くだらない戦いは幕を下ろした。
めちゃめちゃ長期戦だった。
余りの長さに何度魔石をぶち込もうと考えたことか……。
ひたすら攻撃を避けてはジャンプして、ジャンプしては落下してを繰り返し霊獣を威嚇し続けた、セレネ。
最終的に霊獣は魔力が切れて地面で休憩せざるを得なくなった。
そこをすかさず接近したセレネに斬られて呆気なく光りとなって消えた。
結果、体力の尽きた鳳凰と麒麟が地面に降りたところを狩られた。
まじでくだらない。
降りてくるのをひたすら待っただけの戦いだ。
というかあれを戦いと呼んでいいのだろうか。
もうちょっと緊張感のある戦いというか、せめぎ合って最後の最後にギリギリで勝つとか、そういったのが見たいぞ。
最後に必殺技とか閃いたら尚更いい。
まあ、いってもこれは実際に命を賭けた戦いだ。
最後に必殺技とか閃かずに死ぬよりはいい。
ぶっちゃげ楽に越したことはない。
でもなんかもうちょっと白熱したバトルシーンを期待してしまうのは俺が元日本人だからだろうか。
「終わりましたよーー」
「やっとか。なんだかんだで擦り傷と打ち身止まりか。ほらポーションだ」
「なんかその言い方が気になるところですけど、ポーションなんてくれるんですねー、ツバつけとけば治るとか言われると思ってました」
よくわかったな。
なんせ擦り傷やら打ち身やらはジャンプして落ちたときの怪我だ。
そんなもんツバつけとけば治る。
「この先がまだわからんからな。念のためだ」
それに安いポーションなら城にバカみたいにある。
セレネがポーションを使っている間に部屋を見回したが奥に扉があるだけだ。
今までの霊獣の試練の時の用に光ってはいない。
ひとまず扉の前までの進み扉を開ける。
罠か何かあるかと思ったがなにもない。
下へと続く階段があるだけだった。
俺はセレネと階段を降りる。
長く続く階段をひたすら降りること小一時間。
「扉があるな」
開けた扉の先には巨大な神殿になっていた。
真っ白い石で出来た床や壁、天井。
装飾された真っ白い石の柱が何本も天井まで伸びている。
何かを祀っているような部屋だった。
今までとは明らかに違う造りに自然と警戒心が高まる。
いまのところはなんの気配もない。
警戒しながら慎重に部屋の奥まで進んだがなんの変化も起こらなかった。
「これまた予想外だな」
「何かあったんですか?」
「いや、俺の知識だと霊獣はもう一体いると思っていた。『黄龍』と呼ばれるもっとも長い時を生きていると言われる龍の霊獣だ」
四神と呼ばれる霊獣が四つの方角を表し、中央を表す霊獣が黄龍だ。
確か黄龍ではなく麒麟という説もあった気がする。
だが、形的に先程の馬が麒麟だろう。
とすれば黄龍はいると思う。
そしてこれだけの造りをした神殿だ。
尚更ここに黄龍がいてもおかしくはない。
なにか条件があるのか既にいないのか。
ふう。
いないものを探しても仕方がないな。
「霊獣はいないみたいですけど、こっちの奥に扉がありますよー」
他に行くところもない。
俺はセレネの指差す扉の方へと向かった。
これまた。
開けた扉の先の部屋から光りが溢れていたのだ。
転移の魔法陣。
今までのパターンだと白い半球状の中にある寺院へと行くのだろうが……鬼が出るか蛇が出るか。
「なんだか嫌な感じがしますね」
セレネが言うなら間違いないのだろうな。
「さすがにこの先がどうなっているかは俺も解らない。どうする?やめとくか?」
「ここまで来たら行くしかないんでしょうけど、なんとなく、本当になんとなく嫌な感じなんですよねー」
ここまで嫌がるのも珍しい。
いつもなら躊躇なく飛び込むのにな。
「よし、行きましょう!行ってみないとわかりません!行きましょう!」
「なら行くぞ」
俺とセレネは転移の魔法陣へと乗った。
辿り着いたのは薄暗い広間だった。
濃い紫のような黒い床や壁、天井。
ただ広いだけの薄暗い空間。
パッと見た感じ建物や扉など一切何もない。
転移に使った足元の魔法陣は消えている。
後戻りは出来ないと言うことか。
「行くぞ」
俺はセレネを連れてゆっくりと部屋の中央へと歩いて行く。
なんの気配もない。
やがて中央へと辿り着いた。
「おかえりなさいませ」
何故にディアブロ!?
「おまえ何をしている」
「お帰りになられたようでしたので迎えに参りました」
ん?
「ここは城の地下六階最終決戦の広間でございます」
はあー?
「じあ、ディアブロ。お前が最後のボスか?」
「お恥ずかしお話しではありますがアルス様がお目覚めになるまではそのようなこともしておりました」
やっぱラスボスやんか!
なにどゆこと?
「ちょっと待ていまいち状況が把握できん」
わけがわからん。軽いパニックだ。
しかもイケメンのしたり顔がムカつく。
「以前、城を案内させて頂いた時に城への入り方を聞かれましたが、あれ以外にも城へと入る方法があるのです」
浮かんだ城の下に広がる湖の周辺にある四つの塔を同時に破壊して直接城へと入る方法だったな。
「湖の周辺の塔を一つ破壊して湖の底の神殿へ行く。神殿の最深部から転移してここへと来る。って感じか?」
「流石です。まさしくその通りでございます。それが正規の攻略法になります。四つの塔を同時に破壊するのは裏技のようなものでございます」
更に笑顔がパワーアップしやがった。
このイケメンまじでムカつく。
「で転移してきたやつが、ここでお前と戦うってことか?」
「その通りでございます」
「一つ聞いていいか?湖の神殿の最深部。あそこに黄龍がいると思ったのだが俺の読み違いか?」
「あー、あそこにいた龍でしたら、昔から余りに我侭で煩かったので城を拡張する際に骨にして飾っております」
アレかぁーーッッ!!!
確かに美術館にあった。龍の骨格標本があった。
あれが黄龍だったのか!
こんな身近な所にいるとは誰も思わんだろ。
「見事なまでにお前にハメられた気分だ」
「お褒めに与り光栄にございます」
いや褒めてない!
なんだそのご都合解釈は、やっぱりこの世界の住人はおかしい。
というか空気のような存在になっているセレネはガクブル震えていた。
「どうかしたかセレネ?」
「いや、ここの部屋はヤバいですね。嫌な感じが半端ありませんよ。ディアブロさんの圧力も凄いですし」
ん?そうなのか?
ディアブロはいつもよりムカつくぐらいで圧力なんか微塵も感じんが。
「この部屋はある意味で魔族が真の力を開放出来る空間になっております。人族であるセレネ様には負担があるのかもしれませんね」
「ってディアブロさんどんだけ強いんですか?私まったく勝てる気しないんですけど」
「ははは、私などアルス様に比べたらまだまだお恥ずかしいレベルですよ」
ふーん、そんなにディアブロって強いんだな。
というか相手を見て勝つか負けるかなんて考えるか?
どこの戦闘民族だよ。
「俺は全くなにも感じんがな」
「アルス様の城ですので当然かと」
そんなもんなのか?
感覚が麻痺してきているのかよくわからん。
「それでセレネは嫌な感じがしたということか?」
「おそらくは。此処は最終決戦の広間ですので」
ゴリ押ししてきたな。
もはやなんの説明にもなってない。
「よし、正攻法で入ってきたんだ、セレネやれ!」
「えーっ!何をですか!何をやらせるつもりですかあ!」
「やかましいな。勇者が正規のルートで魔王城へ来たんだ。やる事といえば魔王の討伐だろう」
「ちょ、ちょ、無理ですってぇ!」
なにを狼狽えている。勇者なら勇者らしく突撃してほしいものだ。
あのイケメン面をボコボコにしてこい。
「残念だがディアブロ、ここがお前の墓場だ」
「アルス様の城で死ねるなら本望ですが最低限抵抗させて頂きますよ」
その余裕の面がマジで苛つく。
「よし、セレネ。行ってこい」
あいつをボコボコにしてくるんだ。
「よっしゃーやったろーやないかぁい!」
こうして勇者VS元魔王の戦いが始まったのであった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!