ここの飯も不味いな。
俺は現在、暇つ……ごほん、人族の大陸の現状を知ろうといろいろな街を見学中である。
けして暇つぶしではない。
人族の大陸は一国体制ではなかった。
大小様々な国があり日々覇権を争っているそうだ。
特にデカイ三つの国が、二つの王国と一つの帝国。
三国志っぽいなのだろうか。
前回は人族で一番大きいという王都へと行った。
行ったがエルフの女王と名乗る変な奴に邪魔されて中途半端になってしまった。
もう一度同じ王都へと行こうかと思っていた。
思っていたのだが気がのらなかったし、他の国があることもわかった。
どうせなら新しいところのほうがいいだろう。
あそこの飯は不味かったからな。
というわけで、今回来たのは前回とは違うもう一つの王国の王都だ。
ここはそこまで大きな国じゃないのだが勇者を排出した国ということで再び発展しだした国だそうだ。
そう、セレネの母国だ。
結果、残念ながらここの飯も不味かった。
俺は器に入っているポトフのような煮物を見つめながらため息をついた。
ゴロッと入った切って煮ただけの野菜。
下味すら付いてない、長時間煮込まれることによって出がらしになった肉。
そして何故かなんの出汁も入っていない塩味だけの汁。
なんとも言えないエグミというか苦味と言うか、変な感じが口の中にまとわりついてくる感じだ。
そしてスープなのに何故か口がパサつく。
こんな味で育ってきたのなら尚更セレネには料理させられん。
なにせ完成形が目の前にあるこれなのだ。正直怖すぎる。
基本的な食材の下処理にも問題がありそうだ。
まず血抜きが充分に出来ていない。
そのうえ食材の保存状態もよくない。
冷凍技術どころか、保存技術がない為か、常温での輸送がメインらしい。
血抜きもしっかり出来ておらず保存状態も悪い。
当然肉には臭みが残るので香辛料を大量にかけて誤魔化す。魚も同様だ。
肉と魚に関してはこんな感じ。
で、野菜もただ切って焼くか煮るだけ。
スープが一番酷い。
出汁を取るという習慣がない気がする。
茹でた後の汁を全部捨ててたもんな。
具材を取り出し新しいお湯に茹でた具材入れて味付けしていた。
旨味がどこにもないスープの出来上がりである。
ありえない不味さだった。
美味しい食事の処理の仕方、輸送の仕方、そして
作り方とかも広めたら世界平和に繋がる気がする。
大袈裟かもしれないが、少なくとも俺は癒やされる。
後、思った以上に文化レベルが低い。
移動が馬車なのは仕方がないとして、魔石を使った魔道具なる便利な物があるのに冷蔵庫なんかはまったく普及していない。
コンロやオーブンっぽい魔道具や水の出る魔道具、灯りのつく魔道具なんてのはあるがそれだけだ。
生きていくのに必要最低限のギリを突っ走しっている感じの生活スタイルだ。
魔道具開発も勧めたほうがいいかもしれん。
冷蔵庫、洗濯機、掃除機、クーラー。いわゆる白物家電的な物があれば便利だと思うのだが。
魔道具の開発となると魔石が必要になるのか?
魔石がもっと多く普及すればいい。
幸い魔石は魔物の体内から取れるらしい。
魔族が駆除した魔物の魔石を魔道具に変える。
変えた魔道具を人族に流す。
いけそうな気もするな。
それでも足りなければ魔術で魔石が採れる鉱山でも探して掘ればなんとかなりそうだしな。
ついでに駆除した魔物の素材も流せる。
全体の生活水準が上がって美味しい物を食べてれば平和にはならないのだろうか?
隣の芝生は青く見えるという。
あそこのほうが裕福だ。
あそこのほうが贅沢している。
と欲をかくのだろうか。
うーん。そこまでは知らん!
余りにもふざけた奴らがいるなら法で裁いてしまえばいい。
平和な国で育った俺の考えなんて所詮こんなもんだよ。
街をブラブラ歩きなんとなく店に立ち寄り店でボーッとして、また街をブラブラ歩く。
服装や料理の味付けなどもちろん文化の違いはあるのだが些細なもんだ。
飽きたし帝国にでも行ってみようかなあ。
「申し訳ありませんが、旅のお方ですよね?」
ん?
そろそろ別の所へ移動しようかと考えていたら声をかけられた。
声をかけてきたのは綺麗な赤毛をした人族の女性。
年齢は二十代後半ぐらいだろうか。身なりはかなり良い。
「そうだが、何か用か?」
「実は探している人がいるのですが何か知っていればと思いまして、旅をしている方に声をかけているのです」
「なるほど訪ね人か」
そう言われても俺は外にはでないから殆どこの世界のことは知らないんだがな。
「大きな声では言えないのですが……」
かなり声を小さくしてからその女性は言った。
「実は勇者を探しています」
「……勇者?あの勇者か?」
「なにかご存知なのですか?」
「いやいや、有名なあの勇者だろ?」
咄嗟に誤魔化した。
「よろしければお話だけでも聞いていただけませんか?」
「俺でいいのですか?」
「少しでも、少しでもいいので情報が欲しいのです」
本当に困っているように見える。
勇者の関係者か?
俺はこの女性に【鑑定】のスキルを使った。
マイア・クヴァリル
人族(人王属)
ランク 3
攻撃力 E
防御力 F
素早さ E
器用さ D
知力 B
スキル
【勇者E】【精霊王の祝福E】【未来予知C】
細かい能力は普通の人といった感じだが、人王属。というかスキルが中々ヤバい。
「失礼ですが先にお名前を伺っても?」
「こちらこそ大変失礼致しました。私はマイア・クヴァリル。クヴァリル侯爵家夫人、先程お話した勇者の母でございます」
まさかのお義母さん登場である。
【鑑定】したのと同じ名前。スキルもそうだが、嘘は言っていないだろう。
「侯爵夫人とは知らず失礼致しました。私はアルスと申します。というか、どうして侯爵夫人がこんなところへ?お付きの方はいらっしゃらないのですか?」
「先程話したとおり、娘を探しているのですが中々情報が入ってこないので、お忍びで聞き込みをしているのです」
中々ぶっ飛んだアクティブさだ。
侯爵夫人が街中で一人なんて聞いたことがない。
まあ『王属』は人族の中では最強クラスなので一人でも問題ないということか。
それにしてもぶっ飛び具合がセレネっぽい。
セレネの母親と考えると不思議と納得いくから恐ろしい。
「わかりました。私がお答え出来る範囲でよろしければお話しますが、お一人では危険です。場所を変えませんか?」
「そうですね。なにか知っているようですし、私に危害を加えようといった雰囲気も感じません。私の屋敷にお招きしましょうか?」
「お招きは有り難いのですが、私の家にお招きしたいのですが」
「あら、招待してくださるの?若い男性に誘われるなんて久しぶりだからドキドキしますわ」
いやいやお義母さん。
思考回路がセレネと同じですよ。
「少し人通りが少ない所へ行きますが信用して頂けますか?」
「連れ込むならわざわざそんなこと聞かないでしょ?信用します」
「では、こちらへ」
俺はお義母さんを連れて裏路地へと進み、城の玉座の間へと転移した。
「ここは……」
「失礼しました。私の魔術で転移させていただきました」
「転移?魔術……」
わけがわからずキョロキョロしているお義母さん。
「申し遅れました。私はアルス・ディルナル。魔王をさせていただいています。お招きさせて頂いたのは私の家、魔王城。そしてここは玉座の間です」
「ま、魔王……魔王城……」
「おかえりなさいませアルス様、準備は整っております」
やはり出来る執事は違う。
命令される前には準備は終わらせておくものだ。
よくわかっている。
「食堂へと向かう」
「御意」
「マイア侯爵夫人。失礼ではございますが、ここでは充分な持て成しが出来ませんので食堂へとご案内させて致します」
「は……はい」
俺はお義母さんを連れて食堂へと転移した。
「こちらが我が家の食堂になります」
「ここが食堂……」
「アルス様、お連れ致しました」
「よし、通せ」
扉が開くと綺麗に着飾ったセレネが入ってきた。
「セ、セレネ?」
「お母様!?どうしてここへ?」
「あなたどこ行ってたの!」
バチーーン!
いきなりビンタ。猪木ばりのビンタ。
フルスイングだ。
「いったぁーい!いきなり叩くことはないではありませんか」
「どの口が言ってるのですか!」
バチーーン!
「わたしが」
バチーーン!
「どれだけ」
バチーーン!
「あなたの」
バチーーン!
「心配を」
バチーーン!
「したと思ってるの!」
マイアさんはセレネをギュッと抱きしめた。
「ごめんないさいお母様」
「もう無事なら無事ってぐらい言えたでしょ」
「はい、ごめんなさい」
「元気だったらいいのよ」
「はい、ごめんなさい」
しばらくふたりで泣きながら語り合っていた。
感動の再会だ。
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