アイツよくこんなエゲツない攻撃を思いついたな……。
俺は朝イチで昨日のセレネの戦いを見ていた。
驚いた事になんとこのモニター、録画機能が備わっていたのだ。
恐ろしい。
一体どんな原理なんだぁ?
異世界だぞ、オーバーテクノロジーだろ!
そんな事が頭を過ぎっても、そんなもん聞いたらいかんよ。
あるものはある、それでいいのだ。
世の中には知らないほうがいい事もあるのだ。
モニターに映し出されたのは魔大陸の南。
精霊大陸にあるデカイ氷山の山頂付近にそのドラゴンはいた。
体長二十メートル、キラキラと輝く透明な体をしたドラゴン、クリスタルドラゴン。
俺がセレネに渡したオリハルコンの剣でも小さな傷しかつけられないほどの頑丈なウロコを持つドラゴンだ。
クリスタルドラゴンは鋭い爪で切裂こうと腕を振り回し、巨大な尻尾を使って薙ぎ払おうとし、噛み砕こうと口を開いて牙が襲う。
セレネはそのどれもを尽く躱し、斬りつけてはいるが殆どダメージらしいものを与えられずにいた。
これはいつものようにちまちまとドラゴンの体力を削る長期戦になるだろうと思ったのだが、とんでもない光景を目にした。
爪を避け、続けざまに迫ってきた牙を避けた後、セレネは跳躍した。
落ちる力を利用して攻撃力を上げようとしているのだと思ったが、セレネの行動はだいぶ違った。
空中でオリハルコンの剣を三メートル程にデカく伸ばしたのだ。
そして振り下ろされた一撃。
それは凄まじい音と共に地面を割り、ドラゴンの首が宙を舞った。
「どんなもんじゃぁーー!!!」
勝鬨を上げるセレネ。
何をしたのかは単純明快である。
空中で剣をデカくし、重さの無い剣を振る。
そして当たる瞬間に剣の重量を最大限増やしやがったのだ。
「アイツよくこんなエゲツない攻撃を思いついたな」
確かにセレネにも持てるようにと剣の重量調整が出来るようにした。
その時に何故かサイズ変更も同時に付与されていたのだが、まさかこんな使い方をするとは。
これでセレネの非力問題が一気に解決したかもしれん。
つーかあんだけの破壊力あったら俺も殺せるんじゃね?
よし、後で試させよう。
「恐らくは無理でございましょう」
こいつマジで普通に人の心の会話に入ってくるよな。
「地面割れてたし、あれだけの破壊力があればいけるのではないか?ディアブロ」
「傷一つつかないかと」
まじか! 俺ってどんだけ硬いの? あれ喰らったら普通に死ぬよ。
つーかあの攻撃でも無傷なの? 俺?
「たぶん、ですが、私でも腕の一本持っていかれる程度かと」
腕の一本は|大事《おおごと》だからな。
なんかおかしいからな。
つーか、コイツがおかしいのは今更だった、初めて会った時からおかしい。
そもそも淡い期待をした俺がいけなかった。
とりあえずこれで精霊王に創られたという生物で倒していないのは、城で骨格標本として展示されてる黄龍だけか。
あいつも元の姿に戻してセレネに殺らせようかなぁー。
まぁ後日考えよう。
奴隷開放の為の準備は各国が行っているだろうし、ウルヘイドで行うエマの戴冠式も配下が進めている。
うん、数日はオレのやることがない。
くそ、ここに来てまた暇になってしまった。
勢いで奴隷開放だぁーとか言ったが二日目で形になるとは思ってもみなかった。
こういうのってもっと時間がかかるもんなんじゃないの?
なんたら街道を進み、なんとか砦を落としたぞー、とか、どこどこ城を落としたぞー、次はどこだぁー、とかさ。
俺はそーゆーのを想像してたんだよ。
各国の王にあったら終了て。
いや、普通に各国の王に会ったらそりゃ直ぐに終わるか。
にしても、想像以上に呆気なかった。
まさか朝からこんなに暇になるとは思ってもみなかったぞ。
ひとまず近況の確認をしに各国をまわるぐらいか。
昨日の今日で何か変わっているとは思えないがひょっとしたら何か手伝える事があるかもしれんしな。
とりあえず朝飯食ってから考えよう。
考えるのをやめた俺は一旦寝室へ行ってセレネとエマを起こしに行った。
「見てぇーアルス、私達の新しい子供よー!」
その件は本当にいらん。
エマもいるのに何を言ってるんだ。
生まれたばかりのクリスタルドラゴンをつまみ上げるとレジャー施設へとほたりに行きエマを連れて食堂へと向かった。
「ちょっとー、おいていかないでよー」
お前が朝から変なこと言っているからだ。
置き去り程度で済ましてやってる俺の優しさに感謝しろ!
本気で怒らせたら朝食抜きの刑だぞ!
「待ってよー」
こいつ本当にアホだな、待ってと言われて待つヤツはいない。
俺はエマと二人で先に食堂へと入った、遅れてセレネ。
セレネは席についてからも俺にひたすら文句を言っていたが完全に無視だ。
エマさんや、何故にニコニコしているのだ。
その後はいつものようにワイワイと賑やかに朝食をとった。
セレネもやらせることが無くなってきたなぁー。
今日はまた三人で出かけるとしようかな。
「少し休憩したらまた三人で各国を回るとしようか」
「ごめんアルス、私ちょっと用事がある」
「ごめんなのパパ、エマも用事があるのなの」
なんじゃそりゃ、やる事ないなら一緒にと思ったんだけど、しゃーない食後のコーヒーを飲んだら一人で行くとしよう。
「あんまり周りに迷惑かけるなよ、んじゃいってくる」
俺は転移してアルフヘイムへと向かった。
「変わりはないか?」
「これは、アルス様。おはようございます。アルス様のお陰で変わりなく過ごせております」
俺のお陰って俺は何もしてないぞ。
「変わりがないなら良い。一応奴隷の受け入れ準備だけ進めておいてくれ」
凄いキラキラした目で見つめてくるからこの国は居心地が悪い。
俺は転移してウルティアへと向かった。
「変わりはないか?」
「これはアルス様、おはようございます。叔父上が亡くなり一部統率の取れない者達がおりますがこちらでなんとか抑えているところです」
「そうか、そちらの方は任す。一つ頼みがあるのだが、出来れば奴隷の中にいる獣人や亜人がいれば集めてくれないか。精霊大陸に移住を希望をする者がいないか訪ねたい」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
「引き続き頼んだぞ」
俺は転移してウルドへと向かった。
「変わりはないか?」
「これはアルス様、おはようございます。特に変わりはなく順調に話しは進んでおります」
「そうか、引き続き任せたぞ。それと出来るだけ早く奴隷の中にいる獣人や亜人を集めてくれ。精霊大陸に移住を希望をする者がいないか訪ねたい」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
「頼んだぞ」
俺は転移してウルヘイドへと向かった。
誰もいない玉座の間へとやって来た。
「誰かいるか?」
「はっ、こちらに」
メイド姿の魔族が姿を現した。
「頼んでいた獣人や亜人の奴隷達は集まったか?」
「申し訳ございません。全て、は集まっておりません。凡そ八割程度かと」
思ったより集まっているな。
「よし、その者達の所へといく。案内しろ」
「かしこまりました」
向かったのは城のホール。
二百人ほどの獣人や亜人の奴隷が集まっていた。
「よく聞け、俺は魔大陸ディルナル国の王、魔王アルス・ディルナルだ。今回の奴隷開放の首謀者で実行犯だ。今回の件で一番迷惑をかけたであろうお前たちに、一つだけ質問を持ってきた」
おおーー、と会場からどよめきが起こった。
「お前らの運命を決める大事な質問だ、よく聞け! お前らはこのまま人族の大陸での生活を望むのか? それとも獣人や亜人の国である精霊大陸アルフヘイム国に移り住みたいのか? すぐにとは言わん。しっかり考えて各々で答えを出してくれ」
再び、おおーー、とどよめきが起こる。
「人族の大陸に残る者にはこちらで住む場所を提供しよう。精霊大陸に移り住みたい者はこちらで精霊大陸まで送り届けよう」
おおーー、三度起こるどよめき。
「後日話しを聞きに来る。それまでに答えを決めておいてくれ。以上だ」
湧き上がる歓声。
俺はそれを聞きながら自分の城へと帰ったのであった。
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