感動の再会を果たしたクヴァリル家の母と娘。
抱きあう二人、母と娘、感動の再開だ。
落ち着いたところで席についてもらい状況を説明させてもらうことにした。
「改めまして、ようこそおいでくださいました。マイア・クヴァリル侯爵夫人。ゆっくりとくつろぎながら話しを聞いていただけてばと思っております」
「ありがとう。で、どうしてこんな状況になっているのか、説明はしてくれるのでしょう?」
さすが貴族。凄い圧をかけてきた。
プレッシャーが半端ではない。
「はい、包み隠さずお話しさせていただきます」
「あと、堅苦しいのはいいわ。所詮私は人族の貴族。魔族の王様の方が位は高くてよ。私はアルスくんと呼ばせてもらうわね、ふふふ」
そして頭がキレる。
自分が下と言いながら対等な呼び名を提示してきた。
本当にセレネはこの人から産まれたのだろうか。お腹の中に知恵と知識を置いてきてしまったのではないのだろうか。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると俺も話し易くて助かります」
ひとまず、俺は別の世界の住人であったことを話した。
「別の世界。にわかには信じられない話しね」
「無理もないです、俺だって実際に体験してなければこんな話しを言われても信じないです」
「そこで事故にあって亡くなったのね。そしてあなたになった」
「そうです」
「おかしいわね。産まれた時からその姿なの?」
そういえば誰かから産まれた記憶も幼少期の記憶も全くないな。眠りから覚醒したって感じだった。姿も前世と同じだし。
「改めて考えると不思議なんだが、気づいたらこの姿であったな。まだ生まれて二ヶ月だ」
「アルスってまだ0歳だったんでちゅね、ははは」
くっそ!あいつは後でデコピンの刑に処す。
「ふふ、不思議なお話しね。で続きは?」
生まれ変わるときに出会った神と思われる存在の話、その時選択した内容。選択した理由を話した。
「なるほどね。なんとなく理解はできたわ。魔王になることを選んで、そして死んで元の世界に帰ろうとしたということね」
どんだけ頭の回転が早いんだ。普通こんな話しは理解できんだろ。
「そして勇者であるうちの子を攫ったのね」
まだ話してない内容まで理解されていた。
「その通りです。俺のことを殺してもらおうと思ったので」
「理由はわかりましたが、人の娘を攫ってそれで済むとお思いですか?きっちり責任はとっていただきます」
やべー、さすがにお義母さんは怒ってらっしゃる。
圧が膨れ上がってる。
「責任というのは?」
「娘を妃として貰ってもらいます。傷物にされたのです。当然の事でございましょう」
なんだか突拍子もない凄まじいことを言われた気がする。
誰が誰を傷物にしたと?
俺が傷物にされて殺されようとしていたのであって俺は傷つけてなどいない。
結果的に俺も傷物にすらなってはいないのだが。
「あっ、言うの忘れてた。私、アルスと結婚したから」
「……はい?」
固まるお義母さん。
アホが!いきなり爆弾落とすなや!
物事には順序ってものがあるだろうが!
サラッと一番重大な内容を話しやがった。
「どういうことなの!結婚してるの?なにがどうなってそうなってるの?ちゃんとお話しはしたの?プロポーズはどっちから?式は挙げたの?」
みろよ、ほら。お義母さんが凄いテンパり具合になったじゃないか。
「式はちゃんと挙げたよー。魔族のみんながお祝いしてくれたのよ。ちなみにプロポーズはアルスから、『好きだよ』って!キャーーー」
カオスだ。
混沌とした世界が始まろうとしている。
「こほん。アルス様、正式にクレームを入れさせていただきます。何故、結婚という重大な事柄の前に挨拶に来られなかったのでしょうか。そして何故、結婚式に私は招待されていないのでしょうか。正式な回答をいただきたいと思います」
ごもっともなご意見でございます。
ぐうの音もでません。
「急遽結婚と言う流れになりましてそのまま式をしてしまおうと」
「あなたは娘をなんだとお考えですか?物じゃないのですよ。物だとしても物事には順序というものがあるのはご存知でしょうか。挨拶をしてから婚約、そして結婚です。文化や風習が違うとしても、せめて声ぐらいかけれなかったのでしょうか」
ブーメラン!
正論という言葉の刃が俺の胸に突き刺さる。
確かに挨拶に行くことも、結婚式に呼ぶこともできたのだ。
「ごもっともなご意見です。勢いにまかせて冷静な判断ができなかった俺の落ち度です」
「わかっているなら宜しいです。ではやり直しを要求いたします」
「やり直しでしょうか?」
「私とて娘が王と結婚となれば反対する理由はありません。我が家へ挨拶に来てください。そしてもう一度結婚式をおこなってください。当然私達も参加いたします」
ちょい待てー!
娘の結婚だぞ!どこを反対しとるのだ、この人は。
「結婚に反対されているのでは?」
「先程も申し上げましたが娘が魔族とはいえ王様との結婚です。位が上の方との結婚ですよ。そして何よりこの城。王宮よりも豪華な造りです。ここでの生活など夢のようではないですか。そこに反対する理由はこれっぽちもごさいません」
「要は挨拶。そして結婚のやり直し、でしょうか?」
「そうです。親が娘の結婚式をどれほど楽しみにしているかおわかりでしょうか」
「申し訳ありません。正直言って理解できません」
「ふふ、素直な方なのですね。少し安心致しました」
嘘をついても仕方がない。わからないものはわからないのだ。
にしても親目線で考える結婚式か。
男の俺には全くと言っていいほど頭にはなかった考え方だ。
確かに娘が結婚となれば見送りたいという親の気持ちもあるか。
「私もたまには素敵なドレスを着たいのです。王族や上位貴族の流行に合わせた、ダサくて地味な衣装を着てのお茶会なんてこりごりなんです。好きなドレスを着て、美味しい食事に高価なお酒、ツマミはもちろん娘の花嫁姿です。これほどの贅沢を逃してしまったのですよ。謝って済む問題ではありません!」
お義母さん、良い話っぼかったのに本音が駄々漏れです。
パーティーがしたかったんですね。
さすがです。さすがセレネの母親です。
すっかり頭から抜け落ちていました。
「わかりました。改めてやり直すことを誓いましょう」
「わかってくれて嬉しいわ。それじゃ私たちも引っ越しの準備をしないといけないから今日はこの辺で失礼したいと思いますわ」
「お引越しなさるのですか?」
「そうよ。結婚となれば私達もここへ住むわ」
ヤベェー。まじでセレネだ。
さすがセレネの母親だ。発想が完全にセレネ。
いやこっちが元祖か。
ぶっ飛んでるな。
「クヴァリル侯爵とご相談されてからのほうがよろしいのでは?お仕事もあるでしょうし」
「いいの。ついて来ないなら離婚するから。なんならアルスくん私ももらっていただけないかしら。セレネよりは役に立つわよ」
こえーよ。やっぱこの母娘はこえーよ。
ぶっ飛び具合が洒落になってねー。
しかも本気で言ってるところがこえーよ。
「なに言ってるのお母様。領地の経営もあります。いきなり引っ越しだなんて無理に決まってます。そしてアルスは私のです」
「大丈夫です。領地の経営も、含め家督は全て長男に譲ります。引き継ぎに関しては時間がかかりますけど、そこはアルスくんの転移の魔術があればどうにでもなりますわ、ほほほ」
ヤベェー変なところで頭の回転が早い。
セレネに知能をプラスするとこんな化け物になるのか。
「アルスを便利グッズみたいに言わないで!そんなことには使わせないんだから」
「あら、なにを言っているのかしら。義母が息子にお願いしたらいけないの?」
「だ、だめじゃないけど……」
完全に丸め込まれとる。
それに一緒に住むといっても、別にそれならそれでもかまわんのだがな。城が無駄にデカイし。
「それでは、結婚式の時にでもクヴァリル侯爵と一緒に部屋を見てください。それからでも遅くはないでしょう」
「わかったわ。結婚式のときには家の荷物を全て運べるように準備しておくわ」
おい!何故にそうなる。
引っ越し前提ではないか。
「そう焦ることはないと思うのですが」
「決めるときは直ぐに決めるのよ。判断と決断は即座に。貴族の鉄則です」
あかん。
あかん人のあかんスイッチが入ってしまっている。
よろしければ↓の☆を付けて評価して頂けると嬉しいです。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!