食堂のテーブルに並ぶ豪華な料理の数々。
野菜、魚、肉、鮮度や味はもちろん、火の通し具合、食感や薫り、彩りに至るまで、細かなところの隅々まで気配りが行き渡っている料理がところ狭しと並んでいる。
用意されたタレの数々も飽きを感じさせない工夫が随所にみられる。
料理によって振る舞われる酒も最高だ。
素晴らしい仕事だ。
俺は心から美味しい料理を堪能している。
堪能しているのだが。
目の前の光景が凄かった。
ありえない光景が繰り広げられていた。
テーブルを埋め尽くす程に並べられていた料理の数々がどんどんと減っているのだ。
皿に盛られた料理はまたたくまになくなり、それまで料理が盛られていたであろう空いた皿が次々と積まれて山のようになっている。
こんな短時間でこの量が空になるの?
「おひゃばりぃおべぇぐぁいじばぁず」
空いた皿を重ねると次の皿を手にして食べながら何かを叫んでるフードファイターがいた。
その後もどんどんと空の皿は積み上げられていく。
負けじと出来たての料理が盛られた皿がテーブルの上にどんどんと転移して出てくる。
おぉ、さすがファンタジー、料理が転移してでてくるとは、感動した。
勇者の勢いは止まることはない。
むしろ加速していそうな勢いである。
ステーキが三口でなくなる。
そして既に口の中には食べ物がなくなっている。
次の皿を取るとまた一口、二口で食べ終え次の皿へ。
まるでわんこ蕎麦のように一品、また一品と空になっては積み上げられていく。
理解不能である。
フードファイター、前世のテレビで見たことはある。俺が大好きな企画だった。見逃さないように毎回録画もしていた。とはいってもいままで一度も生で見たことはなかった。
まさかここまですごいとは。
想像を絶する凄まじい迫力である。
俺は美味しい料理を軽くつまみながら酒を飲み、彼女が食べ終わるのをゆっくりと眺めながら待ことにした。
一時間程が経過しただろうか。
待っている時間が長かったこともあるが、少しつまむつもりが、気づいた時には俺も一通りの料理を平らげ、お酒のおかわりも充分に堪能し舌鼓を鳴らしていた。
半端なく美味しかった。満足した。満腹だ。
前世でもここまでの食事は味わったことはない。
作ってくれたシェフに感謝だな。
さぁーてそろそろ戻るかぁ。
しかし、目の前の光景は相変わらず凄まじかった。
俺の気持ちとはまるで違う光景。
食べ終わる気配が全くない勇者の姿がある。
しかも両手スプーンになっていた。
食べ物に応じては時々フォークも混じえている。
両手スプーンに両手フォーク。
なんだその器用な技は!
これだけ待ったのにまだ食べているとは。
それどころか食べ止む気配もない。
一気に料理を平らげては次の皿へと進んでいる。
ので俺はキレた!
「いつまで食っとんじゃぁ、このボケが!」
「もうちょいです、もうちょいでお腹いっぱいになれそうなんです」
「アホかぁ!ランクを上げろ!胃袋の許容量増やしてどーすんじゃい!」
「大丈夫です!まだです。まだいけます!」
「なにいっとんじゃぁ、ゴラァ!」
「私、初めてお腹いっぱいになれるかもしれなんです」
相変わらず、まったく話が噛み合わないので首根っこを掴んで強制終了させる。
「まだ私が食べてる途中でしょぅがぁ!」
勇者は引きずられながら凄いキレ方をした。
北の大地の人の有名なアレだ。
たしかに子供の食事は遮っては駄目だ。
子供の食事にはゆっくりと包容力を持って付き合ってあげるのが大人の常識(マナー)だ。
それぐらい俺にだってわかる。
だがこいつは大人だ。たぶん大人だ!
よって俺は無罪。
引きずっていく。
「まだ食べれるのにー、デザートもまだなのにー、せめて、せめてお腹いっぱいになるまでは待ってくださーい。」
まだ食べる気だったのかこいつ。
あれだけの量を食べてお腹いっぱいになってないとは。
しかもその後デザートだと?
恐ろしい。
こんなアホなことを本気で言ってるところかマジで恐ろしい。
まさかこんなところで勇者の凄さを見せられるとは思いもしなかった。
この勢いで頑張ってくれれば、数ランクぐらいすぐに上げてくれるだろう。
何故か確信を持ってそう思えた。
俺の顔には自分でも気づかないほどの笑みがこぼれていた。
そして再び舞台は魔王城玉座。
テーブルから強制的に首根っこを掴まれ、食事の席から引き離された勇者は怒っていた。激怒していた。
「一体どういう神経をしているんですか?レディの食事を途中で遮るなんてありえません。断固抗議します」
途中で食事を強制終了させられた勇者は怒りを全身で表現していた。凄い形相で睨んできてるし、凄まじい勢いで両手をぶんぶん振りながら足をドタバタ鳴らしている。
「あれのどこがレディの食事なんだ」
飢えた肉食動物も真っ青になるぐらい凄まじい勢いで食べ物を貪り食ってたぞ。
両手スプーンなんて高度な技、初めて見たからな。
美味しい料理は、もっとゆっくりと味わえよ。
勿体ない。
「差別です、いまレディに対して差別発言がありました。慰謝料として甘いデザートを要求します」
アホだ、こいつはやはりアホだ。
どこが差別だ。事実だろ。
「ここでは俺がルールだ」
面倒くさいのでぶった切る。
「それを言ったら戦争ですよ。勝てなくとも戦争です。人類が全て死のうとも戦争です。私は最後まで戦いますよ!」
ダメだ、やはりダメなやつだ。
食べ物の怒りのせいか訳のわからんことを口走っている。
「魔物の巣にから帰ってきたらデザート付きで食事を出してやる。おとなしくランクを上げに魔物の巣に行け」
「言いましたからね。言質とりましたよ。デザート付きですからね。食事の前にお風呂にも入らせてもらいますからね」
はぁ、面倒くさい。やっと行ってくれるか。
「ああ、帰ってきたら風呂も用意してやる。飯も思いっきり食べさせてやるしデザートも出してやる。だから早く行け」
「ありがとうございます。だが断ります。武器がありません」
「あ?」
行くんとちゃうんかい!
「聖剣を折られたので武器がありません」
そんなん俺はしらん。
武器とかなくてもなんとかなるだろ。
「勝手に聖剣のほうが折れたんだろ?俺はしらん」
ありのままを伝える。
「私の大事な聖剣を折っておきながら、その言い方はないと思います、断固抗議します。慰謝料に追加のスイーツを要求します」
なんなんだこいつ、どんどん図太くなってきてないか?
さすがの俺も我慢の限界だぞ。
「聖剣なんぞ知らん、魔物の巣に行け」
本当に面倒くさい。
「断固拒否します。聖剣を元に戻してからいってください。そして食後に甘い飲み物を追加で要求します」
ふぅーーー
「とっとと行けつってんだろぉがぁゴラァ!こっちが大人しくしてりゃーなに舐めたこと抜かしとんじゃぁ!デザートだぁ?スイーツだぁ?オマケに甘い飲み物だと?ふざけてんじゃねぇぞ!てめぇが魔物の餌になってこい!」
深く息を吐いてから俺はキレた。
「おい、いますぐこいつを捨ててこい」
「御意」
サッと拘束をして、サッと転移の魔法陣を展開。
さすが悪魔リーダー、見事な早業である。
拘束された勇者は光に包まれる。
「くそっ、てめぇ、おぼえてろよぉぉーー」
転移の光に包まれながら、ヤラれて撤退するときの三下のチンピラみたいな捨て台詞を残して勇者が消えた。
あいつは本当に勇者なのか?しかも女だろ?あまりにも口が酷い。悪すぎる。
「人にむかって、『てめぇ』言うなっつーの」
帰ってきたら覚えておけよ。
勇者へのお仕置き確定だ。
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