いま私は爽やかな空気がそよぐ森にいる。
魔王直属の執事筆頭ディアブロさんに連れて来られたのは森だった。
詳しく説明されていないので具体的にどこかだかよくわからない場所。
山脈の麓にあるという森の中だった。
森の中だから周りを見渡せるほど景色は良くないし、山脈の麓と言っても山などまったく見えない。
どこだかわからない不安はあったが、昨日はお腹いっぱいになるまで食べれたし、ふかふかのベッドでも寝れた。
朝もしっかりと食べてきたので今日の私はやる気に満ち溢れている。
今回も帰ったらでっかいお風呂と美味しい食事が待っているのだ。
やる気が出ない訳がない。
「ありがとうございます。ディアブロさん」
「いえ、主からの命令ですので」
「あはっ、それでもありがと」
「主が悲しまれるような事にだけはならない様にお気をつけください」
「任せてください、きっちり強くなってこの剣を魔王にきちんと返さないとね、あと魔王の名前も聞かないといけないから」
「無事お帰りになられることをお待ちしております、では」
ディアブロさんはお城へ戻っていった。
さぁーてと、前回はいきなり狼の巣のど真ん中に何も言わずに置き去りにされたけど、今回は周囲に敵の気配はない、自然豊かな森の中に連れて来てもらえた。
心構えもないままにいきなり戦闘になるよりはかなり余裕がある。
といってもここはあの魔王が決めた場所だ。
そこへ連れて来られた以上油断は出来ない。
きっといろいろと危険な魔物が数多くいるのだろう。
魔王が貸してくれた『ダイヤくん』がとても心強い。
これがあれば大抵の魔物は倒すことが出来る。
とりあえず同じ場所にずっといても仕方ない。
じっとしていて襲われるぐらいなら、こちらから魔物を見つけて奇襲をかけたほうが戦略的に有利というのもある。
私は、森の中を歩いて行くことにした。
なんとなく気が向くまま真っ直ぐに森の中を歩いていく。
昨日しっかりと休めたおかげでかかなり気分が良い。
天気も良いし、木々の隙間から溢れる日差しが気持ち良い。森の空気も良いし、綺麗な花も沢山咲いている。
「このまま魔物に出会わなければいいのになぁー」
とか言ってると、突然魔物の唸り声が聞こえた。
思ったよりも近い。
声の方へ意識を集中していると熊の魔獣が現れた。
デーモンベアと呼ばれるかなり強い熊の魔物だ。
ランクは4。
王国付近で現れたら大変な騒ぎになる魔獣だ。
一体程度が相手なら今の私の敵ではない。
ドリァーッ!
ダイヤくんを握り直すと一気にデーモンベアとの距離を詰めて首筋を斬り裂いた。
やはりこの剣は凄い。
軽いのにこの斬れ味だ。
倒した余韻に慕っていたのは僅かな時間、だが気づいた時には私はすでに囲まれていた。
ふぅー。
一息つき心を落ち着かせる。
囲まれたといってもまだ距離はかなりある、とはいえそれなりの数がいる。油断は出来ない。八、違う九体。
気を引き締めて、どこから襲われても対応できるようにと集中をしていると、いきなり横から『白い光の筋』が見えた。
私は意識するよりも早く身体を反らせていた。
すると先程見えた光の筋に沿って爪で攻撃を繰り出そうとしているデーモンベアの姿が視界に入った。
相手の攻撃の軌道が先に見えてる?
ハッ!
疑問に思うよりも早くすれ違いざまに剣を振り襲いかかってきたデーモンベアを倒す。
その後も次々と見える光の筋。それを避けると数瞬遅れてデーモンベアの攻撃が通過していく。
「これなら余裕!」
何故そんなものが見えているのかなんてどうでもよく、便利に使えるなら便利に使うだけだ。
デーモンベアの攻撃を躱しては攻撃を繰り返していく。
「ふぅ、終わったー」
デーモンベアの群れは瞬く間に殲滅された。
こんなに調子よく魔物の群れを倒したことはない。
私は上機嫌のまま森を進み更に二つほどの群れ(狼、猪)を倒した。
その後、楽しく森の散策をしていたのだが再びデーモンベアの群れに出くわした。二十体ぐらいだろうか。
先程よりも数がかなり多かったが順調に討伐していった。
とはいえ、いくら相手の攻撃が見えているとはいえ数が多い。
同じ場所にいては、いずれ捌ききれなくなる可能性のほうが高い。
なるべく数が少ない方へと位置取りを変え、場所を変えながらひたすら目の前のデーモンベアを仕留めていく。
攻撃の軌道が見えるので、今まで倒してきた魔物の討伐よりもかなり早いペースでデーモンベアの群れを討伐していく。
今日は最初から精神的に余裕があったこと、その後の魔物の群れも順調に討伐できたこと、相手の攻撃の軌道が予め見えるようになったことなどもあり私は戦闘中においてもかなりの余裕があった。
それがいけなかったのだろう。
思った以上に順調に行き過ぎていた。知らず知らずのうちにペースが上がり過ぎていたこともある。
光を筋を躱して一番近くにいたデーモンベアを斬りつけた、のだが斬りつけたデーモンベアの死角から重なるようにして襲いかかってきた攻撃に反応が遅れた。
耐えろ!
被弾は間逃れない、自分に言い聞かせて攻撃に備えたのだが、デーモンベアの攻撃を喰らった私は軽々と吹き飛ばされた。
体制を整えないと!
吹き飛ばされながらも体制を整えるために地面に足をつこうとした、が足元が急な斜面にあることに気づいた。
チッ!
咄嗟に足元に意識を集中してバランスを取ろうとしたのだが身体の反応が鈍い。知らないうちに疲れていたのか、いつものパフォーマンスとは程遠い感覚に舌打ちをする。
結局足元はまったく定まらず吹き飛ばされた勢いそのままに、かなりの距離を斜面に沿って転がり落ちた。
上か下かもわからなくなるほど転がりに転がり、急な浮遊感に襲われ落下の衝撃に襲われた。
深刻なダメージは無かったがかなり深い穴に落ちたのだと思った。
上を見上げてみるが、恐らく自分が落ちてきたであろう穴はかなりの高さにある。落ちてきた穴からは地上へと戻ることは出来そうにはない。
洞窟?
周りを見渡して見たのだが、地下であることは間違いなさそうだ。洞窟かと思ったが自然に出来たとは思えないような広い作りをした部屋のような所にいた。
その部屋からは一箇所だけ道が続いていた。
上には行けないし、ここでジッとしとくことも出来ない。
別の出口があることを信じて部屋から続く道へと進んでみることにした。
道が見える。
地下の洞窟のはずなのに明るい。
普通洞窟には明かりはない。
火の魔術を使って火を灯しながら進まないといけないと思っていたのだが、壁や天井の一部が僅かに光っており道を照らしていた。
周りがハッキリと見えるほど明るくはないが足元が暗くて見えないなんてことはない。
「なにこれ、どうゆう仕組み?」
疑問に思った。その時、一つの考えが脳裏を過ぎった。
「まさかダンジョン?」
噂には聞いたことがある。
かつてダンジョンと呼ばれる魔物が生息している洞窟があったということを。
ダンジョンは洞窟のように天然が作った物ではなく、どうやって出来たのかすらわからないけれど人工的な作りをしていて、地下でも明かりがあるとか聞いた。
壁や天井が光って道を照らしているという話だ。
「うわぁ、完全にダンジョンだ。」
自分の知識と目の前の光景を見比べて妙に納得がいった。
まぁ、ここがダンジョンだからといって悩んでもしょうがない。
とりあえず出口を探そう。
辺りを警戒しながら慎重に道を進んでいく。
しばらくすると分かれ道に辿り着いたが、迷うことなく一つの道を選びどんどんと進んでいく。
魔物の気配はない。今のうちに少しでも多く情報を得ようとした。
それが間違いだった。
一つだけ私は忘れていたのだ。
突然、私の周りの地面が盛り上がった。
グゥァァー!
ゾンビの群れが現れた。
ダンジョンはアンデッドの巣でもある。
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