勇者は悪魔リーダーに連れられてようやく出発した。
ふぅー、やっと静かになった。
あいつがいるとうるさくて本当に嫌だ。
頭が痛くなる。
勇者をポイ捨てして戻ってきた悪魔リーダー。
ゴミ出しありがとう。
本当はゴミの不法投棄はダメなんだからな。
ふと、床に転がったままの折れた聖剣が目についた。
「この聖剣は元に戻せるのか?」
「時間はかかりますが勝手に元通りに戻ります」
「え?勝手に戻んのか?」
「はい、聖剣ですので」
おい、聖剣だからで済ますんじゃない。
毎回毎回、なんなんだよこのなんでも設定。
折れた剣が元に戻るとか普通じゃないぞ。
ほんとこの世界創った神とかいるならまじで適当すぎるよなぁ。
「で、これが元に戻るまでに必要な時間は?」
「一年もあれば元の状態に戻ると思われます」
待てねぇー。
こんな剣のために一年も待てねぇーよ。
「どうにかして無理やり戻せないのか?」
「我が主に不可能はありませんので可能でございます」
「で、そのやり方は?」
「聖剣は『精霊王』の特殊な『祝福』を受けております。この祝福を受けている状態では修復どころか魔族では触れることも出来ません。ですので、まずは精霊王に剣の祝福を解かせます。その後、剣を修復し再び精霊王に祝福を受ければいいかと」
なるほど、精霊王とやらの祝福のせいで魔族では触れることが出来ない。
魔族では触ることが出来ないから修復することが出来ない。
であれば魔族でも触れるようにしてから修復するということか。
だが修復したとしてもあの聖剣の力で俺が殺せるのか、という疑問が残る。
いっその事、別の剣を作った方が強い聖剣が出来上がるのではないだろうか?
「精霊王に祝福を受けさせれば、この剣ではない別の剣でも聖剣になるのか?」
「聖剣は特殊な金属で作られております。その特殊な金属で作られた剣であれば、祝福を受けることで聖剣にすることも可能です」
なるほど作ることは出来ると。
「ちなみにその金属とは?」
「オリハルコンです」
でたぁーー!お約束、最強金属オリハルコン!
「どこで採れる?」
「採掘場所は各大陸地下深くにある溶岩地帯の最奥になります」
「ではそこに行って採掘しにいくとしよう」
「いくつかなら城にも在庫がございます」
「エッ?あるの?この城に?」
「少々お待ちを」
そういえばここって魔王城だった。
ロールプレイングゲームでいうところのラストダンジョンが魔王城、あるっちゃ、ある、のか。
いやない!
流れに騙されるな!
普通はない!
いつものなんでも設定だろう。
俺もおかしくなってきているのか?
段々と汚染されて感覚が狂ってきている気がする。
「こちらでございます」
悪魔リーダーから拳大の金属の塊を受け取った。
見た目に反してかなり重い金属だ。
これがオリハルコンかぁ。
俺の手の中には青く銀色に輝くそれでいて不思議といろんな色にも見える不思議な鉱石だった。
実際に手元にあると有り難みはないな。
「どうやって加工するのだ?」
「通常ですと、ドワーフの里へ行き、そこで聖なる水を用いて不純物を取り除いた後で地金を鍛え剣の形にします。その後、精霊王に祝福を受けて聖剣となります」
「で、通常以外だと?」
「さすがは主。気づかれましたか」
ツッコまれる度にイケメンスマイルになるな!ムカつく!
「そういうのはよい、早く話せ」
「はい、錬金の魔術を使えば加工までは可能です」
「錬金の魔術?」
「主なら念じるだけで可能でございます」
ん?念じればいいの?
「俺、魔術を使ったことはないのだか?」
「問題ありません」
「そんなんで魔術が使えるのか?」
「はい、イメージしていただければ何でも可能です」
なんなんだその天才設定は、なにがなんでも酷すぎるだろ。
って、そんなことはどうでもいいか。
とりあえずいまは剣だ。
出来るというのなら物は試しだ。
やってみよう。
手に持ったオリハルコンの塊を睨む。
形がかわるように念じる。
と少しずつ僅かながらオリハルコンの塊が動きだした。
おっ、少しだが形がかわった。
僅かな変化だがなんだか嬉しい。
調子に乗って更に力を入れ長くなるよう念じていく。
少しずつ、ゆっくりとだが、どんどん長ひょろく伸びていく。
後はイメージと言ったか、剣の形をイメージしてみるが前世で剣なんて見たことも使ったこともない。
流石に詳細なイメージなんてパッとは浮かばない。
浮かばないので床に転がっている折れた聖剣のデザインをパクることにした。
目の前にお手本があるんだからイメージもへったくれもない。
同じような剣が出来上がった。
とはいっても刀身は少し細めシャープな仕上がりになった。
おぉー。
自分でやったとは思えない出来栄え。
どっからどうみても剣だ。
剣が出来上がった。
「さすが、お見事でございます」
すかさず悪魔リーダーが褒めてくれる。
気を良くして両手でガシッと出来立ての剣を構えてみた。
ん?
違和感。
半端なく違和感をかんじる。
握った剣をまじまじ眺めていると黒い小さな斑点が目についた。
沢山あるわけではないが剣の至るところに大小様々な斑点が気泡のようにいくつかあるのだ。
美しくない。
俺の剣を圧縮させながら出ていくように念じていく。
小さな斑点がどんどん剣から抜け落ちて粉になって消えていき、斑点のない綺麗な剣が出来上がった。
よし、満足!
斑点のなくなった剣からは先程の違和感がなくなった。
先程までは濃い青で銀色に輝く剣だったのに対して、薄い青の半透明な剣になった。
原因はやはりあの斑点だったらしい。
「さすがは我が主、こうも容易く世界の理を覆してしまうとは、オリハルコンの純度を上げられるとは驚きです」
「言ってる意味がまったくわからないが、余計な物は取り除いた」
何故か剣を作った俺以上に悪魔リーダーが大絶賛している。
というか世界の理もなにもしらん。
やったら出来た。
「主が創られたのは純度100%のオリハルコンの剣です」
何故か派手に両手を上に掲げて宣言した。
「何も混ぜてないんだから100%だろ。オリハルコンだけで剣を作ったんだから」
何を当たり前のことを。
「いえいえ、順を追って説明させていただきます。まず一つ、オリハルコンの加工は先程もお話したとおりドワーフ以外で成功した者はいません。更にもう一つ、オリハルコンの最高純度は99%です、100%の物は世界でこれのみです」
なるほど前世でいう純金の含有率みたいな感じか。
それのオリハルコン版。
というかそれならそれでなにかと問題はないのか?
原子的な構造とかに問題はないのか?
強度的な問題とか?
サビやすいとか?
よくわからん。
難しい話はパスだ。
できたもんはできた。
以上、この件は終了。
「後はこの剣を祝福させれば聖剣の完成ってわけか。精霊王にはすぐ会えるのか?」
「恐らく無理です。精霊王は数百年に一度しか現れません」
「次はいつだ?」
「百年は先かと」
「はい、無理!待てません!」
おっと心の声が前に出てしまった。
「無理やり叩き起こすとか、無理やり連れて来るとかもできないのか?」
「世界に存在しておりませんので無理でございます」
よくわからん理由だが無理なら仕方がない。
「ひとまず祝福なしでこのまま使うとして、この剣は使いものになるのか?」
「聖剣ではありませんが、もちろん最高級の剣としてお使い頂けます」
悪魔リーダーが言うなら使えるのだろう。
「よし、いますぐ勇者に使わせるとしよう」
俺の作った剣だ。早速使わせてみよう。
出来たてを届けてやらないとな。
「勇者のところまで案内しろ」
この剣の斬れ味、楽しみだ。
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