俺は朝から怒っていた。
配下であるはずの奴等ときたら、よりによって幼いエマに余計な事を吹き込み、宴会を開かせやがった。
そして繰り広げられた地獄絵図。
調子に乗り過ぎだ。
何も語る気もしないよ。
だってただ酔っぱらいが騒いだだけの夜だもん。
エマは宴会の様子が余程楽しかったのかキャーキャー言ってみんなとはしゃぎながら夕食をとっていた。
その後もしばらくはしゃいでいたのだが早々にお寝むになったのでベッドへと連れて行った。
そして繰り広げられた、ただの酔っぱらいの地獄絵図。
早目に寝てくれて良かった、あんな光景は子供には見せれんよ。
俺はエマが心配だったから早目に切り上げてエマの横にいって寝た。
そして俺が起きてきた朝まで繰り広げられていた宴会。
そのせいで完全に忘れさられていたセレネがいたたまれない。
宴会をやっていたから誰もセレネを迎えに行かなかったのだ。
というか全員が完全にセレネの事を忘れていた。
俺も完全に忘れていた。
そういえば、と思って朝になってモニターを見たら、セレネは海の中を漂っていた。
おそらく昨日確認した感じだと夕食の前後ぐらいにはドラゴンを仕留めていただろう。
そこから半日。
少し悪いことしたなぁー、とか思って迎えにいったのに、海の中で普通に寝てたセレネにはさすがに驚かされた。
一緒になって漂っていた小さくなったシードラゴンも回収済みだ。
セレネはいくら声をかけても起きなかったので城の露天風呂にほたり込んである。
ふぅー、コーヒーが美味い。
目の前に広がるのは食堂の惨劇。
酔いつぶれた悪魔達の死体の数々、食い散らかされた食べ物の数々、散乱している皿やコップ。
別に羽目を外すなとは言わん。
仕事のミスも別にかまわん。
セレネを忘れていた事などどーでもよい。
幼いエマを使った事が許せん!
自分達の目的の為に小さな子供を使うなど言語道断!
それでも悪魔か!
ん、悪魔だから良いのか?
……いやダメだ!
まあ、あいつ等なりにエマを歓迎して楽しませようとしてくれていたのかもしれない。
くそ、頭ごなしに怒れんくなってしまった。
あー、余計ストレスが溜まる!
それもこれも奴隷制度が悪い!
そーゆー事だ!
そーゆー事にしよう!
ん?
気づくと目の前が綺麗になっていく。
だんだんと画面の一部分が変わっていくクイズ的な感じで床に落ちていた食べ物や皿やコップなどが少しずつ消えていくのだ。
しばらくするといつもの綺麗な食堂になっていた。
そして一箇所に集まり始める水のような物体。
スライム少女のエイアであった。
「ごちそうさまでした」
「片付けありがとう、エイア」
「は、恥ずかしいところをお見せしてごめんなさい」
前にも言っていたがどの部分が恥ずかしいのだろう。
スライムになっていたからか?
食事を見られたってことか?
よくわからん。
「気にするな、いつも助かる。というか酒が残っているのではないのか?」
「アルス様が起きてきたから。お酒はいつでも消化できるので」
溶かしてしまえば酔いも残らないという事か?
楽しむ時は体に留め、好きなタイミングで元に戻せるのか。
二日酔い知らずではないか、うらやましい。
こんな感じで奴隷制度もうまいこと全て溶かしてくれないかなぁー。
後は転がっている酔っぱらいの死体のみか。
「では、ここは私が」
パチンッと指を鳴らすと酔っぱらい達はどこかへ転移していった。
つーか、いたのね。ディアブロ。
「おまえ、いままで何をしていた。セレネを忘れていただろ?」
「いえいえ、決して忘れてなどいません。セレネ様が気持ち良さそうに海の中で眠られていたので見守っておりました」
こいつ絶対に忘れていたな。
まあ、別にいいんだけど。
「俺はエマの様子を見てくる。セレネが来たら先に飯を食わせていてくれ」
「かしこまりました」
俺は一旦寝室へと戻ってエマの様子を見にいった。
小さく丸まって震えながら眠っていた。
少しの間とはいえ一人にさせて悪かったと思いつつ、俺はエマの隣に添い寝すると背中を擦ってあやしてあげた。
昨日の今日で状況が一気に変わる事はないだろうが、この子のためにも奴隷の開放は早く進めてやりたい。
やることもないし、俺が直接動こうかなぁー。
配下が報告していてくれれば多少なりとはいえ話しは早くなりそうだしなぁー。
今日は各国から奴隷制度撤廃の契約書を集めるとしよう。
一番話しが早いのは精霊大陸だな。
その後、王国二つ、そして帝国だな。
小さな国はそれこそ配下に任せよう。
「おはよー、パパ。どうしたの?なんか悪い事考えているような顔してるよー」
「ちょい待てエマさん、考え事はしていたが悪い事は考えてないぞ。と言うかおはよう」
「そうなの?なんか変な顔だったよー、きゃはー」
それはデフォルトだ。
悪かったな変な顔で。
「起きたなら朝食に行こうか」
「はーい」
俺はエマを連れて食堂へと転移した。
「アルス、おはよー……って誰?その女?」
「ああ。帝国で奴隷になっていたエマだ。帝国に行ったついでに買ってきた」
「何?何なの?私という妻が有りながら、そんな軽いノリで女買ってきたの?そんな若い女が好みだったの?」
マジでこいつは煩い。
いきなり凄い勢いで喋るな。
こいついるの完全に忘れてた。
時間をズラすべきだった。
「えっと、お水の中で大っきなお魚と戦っていた勇者様ですよね?はじめましてエマと言います。パパの娘です」
「子供!!」
おいおい、エマさんや。
いきなり爆弾を落とすんじゃない。
こいつは勘違いの天才なんだぞ。
そして話しが伝わらないんだぞ。
「そんな訳あるか。帝国で奴隷になっていた女の子を金を払って連れてきた。そしてエマと名前をつけてあげたら何故か呼び名がパパになっていた。以上だ」
「勇者様はパパのお嫁さんなんですか?」
「そうよ、だから私のアルスとらないで」
「じゃー新しいママですか?」
「……?……ママ?」
やるじゃないかエマさんや。
あのセレネをフリーズさせるとは。
「キャー、そうよママよ!私があなたの新しいママよー!見て見て、アルス!私達の新しい子供よー!」
凄い勢いでエマを抱きしめるセレネ。
というか何故にそうなる!
「宜しくお願いします。ママ」
「かわいいーー!!!」
おそろしい、一瞬でセレネを手懐けたぞ。
将来本当にどっかの国の王になりそうな気がしてきた。
さすが俺の娘だと褒めておこう。
「ひとまず朝食にするぞ」
「「はーい」」
恐ろしいぐらい精神年齢が近いのは気のせいだろうか。
どうみてもせいぜい姉妹止まりだぞ。
楽しく会話をしながらの食事は進み、凄い速度で食べるセレネに、エマが挑戦してギブアップするなんて場面も見られた。食事であれには勝てんよ。少なくとも人には無理だ。
「さてと、ひと休憩したらセレネには残る南のドラゴンを討伐してもらう。俺は世界各国に奴隷の開放を約束させるために向かう。エマは俺とついてきてもらうからな」
「えーっ!私も行きたいんですけどー」
「ダメだ。お前がきたら話しが拗れる」
「なんでよー。なんか最近の私に対する扱いが酷いんですけどー」
「気のせいだ。最初から何も変わっとらん」
「やっぱり冷たいんですけどー。他に女ができたんでしょー」
「ママ!パパに沢山の女の人がいるのは当然です。男の甲斐性ってヤツです。騒いだら負けです。真の勝者は黙して語らないのです」
「ぐっ……」
おいおい娘に論破されとるやんか。
でも、エマさんや。それはそれで認識を間違えてるからな。
「パパ。でもママは勇者様だから、一緒のほうが王様達と話すときに有利になるかもです」
これまた正論だな。
俺の中ではアホで確定しているのだが、人族では勇者だ。
それなりに活動していたようだし、名は知られている可能性もあるか。
「エマは本当に賢いな。よく周りが見えている」
「パパの娘だから当たり前なの」
腰に手を当ててドヤ顔しているのがまた可愛らしい。
「よし、それでは家族旅行と洒落込むか」
「やったー、エマちゃんありがとう」
だからどっちが親なんだよ!
とりあえずみんなで各国の王様と話しに行くとしよう。
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