討伐されたい転生魔王

〜弱すぎ勇者を強くする〜
ただのこびと
ただのこびと

【勇者視点】5

公開日時: 2020年9月9日(水) 06:00
更新日時: 2020年9月9日(水) 07:03
文字数:3,080

私は完全に忘れていた。


ダンジョンはアンデッドの巣でもある。

ゾンビの群れが現れたのだ。


「ギャァーッ」


私は叫びながら地面から出てくるゾンビを斬りまくった。

斬って斬って斬りまくった。

一向に減らないゾンビ。むしろ増えているような気がする。


「ギャァァーッ」


叫びながら斬りまくった。

そして気づいた。斬ったはずのゾンビの体が元に戻っているのだ。


「ギャァァーーッ!」


とりあえず逃げた。


ゾンビのいない方向へ全力で。


幸いゾンビは足が遅かったので追い付かれなかった。

助かった。

ホッとしたのも束の間。


再び地面が盛り上がった。



カタカタカタカタッ



骨だけの魔物、スケルトンが現れた。


「ギャァーッ」


一心不乱に斬って斬って斬りまくった。

がスケルトンも元に戻っていく。


「ギャァァーッ!」


一目散に逃げた。めちゃめちゃ逃げた。


「なんで倒せないのぉー」


私は人生で唯一克服出来ない嫌いなものがある。

オバケが嫌いだ。大ッ嫌いだ!

ゾンビもスケルトンも本当に無理。

なんで倒せないの?

勇者として依頼があってアンデッド退治にでかけたこともある。

そんな時は目を瞑って剣を振り回していたら知らない間に倒せていた。

倒せていたのだ。

だが何故だか今回は倒せない。


カタカタカタカタカタッ


「ギャァァー!」


逃げて逃げて逃げ回った。



今まで倒せていたのに倒せない。

今までと違うこと。違うところ。


「あっ剣が違う。」


今までアンデッドと戦ったときは聖剣を使っていた。

そうだアンデッドは聖属性に弱いんだった。

ようやく基本的なことを思い出した。

聖剣は聖属性を付与された武器だったが、ダイヤくんには属性が付与されていない。

それでか。ようやくわかった。

わかってしまえば怖くはない。


「グゥァァー」


ゾンビが出てきた。



浄化の光ターンアンデット



聖属性である光の魔術を使うと辺り一面にいたソンビの群れが瞬く間に消え去った。

これで怖い物なしだ。

ガムシャラに走ったせいで自分の居場所なんて一切わからなくなっていた。

今はそんなことはどうでもいい。気にしても仕方ない。

私は更にどんどんと道を進んでいく。

時々現れたアンデッドは魔術で蹴散らしてやった。


そして進んだ先にあったのは行き止まりの部屋だった。

何かないかとよく調べていると天井に穴が開いているのが見えた。



私が落ちてきた場所だった。



アンデッドに襲われ走って逃げて、走り回って、聖属性の魔術を使いまくった結果スタート地点へ戻ってきたいうことだ。



「よっし、再スタート!」



私はこれぐらいじゃへこたれない。

こんなもんじゃ諦めてやったりしない。


私は再びダンジョンの探索を再開させた。

さっきはこっちだったから今度はこっちかなぁ。

私は勘を頼りにドンドンと進んでいく。


度々襲ってくるアンデッドを退けながら私は進んでいく。

いろんな分かれ道があったが悩まずに突き進む。


やがて突き当りの部屋についた。


またさっきのスタートの部屋?

不安に思ったけど最初の部屋には戻ってなかった。

スタートの部屋とは景色が違う。

部屋の中になにがあるのか調べうと部屋の奥へと歩いていく。


中央まで行くとお約束のように周辺の地面が盛り上がった。

私は少しだけ待ってから言った。


「出たなオバケ!浄化の光ターンアンデット


瞬く間に部屋のアンデッドは消え去った。

少し待ったのは地面の中にいるアンデッドには魔術の効果が弱くなるためだった。

少しだけ待ってから現れたアンデッドを根こそぎ浄化してやったのだ。


そしてアンデッドが消え去った部屋の中央には先程までなかったはずの何かがポツンと置かれていた。


「何かある?」


部屋の中央には宝箱があった。



宝箱だ。



「うわぁー宝箱なんてはじめてみたぁー」


今まで勇者としていろんなところへ派遣されて行った。

時には魔物の群れを倒しに洞窟や森へ行ったり、時には紛争地帯で人と戦うために辺境地や海を超えた島へ行ったりしたこともある。

本当に短い勇者の活動期間でいろんな場所へ行った。

それでも宝箱なんて初めて見たのだ。


「罠とかじゃないよね?」


部屋に入ってきた時には無かったはず。無かったと思う。

アンデットを倒したことで現れたのか?そういった仕掛けだったのか?

警戒しつつも私は好奇心には勝てずに宝箱を開けた。


箱を開けると、開いた隙間から湯気が立ち上る。


やっぱり罠、と思った。


だが同時に襲ってきたのは美味しそうな匂いだった。

宝箱の中には出来立ての料理が入っていた。



「うわぁーご飯だぁー」



朝ごはんを食べてからどれくらい経過したんだろう。丸一日近くは経過しているだろうか。

戦いの中に身を置いている時は空腹すら感じない。感じないけど、お腹は空いている。

そんな状態であったこともあり、なんの疑いなく食べた。


「美味しぃー」


やはり食べているときが一番幸せだ。

周りの状況など全て忘れて食事を楽しんだ。

量はまったく足りないが出来立てのご飯は疲れを一気に吹き飛ばしてくれる気がした。



「うふふ、ごちそうさまでした。ありがと」



誰にでもなく、ただ宝箱へと感謝を述べた。



食べた後、急な眠気に襲われた。

別に毒などではないはずだ。

単純に疲れているのと温かい食事に気が緩んだのだろう。

部屋に再び聖属性の魔術を使って簡単な結界を作ってから短い時間だが睡眠をとった。



目覚めた時、結界のおかげか周りに変わりはなかった。


さぁ気を引き締めてがんばろう!


短い時間の睡眠だったが食事のお陰でだいぶ体力は回復はした。

私は気合を入れ直しダンジョン探索を再開した。


私がこれまで歩いてきたダンジョンの道や構造なんてまったく覚えていない。

冒険者ならマッピングしながらが基本なのだろうが、そんな技術は私にはないので気の向くまま、どんどん道を進むことにした。


出てくるのは相変わらずアンデッドモンスターばかりだ。

出てきたアンデッドは聖属性の魔術で一掃した。



そうして進むこと半日程度だろうか。


進んだ先の部屋で地下へと続く階段を見つけた。


本当は地上に出たかったので上へ向かう階段が良かった。

けど、下りの階段を見つけてしまったのだからしょうがない。

別の階段を探しに行けば恐らくこの階段のある部屋へは戻って来れない気がする。

いや戻って来る自信がない。



考えた結果、私は迷わずに地下へ続く階段を降りた。

危なそうだったら引き返せば良いのだ。



下の階へと降りてからだいぶ歩いたが上の階と状況は何も変わらなかった。

洞窟の風景も相変わらず似たような感じだし、出てくる魔物も相変わらずアンデッド、お陰で魔力の残量が少し心もとない。

片っ端から聖属性の魔術で一掃してきたのが仇となった。


アンデッドの足は遅い。

できる限り魔術を控えるために無駄な戦闘を避けながら進んだ。



そして今まで見てきた部屋よりも少し広い部屋に辿り着いた。

完全に敵が出てくる空気だ。

でも戻っていても仕方ない。私は部屋の中へと足を踏み入れた。


それが間違いだった。


案の定現れるアンデッドの群れ。


浄化の光ターンアンデッド


アンデッドを一掃させ部屋を調べようと思ったら地面の至るところが再び盛り上がった。

今までで一番大量のアンデッドの群れ。


浄化の光ターンアンデッド


魔術で一掃するが、更に別の地面が盛り上がり続けていく。


浄化の光ターンアンデッド


そして更に、別の地面が……



浄化の光ターンアンデッド浄化の光ターンアンデッド浄化の光ターンアンデッド……」



部屋のアンデッドは完全に退治した。


それと引き換えに私の魔力は尽きた。


一息ついてから探索を進めようと休憩することにした。


すると変な音が聞こえた気がした。


私が入ってきた通路のほうからだ。


耳を澄ますとうめき声が聞こえる。


うめき声が段々と近づいて来ている。


嫌な予感しかしない。


倒さずにやり過ごしたアンデッドの群れが追いついてきたのだ。


「ギャャー!」



私は全力で逃げた。




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