追いかけてきたアンデッドの群れ。
私は一目散に逃げた。
魔力は尽きた。聖属性の武器はない。
アンデッドを倒す方法がないのだ。
ひたすら逃げた。
私はめちゃめちゃ走った。
どれぐらい逃げただろうか。
かなりの時間逃げ続けていた。
呼吸が辛い、足の感覚など殆どない。
そんなとき通路の窪みの奥にある部屋を見つけた。
小さなほんとに小さな部屋だった。
部屋の中央には宝箱。
アンデッドが現れる気配は今のところない。
思い切って宝箱を開けると良い匂いがした。
「やったぁー食事だぁーー!」
逃げ回って呼吸を整えるのに必死だ。
嫌いなアンデッドに追いかけられて精神的にも疲れていた。
私は何も考えられずただ目の前の料理を貪るように一気に食べた。
「本当にありがと、ごちそうさまです」
食べ終わってやっといろんな考えが脳裏をよぎった。
これからどうするか?
結界を張って休憩するのが一番だが結界を張る魔力がない。
移動しなくては行けないのだが襲ってくるアンデッドを倒す方法がない。
「ん?宝箱にまだなにかある」
宝箱には私が食べ終わった後のお皿とは別に瓶があった。
飲み物?かと思ったがその瓶を手に取って驚く。
「これって魔力回復用のポーション!」
通常の怪我などを治すポーションは私も持っている。
戦闘などに身を投じる者の必須アイテムといえる。
だが、魔力回復ポーションは相当に貴重だ。数が少なすぎて購入するとなると王国の一等地に高級な住宅と家具諸々を一式揃えるのと変わらないぐらいの値段がする。
普通の人が手を出せるような品物ではない。
私も実物を見るのは今回で二回目だ。
こんな物がこんな所にあるなんて、売ったらいくらになるんだろう。
一瞬そんなことも頭をよぎったが、私の魔力はカラッポだ。
はぁーー。
私は勿体ないと思いながら一気に魔力回復ポーションを飲み干した。
「まっずぅぅーーーぃッ!!」
激マズだった。
この世が終わったかと思うぐらい苦かった。苦すぎた。
余りのマズさに一瞬死んだかと思った。
そんな味の感想とは裏腹に効果がとんでもなく凄かった。
体が熱くなりどんどん魔力が回復していくのがわかった。
「これで怖いもん無しだ!」
でもひとまず休憩。
小部屋に結界を張って短い時間の仮眠をとった。
仮眠をとった後は探索を開始する。
一気に気持ちが楽になった。
また魔力が切れたら洒落にならないので節約しながらだけど、アンデッドを倒せる魔術が使えるというアドバンテージは精神的にかなり大きい。
探索すること数時間だろうか辿り着いた別の部屋にはまた宝箱が置いてあったのだ。
警戒することなく一気に開ける。
「これって剣?」
宝箱には剣が入っていた。銀色なんだけど、薄いピンクの様な不思議な色をしている剣だ。
ダイヤくんを腰に差し、宝箱の中の剣を手に取る。
「軽い!」
ダイヤくんほどではないがかなり軽いショートソードだった。
柄の先端には小さな宝石の様な物が埋まっている。
凝った作りだなぁとか思って見ていたが、驚愕する。
「これって魔石?!」
見たこともない濃さの澄んだ色をした光の魔石が埋まっている。
こんな濃縮された光の魔石は見たことがなどない。
軽く魔力を流すと刀剣が光の魔術である聖属性の白い光に包まれた。
「ふふ、ありがと魔王、ちゃんとこれも返しに行くからね」
私は誰も聞いていないであろう空間へお礼を言った。
こうして私はテンション爆上がりでダンジョンの探索、改めアンデッド退治へと足を踏み出した。
「アイツ等、駆逐してやる!」
きっと今の私は魔王の様な笑顔をしているのだろう。
「ウォリャァァーーッッ!」
私は剣を振るっていた。
恐らく(確信しているけど)魔王が作ってくれた剣でアンデッドを駆逐していく。
光の魔石が付いた『ピカッとくん』はその刀剣を聖属性の白い光を纏いアンデッドを倒していく。
斬れ味も『ダイヤくん』と変わらないほど凄いが聖属性の効果が凄い。
掠っただけでも相手に致命傷を与える。どうかしたら掠っただけでも倒せてしまう。
だがそれでも、いくら軽いとはいえ振り回すにはそれなりに力がいる。
幾度となく振れば疲労は蓄積する。
が、そんな甘いことなんか言ってられない。
「ドォリャァァーーッッ!」
気合を入れて斬りまくった。
敵を倒せる武器を手に入れた。
敵を倒せる魔術もある。
魔力に余裕もある。
そうなるとダンジョン探索にも余裕が出てくる。
時々現れるアンデッドを全て蹴散らしながら、見つけた部屋を調べていく。
基本的に何もない。
何もないのだが、時々食事の入った宝箱を発見出来た。
食事が入った宝箱を見つけると食事を摂り、聖属性の結界を張って部屋で仮眠をとった。
食事の入った宝箱を見逃してはいけないと行く先々の部屋を調べながら進んだのだ。
お陰で階段もいくつか見つけた。
最初の穴から落ちてきた階を地下一階とするなら、私が今いるのは地下四階。
この階に来てからは階段が見つかる気配もなく同じ様なところをグルグル回っている気もする。
この階に来てから探索が思うように進まないようになった。
何かはわからないけど何かがおかしい。
そう思って、なんとなく本当になんとなく通路の壁に手をついた。
ガゴォォーンッッ!
壁が開いた。
壁と同化していた扉が開いた。
「わかるわけないでしょーがぁ!」
思わず変なツッコミを入れてしまった。
これが正解の道というわけでもないわけだし、偶然とはいえ、わかるわけがないと言った私が見つけたのだから、わかるわけないわけではないのだ。
ふぅーー
一旦落ち着こう。
今までの経験でこういう道の先で良いことは起こらない。
無視しようかなぁ、頭をよぎる。
でもさっきの所はグルグル回っているようで気持ちが悪かった。
女は度胸!行ってみよう!
私は扉をくぐった。
これまでの作りとは違う綺麗な通路へとでた。
これまでの道は人工的でも風化していて洞窟のようでもあった。
この道は明らかに人工的な綺麗な道だ。
これが風化したのがいままでの道だったのだと思う。
絶対にこの先に何かがある。
道なりに進むと大きな扉があった。
私は躊躇うことなく扉を開ける。
奥には大きな広間があった。
中に入るとそこは綺麗な、まるで魔王城の玉座の間のように高級感溢れる綺麗な作りの部屋だった。
途端に私の中の何かが警鐘を鳴らす。
ヤバい。
私の周りにいくつもの白い光の筋が現れる。
咄嗟にその場から回避した。
私がいた場所には無数の針のような物が突き刺さっていた。
いままで何もなかった部屋の奥に真っ白な虎がいた。
体長五メートルを超える巨大な白い虎だ。
グルー、グルゥーッ!
喉を鳴らしながら様子を伺うような姿勢で私を見ている。
獲物である私を狩ろうとしているのだろうか。
ゆったりとじっとりと私を見ている。
恐らくはこのダンジョンのボスだ。
威圧感が凄い。
私は剣を『ピカッとくん』から『ダイヤくん』に持ち替えた。
恐らく相手の動きは速い。
その動きに対応するため少しでも軽い剣を選択したのだ。
私の周りにまたいくつもの白い光の筋が現れる。
その場所から飛びのいて攻撃を回避する。
それと同時に相手との間合いを詰めてダイヤくんを振り抜く。
微かな手応えがあった。虎の右肩に僅かながらも傷をつけた。
グルァァー!
虎は叫びながら突進してきた。
それが見えている私はそれを直前で躱してすれ違いざまに左の肩口を切裂いた。
すぐさま反転し通り過ぎる虎に追撃を仕掛け剣を振る。
が、手応えはなかった。
躱された。
新たな光の筋が左から伸びていた。
咄嗟にバックステップを踏んだが僅かに頬を切り裂かれた。
私は慌ててその場を離れる。
一旦距離をとり虎の行動を眺める。
左肩の浅い傷からは血が滲んでいる。右肩の深い傷からはいまも血が流れて続けている。
よし、回復はしない。
この虎は洞窟にいたようなアンデッドではないと結論づける。
そして自動回復はしない。
少しずつでも傷を追わせていけばいずれ勝てる。
私は勝ちを確信し虎との距離を詰めた。
光の筋を躱し、剣で斬る。
攻撃をまともに喰らえば死ぬ。
その緊張感が集中力を上げる。
もはや虎の攻撃は当たる気がしない。
少しずつ確実にダメージを稼でいく。
次第に虎は動きも鈍り、どんどん血まみれとなっていった。
これでトドメ!
剣を振り降ろそうとしたとき私の警鐘が最大限に鳴った。
ガムシャラにその場を離れた。
ブォーーーン!
白く輝く太い光線が私のいた場所を通過していったのだ。
床も後ろの壁も光線が通過した場所は根こそぎ削り取られれていた。
あれを喰らったら死んでたなぁー。
恐らく命の灯火を使った最後の大技。
私は静かに虎の頭部へ剣を突き立てとどめを刺した。
ふぅー、倒せたー。
虎は徐々に光の粒子となって消えていった。
すると部屋の奥の扉から光が溢れだした。
ボスを倒す事で光りだした扉。
あそこに行けということだろう。
罠ということはないだろうとそっと扉を開けると小さな部屋の床に光る魔法陣があったのだ。
ディアブロさんが使っていたのと同じような術式、恐らく転移の魔法陣。
私はその魔法陣へと足を踏み入れた。
転移した先にあった寺院へと入ると球体の魔法陣があった。
何故か触れと言われている気がして恐る恐る手を触れてみた。
頭に古い街並みが浮かんだ。
小さな村に暮らしている少女。周りには沢山の動物たち。
そんな光景はすぐに消えた。
目の前にあった球体の魔法陣も消えていた。
なんだったのだろう?
周りには他に何もない。
すると魔王が迎えに来てくれた。
今回はいろいろと本当に助かった。
食事が無ければ飢えて死んでいたかもしれない。
魔力が回復出来なければ途中で力つきていたかもしれない。
『ピカッとくん』が無ければ到底ボスのところまで辿り着けなかった。
素直に感謝を述べようそう思うと自然と顔が笑顔になるのだった。
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