俺は新しい武器を作るために闘技場で実験をしている。
魔石の『圧縮』には成功させた。
威力も下がることはなくむしろ上がった。
そして圧縮の実験と同時に魔石を搭載させた兵器の小型化にも一歩近づいたのだ。
銃だ。
と言っても銃は作らない。正確には作っても勇者には与えない。
勇者に持たせたとして実践の中で正確に射撃出来るほどの技術は育たないと思うからだ。
そう思うのは完全に俺の決めつけなんだ。あいつは冷静さが足りないし器用そうも見えない。
まぁ、この件はひとまず置いておいて。
次は鉱石を作る。
使うのは魔術の伝導率が一番高いといわれる鉱石のミスリル。
ミスリルだけで剣を作ると勇者は重くて使えないだろう。
毎度お馴染、勇者の非力問題!
それを解決する鉱石をみつけた。
その名も浮遊鉱石。
文字どおりに浮く鉱石だ。
この二つを合成して軽くて魔術が伝導する鉱石を作る。
問題は配合率。
浮遊鉱石は脆いのだ。余り混ぜすぎると軽くはなるが武器としての耐久性が著しく落ちる可能性が高い。
何度か試して地道にあたりをつけていくことにした。
まずは半々で鉱石の塊を作ってみる。
二つの鉱石を魔力で練り上げ混ぜ合わせるだけで完成だ。
出来た鉱石を思いっきり握ると軽く砕けた。
砕けた欠片を集め、そこにミスリルを少し足して混ぜ合わせ、合成する。
思いっきり握ると同じように砕ける。先程より少しはましになったか。
ちゃんと強度は上がっているようだ。
欠片を集めミスリルを足しては合成をして砕いていく。
強度のチェクを繰り返すこと数十回、カーボンよりは若干重いがミスリルとしてある程度の強度を残した軽い鉱石が出来上がった。
こいつを剣にする。
ベースはカーボンソードと同じショートソードタイプだ。
魔力の伝導率が良いからなのか剣は呆気なく出来た。
カーボンソードとの大きな違いは、今回は柄頭の部分に窪みを作ってある。
この窪みにビー玉サイズに圧縮した魔石をはめ込むためだ。
先程圧縮した火の魔石をはめ込んでみる。
そして魔石を起動。
火の魔石をはめ込んだ刀身から炎が出ている。
魔石を取り外すと刀身の炎は消えた。
実験は成功だな。
最後に。
白く光っている光の魔石を手に取ると先程同様に圧縮していく。
火の魔石に比べるとかなり苦戦した。
俺は光属性は相性が悪いのだろう。
抵抗があるというか凄く固いというか。
かなりの時間と魔力を使ったがビー玉サイズに圧縮することになんとか成功した。
光の魔石は対象がいないと性能がわからない。
俺の魔力の影響で劣化していないことを祈るのみだ。
先程の剣に出来たての光の魔石を付ける。
すると刀剣は白い光に包まれた。
よし。
魔石の付替えにより属性を変えることの出来るミスリルの剣が出来た。
問題は剣の斬れ味、耐久性、重量。
それと光の魔石の力がどれほど発揮され、どの程度剣に反映されるかだ。
これはここでは実験のしようもないので勇者にぶっつけ本番で試させてみることにする。
今回作らなかった残りの属性の魔石の圧縮は後々やるとしてこれだけ届けさせるか。
俺は完成させた剣を手に玉座の間へと転移した。
「おかえりなさいませ」
ディアブロが綺麗な一礼で迎えてくれるなか玉座へと座りモニターを確認する。
「代わりはあるか?」
「依然として逃げております」
だな。モニターには変わらず走る勇者の姿が映っている。
「ふと思ったんだがあいつって食事はどうしているんだ」
「ダンジョンへと入ってからは私が届けております」
「えっそうなの?」
「直接お渡しするのはどうかと思いましたので予め行き先を予測した場所に宝箱としてダンジョンに設置いたしました」
「いや宝箱って!それもお前の茶目っ気か?」
「左様でございます」
あの理解不能な行動をする勇者の行き先を予測するとは。凄いなディアブロ。
俺には無理だ。
そして予測した場所に宝箱を設置して届けるという発想が凄い。
ダンジョンで見つけた宝箱を開けると、出来立てほかほかの調理済み料理が入っているってわけだ。
うん、俺なら絶対に食わん。
あいつなら平気で食べるだろうな。
俺には無理だ。
だが後方から支援するというなら良い方法かもしれん。
今回はダンジョンだし、俺が直接剣を届けにいっても離れた位置から渡すことは出来ない。
下手にダンジョンに入って強いアンデッドが大量に湧き出ても困る。
直接届けにいけないとは、非常に残念だ。
仕方ないので今回はディアブロに任せるとしよう。
「この剣をあいつに届けておいてくれ。方法は任せる」
「かしこまりました」
「俺はこのまま新しい道具を作るための実験に入る。何かあれば報告しろ。基本的に宝物庫か闘技場にいる」
「かしこまりました。おまかせください」
俺は再び宝物庫に籠もるのだった。
どれくらい時間が経っただろう。
ディアブロに呼ばれた。
「大切なお話がございます」
玉座の間へと戻った俺とディアブロはモニターを見た。
モニターには勇者が白い虎と戦っている姿が映し出されていた。
うん、なかなか強そうな虎である。
両者の実力は同じぐらいか。
しかし立回りの上手さから恐らくは勇者の圧勝であろう。
それに勇者が手に構えているのは俺が渡したカーボンソードだ。
白い虎は光属性のオーラを纏っている。
光の魔石を付けて光属性を纏わせたミスリルの剣ではダメージが通りにくい。
そこまで考えてあえて属性のないカーボンソードを選んだのだろう。
的確で見事な状況判断力だ。
相手の特性にあわせて上手く武器を使い分けれる能力はあるようだ。
戦いは俺の読みどおりワンサイドゲームになった。
虎からの攻撃を躱してはダメージを重ねる勇者。
順調にダメージを与えていく。
もう一押しという場面で、最後っ屁に虎が口からレーザーを放っていたが見事に回避し、冷静にとどめを刺している。
タメ時間ゼロで放たれた高出力のレーザーを躱すとは、なかなか良い感じに仕上がっている。
「で大切な話とは?」
本題を忘れるところだった。
「恐らく勇者が辿り着いたダンジョンは霊獣の試練にございます」
「霊獣って四霊獣とかいうあの霊獣か?」
「左様でございます」
「ってことは今倒したのは白虎?ん、白虎?まぁいいか。で試練というのは?」
「霊獣を倒すことで祝福を得ます」
「それは強くなる、ということとは違うのか?」
「確実に強くなります。ただし霊獣の加護は受け手にとってかなりの精神的負担となります。耐えられなければ元の人格は勿論、最悪の場合は廃人になります」
強くなれるかもしれないがリスクもあると。
「あいつの人格は既に破綻している。今更どうこうなる訳でもあるまい。それにあいつが強くなるに越したことはない」
「アルス様がそう仰るのでしたら」
勇者が、あいつがその程度でどうこうなるとは到底思えない。
「ひとまず様子を見る」
「仰せのままに」
虎を討伐した勇者は広間の奥へと行き、虎を倒したことで現れた転移の魔法陣に乗って、別の空間へと移動した。
勇者が転移した場所は、半球上の白い天井に覆われた場所だ。
空が塞がれているのに昼間の様に明るい。
アスファルトのように凹凸のない綺麗な道が真っ直ぐ続く。
道の奥には真っ白な寺院?のような建物。
勇者は躊躇うことなく寺院へと向かい中へと入っていった。
寺院の中には白く光る球体状の魔法陣があった。
立体魔法陣とかあったな?それか?
勇者が立体魔法陣に触れると光が溢れて消えた。
同時に立体魔法陣も消えている。
どうやらディアブロが言っていた事はハズレのようだ。
見た目に勇者に変わりはないようだ。
何が起こったか訳がわからずキョロキョロしているようにしか見えない。
あいつの心配をするだけ無駄だ。
良い意味でも悪い意味でもあいつは勇者だからな。
とりあえず勇者を迎えに行った。
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