討伐されたい転生魔王

〜弱すぎ勇者を強くする〜
ただのこびと
ただのこびと

帝国

公開日時: 2020年10月21日(水) 00:00
文字数:3,811


俺は帝国の全体が見渡せる丘の上から様子を伺っていた。


ここは人族大陸にある三大大国、最後の一つである帝国領土だ。


発展の度合いでいえば他の国と違いはなさそうであるが帝国というだけあって、軍事に力を入れているのだろう、城を中心に広がる街は要塞の様であった。


中央近くを流れる川。

その川の近くにある高台に建つ大きな城。

城を中心に幾重にもある城壁。

そこから除く大砲やバリスタの数々。

各城壁の一番上には通路があり、そこから魔術師が魔術で外の敵を攻撃したり、外からの攻撃を防御したりするのであろう。

防御と同時にしっかりと反撃できるように工夫された作りをしていた。

籠城戦を視野に入れた作りだな。


そして管理もきっちりしている。

おそらく街へと入る審査も一番厳しいのだろう。

正面の門にはかなり長い列が続いている。

テントなんかもちらほらとあることから下手したら街へと入るだけでも数日はかかるのだろう。


一番外側の城壁周り全てが兵士の待機所になっている。

すぐさま街の外に出れるように、そして城壁周辺を守れるようにしているのだろう。


ここから見た感じだと中央の城の周りが貴族街、更にその周りが普通の国民の街といった感じになっているな。

その間にはいくつもの城壁がある。


うん良い街だな。

個人的には転生してから今まで見てきた街の中で一番好みの形をしていた。

ただ住むとなると隔離されている感じはするだろうな。

城壁の分だけエリア分けされているしな。


帝国と言うくらいだ。

階級制で奴隷なんかもいるだろうし、平民には厳しい世界なのだろうな。



ひとまず貴族街はパスだな。

まずはその外側の普通の街から見に行くか。


俺は転移して街中へと移動した。


城壁があるといってもそこまで圧迫感はないな。

道も綺麗な石畳が敷かれていて馬車などが行き交っていた。

見た感じは普通の街である。

俺はひとまず人が多そうな方向へとブラブラと歩いた。


秋津島だと閉まっている店も多かったのにここは殆どの店が開いている。

人口が全く違うからだろうな。

商売っ気があるということは街はかなり栄えているのだろう。


やがて大通りへと出ると

数多くの人が賑わっていた。

露店なんかも今までで一番多い。


着ている服なんかも一番お洒落かもしれない。

まぁ俺にファッションセンスなんてないんだが、着ている物がお洒落である。

行った事などないが良くテレビで見た生前のヨーロッパの街並みって感じの国であった。


街のあちこちに兵士はいるが佇まいがいい。

無駄口を叩いたり横柄な態度などとっていない。

見た感じは良い街だ。


ただやはり奴隷はいた。

みずぼらしい格好をした奴隷を連れて歩く者もあちこち見られる。

ここらへんは文化の違いだからな。

どうにもならん部分はある。

こうやって成り立っている国なんだから俺は文句は言えん。


俺はいくつかの露店で食べ物を買って食べたがめちゃめちゃ不味かった。

やはり人族大陸に住む奴等の舌はアホのようだ。

いくら不味いとはいえ食べ物を捨てるのは気になる所なので、すれ違った奴隷っぽい子供達にあげた。

あのクソ不味い食べ物を泣きながら美味しそうに食べている姿には何か響くものを感じた。

こういう事が悪いことだとはわかっている。

わかっているが、俺が食べれない物をあげただけである。

本当の事だが勝手な言い訳でもある。


さてと、一通り普通の街は見た。

次は貴族街へと行ってみようかな。



俺は貴族街へと転移した。


先程とは建物から道の作りまでが違う。

当然建物は豪華で綺麗な作り、道は同じ石畳だが段差がなく馬車などが通る音も静かである。


見た瞬間にわかる格差。

これも文化だ。仕方がない。


ここでも人が向かう方へと進み大通りにでた。

通り沿いに建ち並ぶ店の数々、だがここには露店はない。

やはり少しお上品な方々が多いようだ。


いくつかのの店を周り女性陣へのプレゼント用に小物を購入。


食べ物もいくつかの買ったが貴族街とはいえ食べられるようなものではなかった。

ここでも一人で歩いている奴隷の子供達へ食べ物をあげた。

やっぱり泣かれたがそれ以上は何もしてやれない。


俺は道を進み街を見て回った。


規律やルールが厳しいのであろう。

どこかぎこちない人が多い。

行動や言動を気にしている様でもある。


帝国というぐらいだ目をつけられたら一溜りもないのだろうな。



その時、通りの奥から大歓声が上がった。

聞こえてくる声の内容を聞く限り、女王の乗った馬車が通るらしい。


俺は道の端からその馬車を眺めた。

数台の馬車に囲まれた一際豪華な馬車。

その馬車から通りに集まる人たちへと手を降る女性がいた。

あれが女王なのだろう。

俺はジッと女王を観察した。

ふーん。なんの覇気もない女だ。



俺はやることも無くなったので貴族街を離れ、再び平民の街へと移動した。

というのも女性陣へ渡すプレゼントに何かいい小物があればと思ったからである。

貴族街は高級感はあるがセンスがいまいちな物が多かった。

こちらのほうが素朴なのだがお洒落な感じがあったのだ。

小物を買うならこちらにも良い物がありそうな気がした。


適当に街をぶらついているとスカーフなどの小物が置いてある店が目についた。

いざ店へ入ろうとしたときに通りにいた一人の奴隷に目が止まった。

髪はボサボサで薄っぺらいよれよれの服を着た少女。

何故かその少女に目が止まった。

ジッと見つめていると俺と目があった。

他の奴隷のように人生を諦めたような瞳ではない、キリッとした綺麗な瞳がそこにはあった。


俺はゆっくりとその子へ近づくき手を取ると、街が見渡せる丘へと転移した。


「驚かせて悪い。いくつか聞きたい事があるが良いか?」


「あ……ぁう…、うぅ」


「喋れないのか?」


少女は一つ頷いた。


俺は少女に変な影響が出ないように薄く弱めた魔力で回復の魔術を使用した。


「あ、えっ、え」


少し戸惑った表情をした少女は、その後もの凄い勢いで泣き出したのだ。

話しかけても全く会話にならなかったので、しばらく放置していたら、次第に落ち着きを取り戻した。


「少しは喋れるようになったか?」


「ば、|ばぃ《はい》、|だいじょううれす《だいじょうぶです》」


まだ呂律は回らんか。

一気に回復もさせれるがこの後の影響が強くなるからな。

悪いが最低限だけ治した。

まぁ、少しづつだが慣れるに従って普通に喋れるようになるだろう。


「お前は奴隷でいいんだな」


「ぞうぜず、わだじはどれいとしてかわれまじだ」


「誰に買われた?そこまで案内して貰ってもいいか?」


「あい、あんないばできまず」


「案内を頼む。ただし何があっても俺の側から離れるな。そして絶対に喋るな。喋れない振りをしろ。いいな」


少女はコクリと頷いた。




俺は少女を連れて再び街へと戻った。

そして案内されたのは平民街ではかなり大きな屋敷。

貴族街にあるなら普通の屋敷なんだろうが普通の街中にあると何とも言えない違和感がある。

入口へと向かうと使用人と思わしき者が現れた。


「どうかなされましたか?それとも当家へ何か御用でも」


「いや、何。街でこいつを見かけてな。こいつを買えないものかと交渉に来たのだが……」


俺は要件を言うと使用人に大銀貨を数枚渡した。


「少々お待ちくださいませ」


表情を変えることなく使用人は中へと入って行った。

ちょろい。

非常にわかりやすいやつである。

ちなみに渡したのは大銀貨数枚、日本円なら数十万円だな。



しばらく待つと使用人が戻ってきた。


「主がお会いになられるそうです」


俺は案内されるまま屋敷へと入った。

控え目に言ってもかなり良い屋敷だ。

内装や置かれている小物も凝った物が多く平民の街にあるような造りではない。

貴族なんかと繋がりがある下町の権力者と言ったところだろう。



「こちらでございます」


俺は案内された部屋へと入った。


「お前か?俺の奴隷を買いたいと言うヤツは?」


挨拶も無しに偉そうな小太りのおっさんが話しかけてきた。


「そうだ。こいつを買いたい」


「ははは、そんなのが欲しいのか?くれてやってもいいが俺の奴隷は高いぞ?お前に払えるのか?」


「いくらだ?」


「金貨三枚だ」


ほう、奴隷の値段は持ち主が好きに決めて良い。

人間とはいえ所有物だからな。

としてもいきなり三千万円要求してくるか。


「わかった。良いだろう」


俺はテーブルに金貨を三枚置いた。


「な、違う。本当は金貨五枚だ。間違えたんだ」


「ほう、俺を相手に間違えた、だと?まぁ、人間誰しも一度は間違える事もあるのだろう。もう二度と間違えるなよ」


俺はテーブルに更に金貨二枚を置いた。


「き、貴様ふざけるな。金貨十枚だ!」


「お前がふざけるな。俺は二度も間違えるなと言ったはずだ。言葉の一つも理解出来んヤツは嫌いなんだよ」


俺は少女を連れて部屋を出ようとした。


「ぐぁはは、お前如きが俺に盾突こうとは、身の程を弁えろ!お前ら殺れ!」


立派な屋敷の割に中々小物っぽいベタなセリフを言うもんだなぁーと思っていると、何やら武装した護衛が複数部屋に入ってきた。

きたのだが全員魔術で眠ってもらった。


「で、なんだって?あまり俺を怒らせるな。ただでさえ最近怒りっぽいんだ」


「ぐぅ……」


本当にぐうの音ってあるんだな。

唸るだけで小太りのおっさんは何もリアクションしなくなった。


「約束通りこいつは金貨五枚で買ったからな。後で文句を垂れたりしたら……さすがにお前でもわかるよな」


本当にリアクションしなくなったのでそのまま屋敷を出た。



しばらく街を歩き人通りが少なった所で少女を連れて魔王城へと転移して帰った。




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