昼の休憩を終えた俺達はウルド王国の城へと向かっていた。
さてどこまで勇者の名前が通用するかだな。
城の正門へと続く道を歩き兵士に声をかけた。
「ウルティア王国の勇者セレネなんだが王に面会がしたい。誰か呼んできてはもらえないだろうか」
「少々お待ちください」
慌てて詰所と思わしき建物へと入って行った。
「セレネ、ここでは勇者としてどうなんだ?顔は知られているのか?」
「普通だよ。何回か来たことあるし、王様にも会ってるし」
だったら大丈夫か。いきなり追い返されることはなさそうだ。
「お待たせ致しました。勇者様ご案内致しますのでこちらへどうぞ」
年配の兵士が城の入口まで案内してくれた。
そこで案内をメイドへと引継ぎ、城の中を進んだ。
「申し訳ありませんがこちらの部屋でしばらくお待ちください。面会の準備が整いましたらお呼びにまいります」
さすがに直ぐには会えんか。
案内されたのは応接室のような場所だった。
用意された椅子へと座り用意された紅茶を飲みながら待つことにした。
俺は紅茶よりコーヒー派なんだがな。
飲めないこともないから別にいいのだが。
「ここで余り時間を使いたくはなかったのだがな」
「だからエリザベートちゃん連れてくればよかったのにー」
「あいつといるぐらいなら待つことなどなんの苦にもならん」
「あはは、アルスにも苦手な物とかあるんだ」
あれは苦手とかそういう次元の話しではない。
完全なモンスターなんだぞ、生理的に無理だ。
そのまましばらく話しをしていると先程のメイドが戻ってきた。
「準備が整いました。ではこちらへどうぞ」
そういって案内されたのは玉座の間であった。
中にはかなりガタイの良い王様が座っていた。
さすがヤツの弟だな。
良い体をしている。
「よく来たな。ウルティアの勇者よ」
「お久しぶりでございます。ダラム国王」
やっぱり王様の前だとセレネは賢くなるのか?
「私に会いたいとの事らしいが要件はなんだ?そなたが行方知れずとなっているという噂もあったが、その件か?」
「いえ、確かに現在私はウルティアには住んでいませんがそれで困っているわけではありません。今回来たのはウルド王国の奴隷制度の撤廃をお願いしに参りました」
「ははは、奴隷制度の撤廃だと?無理に決まっておるではないか。この国の基盤となる物を撤廃など出来るわけがなかろう」
まぁ、そうだろうな。
「現在、精霊大陸のアルフヘイム、黄金の国と呼ばれる秋津島とは奴隷制度の撤廃を約束してもらいました。先程ウルティア王国とは善処して頂ける方向でお願いしてきた所です」
「何を馬鹿げたことを。どうやって精霊大陸へ行ったのだ?秋津島もどうようだ。しかもウルティアが前向きに話しを聞くなどありえんぞ」
「この名に誓っても全て事実です」
「では証拠を見せて見ろ」
言うと思ったがやはりそうなるか。
「わかった。俺が証明してやろう。その代わり少し付き合って貰うぞ」
「誰だ、貴様は!」
俺はダラムを強制的に連れてアルフヘイム、秋津島、ウルティアと順番に連れて行った。
行った先々で他の王にも説明をさせた。
「どういうことだ?ま、魔王……魔王だと……」
「そうだが、何か問題があるか?一応言っておくが今のは幻術などてはない、全て現実だからな」
奴隷制度の撤廃を確認しに行ったはずが、俺が魔王であることの確認に行った感じになってしまった。
「なぜ勇者が魔王と一緒にいるというのだ。セレネよ、ついに悪魔に魂を売ったのか?」
「はぁ、またそれー、やめてよダラムまで。もう面倒くさいから普通に喋るけど、私、魔王と結婚したの」
「け、結婚だと……俺というものがありながら、よりにもよって魔王と結婚だとー」
いま俺はやっとコイツはヤツの弟だと認識した。
「魔王だかなんだか知らないが俺の女に手ー出してんじゃねぇーぞー!!!」
「手など出しておらん、こいつが勝手に引っ付いてくるだけだ」
「調子にのるんじゃねーぞ!この野郎がぁー!!」
話しが全く違う方向へとシフトしやがったなぁー。面倒くさすぎる。
ドンっ!
「ちょっとぉーん、そのくらいにしときなよ、ダラムちゃーん」
ドアを凄い勢いで開けてヤツが乱入してきた。
「エルド兄様……」
「おい、ダラム、今なんて言った!もういっぺん言ってみろ!残ったもう一つの玉も潰してやろうか!」
「いえ、何も!エリザベートお姉様、なぜここに?」
「何故も何も私のダーリンがここに来るって言ってたから追いかけて来たのよん、気づいたら置いて行っちゃうんだもん」
「ダーリンってまさかお姉様まで魔王と……?」
いやいや違うぞ!
ヤツの相手が出来るヤツなんて、それは魔王ではない、もはや勇者だ!
そして俺は魔王だ、勇者ではない!
「魔王って、何言ってるの?うちのお店に来たお客様よ」
そーいえばヤツに自己紹介なんぞしてなかったな。
「その男こそが我らが人族の敵である、魔王です」
「ははは、ダラムちゃん。なかなかおもしろい冗談が言えるようになったじゃない?」
「冗談などではありません、本当に魔王なんです」
コクコク頷くセレネとエマ。
「えっ、本当にお客様が魔王……なの?」
さすがにショックを受けたか。
これで寄り付いてこなくなるなら助かったな。
「ステキ!お客様が魔王だなんてステキすぎるわぁーん」
何故にそうなる!
「わたしも支配されてしまうんだわー、ステキよーステキすぎよー」
カオスだ。
一気にカオスとかしてしまった。
「パパはそんな事話しにきたのではありません!ちゃんとお話ししてください!」
エマさんからのお叱りがあり、場が一旦静寂に包まれた。
「おほん、本題に戻そう。いくら魔王の頼みとはいえ、奴隷制度の撤廃を約束することは出来ない。それがこの国からの返答だ」
「それは、今の、ということではございませんか?今後の、という事でお考えいただければと思います」
おお、セレネにしてはまともな返答だ。
「それも含めて出来ん。奴隷は労働力だ。それを失うと言うことは国としての力を失うと言う事。それは出来ん」
「では、あなた方が奴隷になりますか?私達にはあなた達を簡単に従えれるぐらいの力はありますよ。奴隷の気持ちがわからないなら一度奴隷にして差し上げましょうか」
うん、こんな奴隷、まじでなんの役にもたたんからいらんぞ、セレネさん。
「ぐ、脅す気か?」
「弱者には脅しを使うのに強者には脅しを使うなと?同じことですよ。あなた達はそういった弱者の声を聞いた事があるのですか?」
「それは限度がある。何もかもを聞くことは出来ん」
「だから言っているのです。労働力なら対価を払いなさい。対価を払えないなら労働力は買えないのです。奴隷の生活と安全を保証する事で健康な国民が増えます。健康な国民が増えれば国力は今以上に増すでしょう。先を見てはいただけないでしょうか」
「そんなのはいつになるかわからんではないか。そうなる前に国が滅んでしまっては元も子もない。やはり出来ん話しだ」
「てんめぇーケツ穴の小さい事抜かしてんじゃねーぞ、ダラム!出来ないじゃないんだよ!ヤレよ!やるんだよ!それが王だろーがぁー!」
「しかしお姉様、それで国を危機に晒すわけにはいきません」
「そのために魔王と勇者が来てるんだろーが?少しは頭を使えガキ!だからいつまでたっても王らしくないんだよ、クソが!」
「我が国が危機に瀕した時に助けていただけるというのですか?」
「俺が約束しよう。奴隷制度の撤廃を約束するなら我が国は協力を惜しまない。ついでにこの国との不可侵条約を結んでやろう」
「それは本当に……」
「王ならシャキッとしろ!そして今すぐ決めろ!」
「わかりました。お約束いたしましょう。ただし時間がかかるのはご理解ください」
「それは助かる。正式な書類は後日貰いにくる。細かな相談があればここへ来る配下に伝えてくれ。出来る限りは協力をする」
「ありがとうございます」
「気にするな。ではまた後日会おう。お前ら行くぞ」
「「「はーい」」」
なんか返事が一人多いぞ……。
俺はすかさず魔力でヤツを縛りあげるとセレネとエマを連れて転移した。
「あーん、ステキー!」
転移する瞬間、変な声が聞こえた気がしたが聞かなかったことにした。
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