魔王城の食堂でいつもよりも賑やかな朝食をとった後、軽い休憩を挟み出発する準備をしていた。
今回は俺とセレネ、エマを加えた三人で行動する事にした。
セレネの事はエマに任せておけば途中で余計な口は挟むまい。
最初の目的地は俺と最も交流のある精霊大陸だ。
忘れないように出発前にセレネには重さの調整が出来るようになったオリハルコンの剣を渡してある。
試しに何度か振らせたがこれなら問題なく振れるそうだ。
セレネが言うにはカーボンソードより軽いらしい。
お役御免となったカーボンソードとミスリルの剣はひとまず返して貰って空間魔術で収納してある。
「準備は出来たな。行くぞ」
俺は二人に言うと一緒に精霊大陸へと転移した。
と言っても転移したのは城の中ではなくあえて街の外だ。
というのも他の二人にも外観から街を少しでも見てもらいたかったからだ。
「緑が綺麗なところですねパパ」
「ここは魔王大陸からずっと南にある精霊大陸だ。いろんな種族、エルフやドワーフ、獣人などがいる国だ。逆に人族は殆どいない」
「なんかいまいちパッとしない街ね」
「発展の度合いで言うなら人族の国のほうが栄えているかもな。最低限の生活を楽しんでいるような国だな」
「パパー、早く街の中に行こーよー」
「残念ながら街は見ないぞ。時間がいくらあっても足りないからな」
「「えっーーー!!!」」
二人して考えている事は同じだったんだな。
俺は二人のブーイングを無視して城へと転移した。
「誰だ!!!」
「侵入者か!!」
前回同様に騒ぎ出す兵士達。
前回は俺が問答無用で動きを拘束したのだが、実は既に城中に俺の話しが回っていて俺は顔パスになっていたのだ。
話せば通じたのに知らずに拘束したという訳だな。
うん、あの時はすまんかったな、反省はしていない。
「俺だ」
「「アルス様でしたか、失礼致しました」」
ご覧の通りである。
「パパ凄ーい!」
だろ?
と思ってしまう俺はチョロいのだろうか。
というかチョロくても良いのだ、娘に褒められるとなんだか嬉しいから良いのだ。
そのまま玉座の間の扉を開け王と面会した。
「これはこれは、ようこそお越しくださいました。アルス様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「単刀直入に言うが、この世界から奴隷制度を撤廃したい」
「えっ?」
俺の声に反応したのはエマだった。
だが今は駄目だと思ったのだろう。
咄嗟に両手で口を押さえた。
本当に偉い子だ。
「アルス様、奴隷の廃止でしょうか?」
「そうだ。人身売買その物をなくしたいのだ」
「我が国では奴隷の制度はありません。むしろ混血の亜人が人族の大陸で奴隷として扱われているというのは聞いたことがあります。むしろ我らとしては願ってもいないお言葉です」
「であれば署名が欲しい。今後一切の奴隷、人身売買を認めないという署名だ」
「わかりました。国を助けていただいただけでなく、遠い地に住む我らの種族全てをお守りしていただけるとは……。直ぐにご用意いたします」
何故に泣く。
そういうと王は席を離れどこかへと行ってしまった。
「パパ、どういうこと?エマのせいなの?」
「エマは何も悪くはない。悪い奴等がいるから辞めさせに行くだけだ」
「ふふ、ありがとパパ」
そう言うとエマがギュッとしがみついてきた。
待てセレネ、子供がしている事だ。お前まで飛び込んでこようとするな。
「おまたせしました。こちらが書面になります」
「随分と早かったな」
「お恥ずかしながら、王になる前は将軍をしていましたが、こういった仕事ばかりしていたものですから」
まぁ、出世すると現場や実践から離れて書類関係が多くなるのは時代や場所を問わずどこも一緒なのだろうな。
「アルス様、お久しぶりです。お待ちしておりました」
猛烈に嫌な予感がする。
嫌な予感はするのだが、いやいや振り返ってみると前女王のティターニアがいた。
無駄にキラキラとした目をして真っ直ぐ俺の方へと近づいてくる。
「これ以上はダメ!」
バッと両手を広げてこれ以上近づけさせないとアピールをしたのは、さっきまで俺にしがみついていたエマだった。
「エマのパパなの!とっちゃ駄目なの!」
「……えっ?……パパ?」
へなへなとその場へ崩れ落ちるティターニア。
「そんなアルス様に子供がいたなんて……」
これまた面倒くさそうな展開である。
俺は簡単に一通りの成り行きを話した。
「なるほどそれで奴隷制度をなくしたいと仰られたのですね」
さすが無駄にイケメンの王様だ。
飲み込みが早くて助かる。
「でしたら是非ティターニア様も一緒に連れて行ってあげていただけないでしょうか。精霊大陸の代表として申し分ないと思います」
そして無駄な一言を言うのがイケメンだ。
変な気遣いをするな、このアホが。
だがあながち言っている事は間違いではない。
間違いではないのだが、そうなると行く先々で発生するであろうセレネとティターニアが巻き起こす騒動の数々……非常に面倒くさそうな話しである。
「いいんじゃない?一緒にご飯食べた仲だし」
お前もこういう時にピンポイントでいらん事を言うヤツだったな、セレネ。
「パパ、王様が言っている事はエマもあってると思うの。エマは嫌だけどママが良いって言うならエマちゃんと我慢するよ」
「だったら却下だ!エマが我慢しないといけないのなら、それは間違っている。却下だ」
決めた。こいつは連れて行かん。
「ですがアルス様の今後の交渉を考えると精霊大陸の力添えがあったほうがより上手く行くのではないでしょうか」
「お前は、俺が精霊大陸の力添えがないと交渉を上手くやれない、と思っているということか?」
「いえ、決してそのような訳では」
「だったら却下だ」
俺は改めて渡された契約書をみつめる。
書かれていることに問題はなさそうだ。
俺は契約書に魔力でサインをした。
「悪いが俺の魔術でこの契約を永久に縛らせてもらうぞ」
俺は契約書に魔力を込め精霊大陸中に流し込んだ。
光りが溢れ契約書が光りとなって消え去った。
「これでこの大陸ではこの契約を破れなくなった。万が一破る者がいれば即座にわかるようになっている。契約を破ればどうなるか、わかるよな」
「勿論でございます。ありがとうございますアルス様」
だから何故に泣く。
こいつ等はもうほたっておこう。
「よし、行くぞ」
俺はセレネとエマを連れて次なる場所へと転移した。
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私はアルス様に子供がいるという事実に思わず膝をついてしまいました。
「まさか、アルス様に子供がいらしたなんて。でもアルス様は魔族の王たるお方。妻が複数人いても子供が何人いてもなんの不思議もありません。私は、私はそれでも貴方についていきます」
気づいたときには既にアルス様はいらっしゃいませんでした。
「やはり私の覚悟が足りていない事などお見通しなのですね。そこまで私の事を考えてくれているなんて……なんて私は幸せ者なのでしょう」
「ティターニア様、アルス様は、我らの神は流石でございます。何もかもお見通しでした。まさか我らが種族の悲願である奴隷の開放。これを変わりに成してくれようとしてくれるとは。我らが今までその為に力を蓄え、人族の大陸に攻め入る準備を進め、近いうちに決行する事も、そこで多くの血が流れる事もお見通しだったのでしょう。そして今回は我々を心配して、それを止めに来てくださったのでしょう」
「アルス様なら当然です」
「私もそう思います」
「さぁ、折角アルス様がくださった精霊大陸の平和です。もっとアルス様の偉大さを広めましょう」
私はもうしばらくこの地で頑張ります。
この大陸の全ての者に、いえ世界中にアルス様の偉大さをお伝えいたします。
その時はきっと迎えに来てください。
心よりお待ち致しております。
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