抱えていた霊獣達を地面に下ろした。
何故か四体とも俺のほうを見ている。
気のせいかと思ったがジッと見ているのだ。
なんなら睨んでいる気がする。
ほう、これは躾が必要か?
ガウッ!ガウガウガウ!
(おい!お前等ぶっ飛ばされたいのか!)
凄いデカイ声で白虎が吠えだした。
白虎の視線を見る限り四体の霊獣に吠えているようだ。
急にどうしたんだろう?
シャーシャーシャー!
(俺もぶっ飛ばされたが洒落にならんぞ!)
ピー、ピー!
(世界で一番強い、魔王様だぞ!)
ガウッ!ガウ、ガウガウガウッ!
(今なら間に合う!長生きしたければ従え!)
青龍や朱雀まで一緒になって何か喋っているらしいがよくわからん。
視線を四体の霊獣に向けるとガクブルしていた。
先程までの勢いはどこへ消えた。
「もう苛めないでよー、怖がってるじゃない?」
「いや、見ていただろ。俺は何もしとらんぞ」
「またデコピンなんてしたらダメなんだからね」
「躾が必要なら躊躇わずにデコピンするぞ」
四体の霊獣はめちゃめちゃガクブルしている。
「なんにせよ、お前等みんな仲良くするように。先に此処へ来た霊獣達は他の霊獣の世話を頼むぞ」
ガウ!ピー!シャー!キュー!
よし、いい返事だ。
更に此処も賑やかになるな。
「よしセレネ、俺は部屋に戻るがどうする?」
「私はもう少しここで遊んでからお風呂に行くんでその時は声をかけますねー」
「声はかけんでもいいからのんびりしとけ」
「はーい」
俺は部屋へと転移すると、ベットに寝転がった。
次から次へと賑やかなのが増えていくなあ。
城が広いからいいものをちょっとした屋敷レベルだったら洒落になってないな。
これでドラゴン倒したらまた増えるなんてことはないよな。
レジャー施設がサファリパークになっとる。
コン!コン!コン!
「入っていいぞ」
「失礼致します。玉座の間でディアブロ様がお待ちです」
ドアを開けて入って来たのはラミアだった。
「あいつから呼び出しとは珍しいな」
「セレネ様は先にお連れしております」
「わかった、いってくる」
俺は転移して玉座の間へと行った。
そこには戻って来たディアブロとセレネがいた。
「珍しいな。どうかしたのか?」
「はい、先程クヴァリル家へと挨拶の日程を決めに行ったのですが、今日が良いとのことでした」
「今日か?いきなり過ぎないか?」
「はい、その様に私も申したのですが、アルス様のお渡しになられたお土産に問題があったらしく」
「なんだ?口に合わなかったのか?もしくは食べれない物があったとかか?」
「いえ、美味し過ぎたと」
「はあ?」
「余りの美味しさに夢にまで出てくるそうです。そして食べれない現実にガッカリするそうです」
なんじゃそりゃ!
「わかりますよ。ここのご飯美味しすぎますから」
「ですので一日も早くと」
「お土産をもって来いと?」
「いえ、クヴァリル家ではもてなしが出来そうもないので城へ来ると」
それまた凄い展開だな。
まあ、不味い飯を食わされるよりは城の食堂で食事会を開いたほうが俺も気が楽ではある。
「ではこれからでも迎えに行けばいいってことか?」
「いえ、もういらっしゃってます」
なんですと!
「引っ越しを予定されている部屋に二人を通しております」
なんちゅー展開やねん!
「部屋へ挨拶に来て欲しい。その後で食事に招待して欲しい。との事です」
相変わらず欲望に真っ直ぐな人だ。
夕食までは時間もある。
俺とセレネは身なりを整えるためにひとまず風呂へと向かった。
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