ディアブロに案内され、二人でやって来たのは精霊大陸の最南だ。
精霊大陸でも北側、人族の大陸ウルカランに近いところにあるのがアルフヘイム国。
その反対側、人族大陸から最も遠くに位置する場所、そこにドワーフ国があった。
てっきり精霊大陸には国は一つしかないものと思い込んでいた。
切り立った山沿いにいくつもの洞穴があり、国、というか街ともいえるような外観ではない。恐らくはあの洞穴の中で生活をしているのだろう。外側には小さな見張り小屋や倉庫などがいくつかある程度で建物などはほとんど無い。
「これまた見事なまでに何もないな」
ひと目見た俺の印象だ。
だって崖に小さな横穴がいくつもあるだけなんだもん。
「アルス様は大きな街ばかり見ておられますから。こういった小さな国や街のほうが多くございます」
ふーん、知らんかった。
まぁ、どこもかしこも発展していることなんてないのだろうが、ここはここで特殊な部類に入ると思うのだが。
「にしても寂しい感じがするな」
「あの穴の中が奥で繋がっており、一つの街になっております。外側から見ればそのように感じられるのは仕方ない事かと」
へぇ、あの穴の中って街になってるんだ。
それはそれで凄いな。
アリの巣みたいな感じって事なのかな。
やっぱ特殊な街じゃないか。
「んじゃ、街とやらを見に行ってみるか」
「御衣」
俺は転移で一番大きそうな洞穴へと向かった。
「おい、誰だ? 許可なくここへ立ち入る事は許さんぞ」
すげーちっさいオッサンが話しかけてきた。
護衛か何かなのだろうか。
身長は俺の胸ぐらいしかないが、横幅が凄い。
筋骨隆々、ゴリゴリマッチョだ。
黒い髪が長めに伸びておりヒゲや体毛も濃い。なにより目つきが悪い。
ある意味、獣人みたいな見た目だな。
「旅をしていてな。ここにドワーフの国があると聞いて来たのだが。中へは入れないのか?」
「そうか。知らなかったのなら仕方がないが、この入口は族長の屋敷へと繋がっている。許可がない者は入れるわけにはいかんのだ」
「その許可とやらはどうやってとればいいのだ?」
「許可はでらん。他種族の者が族長に会う事は出来ん」
ふむ、よくあることだな。
閉鎖的な場所は大体そうだろう。
「ひとまず街の中には入れてもらえるのか?」
「ああ、下の入口からなら許可はいらん。自由に入るといい」
知らなかったとはいえ、いきなり一番デカイ入口に来たのが失敗だったようだな。
「わかった。では下の入口から入らせてもらう」
「あまり騒がんようにな。ここの奴等は気が短いからな」
「わかった。なるべく騒ぎは起こさんようにする」
いちゃもんつけて来るヤツがいないことを祈ろう。降りかかる火の粉は払わねばならぬからな。
俺達は警備のドワーフに言われた通り、下の入口へと移動して中へと入って行った。
薄暗い洞窟をひたすら進んで行く。
許可はいらんとは言われたが、審査なり検査なり何かあるかと思ったんだが、そんな物は一切なく、すんなりと洞窟の奥まで入って行く事が出来た。
「おぉ、思った以上に広いな」
ただ穴の中で暮らしているのかと思ったら中はかなり広大な空間が広がっていた。
一キロメートル四方は言い過ぎにしても、それに近いぐらいの横幅、奥行きがあり、高さもかなりある。
その中にレンガで作られた家が所狭しと建っていた。
「いかがでございましょう」
そう言われても魔王城の地下にある街の劣化版というか、下町版というかそんな感じの印象しか受けない。
「まさかここにも奴隷などいないだろうな」
「基本的に奴隷制度は他種族の能力や寿命を妬む人族が作った制度です。精霊大陸自体に奴隷はおりません」
それはそうか。アルフヘイムとの成約の時に勝手に大陸ごと縛ったからな。
というか精霊大陸に他の国があるとは思ってもみなかった。今考えれば軽弾みな行動だったかもしれん。他の国の存在ぐらいは一言確認しておけば良かった。
なんにせよ、この国のお偉いさんにも奴隷の件を一応は知らせといたほうがいいかもしれないな。
「ここで考えてても仕方ないか。街の中でも行ってみるとしよう」
「ご案内致します」
ディアブロに案内を任せてドワーフの街の中を見て回った。
最初に来たのは下町の工場が立ち並ぶエリアって感じだな。
街のいたるところからカンカン、ガンガンと金属か何かを叩いて作業している音が響いている。
ドワーフのイメージ通り鍛冶が盛んなようである。
「この先にいくつか商店がございます」
歩きながらもディアブロがいろいろとドワーフやドワーフの国の事を説明をしてくれているが、基本的に聞き流している。
というか、こいつは何故に街の中の構造やら歴史やら何やらを知っているのだろうか。
聞いても禄な答えが返ってこないだろうからあえて聞かない。
無視するに限る。
屋台もいくつかあるな。
少し遠目に眺めていたのだが、でかい芋虫みたいな料理がかなり多い。
主食が芋虫なのだろうか?
五百円玉サイズの丸まった芋虫、そんな芋虫の唐揚げ、串に刺さった芋虫の照り焼き、芋虫入りの野菜炒め、芋虫入りのスープ……。
そういや日本にもあったな、イナゴの佃煮とかいろんな虫料理……。
確か、昆虫は高タンパク、低脂質。
脂肪の燃焼効果を高めるオメガ脂肪酸、コレステロールや中性脂肪を下げる効果も期待されるほど健康食、世界の食事情が変わるかもしれない食材として注目を集めているスーパーフード……それが虫!
俺は絶対に食べん!
ここでの食事文化にはこれ以上触れる必要ないだろう。
屋台を素通りしながら食べ物以外の店も見て回る。
「ほう、なかなか素晴らしい出来栄えだな」
俺は一軒のアクセサリー屋で足を止めた。
道から見える所に置かれているアクセサリーの加工がかなり凝った物だったからだ。
「へぇ、人間にしては見る目があるみたいじゃねぇか。ここは街で作った物の中でも特に出来の良い物だけしか扱わない店なんだ」
店員らしきドワーフのオヤジが偉そうに自慢してきた。
見た目はやはりドワーフ。背が低い、筋肉凄い、髪長い、目つき悪い。ほぼほぼみんな同じ見た目だ。
ただこの人にはヒゲがない。
まぁ、店員の言う通り、確かにアクセサリーの作りは良い。
秋津島のような独特の雰囲気はないが人族の大陸で見る物より遥かに作りが繊細で細かい、それに強度が高い。
俺はいくつか気に入った物を女性陣へのお土産として選んだ。
「悪いがオヤジ、これを頼む」
「あんた、本当に目が良いな。どれも作るのが難しい品ばかりだ。目利きとしてこのまま働けるぞ」
目利きなんて出来んし知らんが、褒められると嬉しいもんだな。
これも城で良い物に囲まれているせいだろうか。
俺は気分良く金を払うと商品を受け取った。
「だが兄ちゃん、残念だ! 俺はオンナだ! オヤジじゃないよ! もう少しドワーフを見る目を鍛えるんだな、がはは」
ま、まじかっ!
全く見分けがつかんぞ。
つーか女性なら女性らしい言葉で喋れよ!
見た目だけだとヒゲがないドワーフってぐらいだぞ!
その後もしばらくまじまじと店員を見たが見分けはつかなかった。
なんだ、この最後の最後で負けた感じは……。
笑顔の店員に見送られ店を後にした。
「ディアブロ、お前はあの店員が女性だとわかったか?」
「はい、勿論でございます。私は対面する相手には絶えず【鑑定】のスキルを使用しておりますので」
おい! それはわかるといわんだろ! 性別を調べるぐらいでスキル使うなよ! ある種のカンニングだろ!
自力でないなら俺は認めん!
ん、スキルなら自力……なのか?
とりあえず、すれ違うドワーフをガン見しながら、街の探索を続けたが性別を見分ける事は出来なかった。
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