ドワーフの国の街を探索していた俺とディアブロだが、正直いってこの国を巡るのも飽きていた。
「この国、ほんとに何もないな」
そう、想像以上にこの国には何もなかったのだ。
鍛冶が盛んなだけありいろんな金属の商品はあるのだが、別になくても困らないような生活の役にたたない物しかないのだ。
つーか魔王城の中が整い過ぎていて生活にいる物がない。
屋台に売っている食べ物は相変わらず虫ばっかりだ。これは文字通り無視。
洞穴の中に国を作って鍛冶をしながら生活を送っているのだ。そりゃなんもなくて当たり前か。
つーか、洞穴の中で鍛冶作業って、鍛冶作業だからガンガンに火を使うのではないのか? 煙とかどうしてるんだろう? 酸素とか薄くなったりしないのだろうか? その他にもいろいろと大丈夫なのだろうか?
気にはなるが、そこらへんはこの世界のなんでもシステムが発動しているのだろうな。
「この国より少し離れた場所に精霊の川と呼ばれる場所があるのですが、長の許可がなければ入る事が出来ないのです」
おい、長は他種族とは会わないのではなかったのか? 会えないならそこには行けないではないか。
「長に会うにはどうすればいい?」
「無理やり会う事も可能ですし、誰か伝手を使って許可をとってから会うか、ですね」
無理矢理はダメだな。
アポをとるといっても知り合いもいないし、誰がどういったふうに繋がっているかもわからんからなぁ。
「先程のアクセサリー屋の店主が長の幼馴染のようでごさいます。あの方に話しを通してもらえば良いかと思います」
おい、それ……先に言えよ。
今更戻るのもどうかと思うぞ。
取り敢えずダメ元で直接長に繋がる場所へ交渉にいってみるとしよう。
「どこか長への面会の希望を出す事が出来る場所などあるのか?」
「ドワーフの国では全て口伝えで行われます。ここと決まった場所はありません」
ないのかよ! 役所の窓口的なヤツが普通はあるだろ!
どうにかして長へと話しが確実に伝わる方法はないものか。
やっぱさっきのアクセサリー屋に戻ったほうが早いのかなぁ?
やべぇ、面倒くせえ。
別にドワーフの長とか、会わなくていいんじゃね?
うん、会う必要なし、帰ろう!
「アルス様、奴隷開放の報告は必要かと」
「その長に会えないんだからどうにもならんだろ。面倒くさいからもういい」
「アルス様、奴隷開放の報告は必要かと」
「話しを通してもらっても直ぐに会えないのでは面倒くさいではないか。それに精霊大陸の奴隷開放はなっているのだ。今更どうでもいいだろう」
「アルス様、奴隷開放の報告は必要かと」
だからまじで面倒くさいんだって。
「アルス様、奴隷開放の報告は必要かと」
……。
「アルス様、奴隷開放の報告は必要かと」
「はぁー、わかったよ。長とやらに会えば良いんだろう?」
「はい、ご案内いたします」
えっ?
案内出来るなら最初からそう言えよ。
「んじゃ、頼む」
チュドーーーーン!!!
凄い轟音とともに街を覆っている洞穴の横壁の一部が吹き飛んだ。
「おい、ディアブロ。案内しろとは言ったが、誰が吹き飛ばせと言った!」
「いえ、あれは私ではごさいません」
あん? お前じゃない? じゃ誰だ?
爆発をした方向を見ると、爆発した場所から逃げようとする住民、逆に爆発した場所へと救援に駆けつけようとする住民がいた。
それらとは明らかに別の方へ逃げようとする怪しい影が見えた。
あいつ、か?
俺は転移してそいつを魔術で拘束した。
「おい、お前はここで何をしていた?」
「……くっ、くそー」
スラッとしたスタイル、黒髪のロングヘアをポニーテールにまとめた女性がそこにいた。
「さっきのはお前の仕業か?」
「こんな街からは出て行ってやるんだ。私は自由になりたいのだ」
デジャヴュ……か。
俺はこういった展開を何度繰り返せばいいのだろう。
「お前、もしかしなくてもこの国の姫か?」
「き、貴様っ! 何者だ! 何故それを知っている!」
ほら、お約束だ。
流石の俺も慣れたし、ある程度の展開ぐらい読めるぞ。
こいつは【鑑定】のスキルなんぞ使う必要もなく、迷惑なイベントを巻き起こすアホな姫だ。
はぁー、まじでなんなんだ。
いつから俺はイベントホイホイになったというのだろう。
行くとこ行くとこにこんなのが仕込まれているというのだろうか。
まぁ、こいつを出汁に使えばこの国の長にぐらいは会えるだろうな。
俺は爆発した場所を見た。
大きく開いた穴。飛び散った瓦礫で怪我を負った住民。救助の為に駆け回り大声を出して騒ぐ住民。親と逸れたのだろうか、泣き叫ぶ子供。
ひとまず女の顔を一発引っ叩いた。
それから街に向かい俺は魔術を行使する。
まずは邪魔な瓦礫の撤去だ。
住民の上に乗っている瓦礫を中心に飛び散った瓦礫を重力の魔術で軽くして浮かし、邪魔にならない場所へとどかした。
その後は住民の怪我の治療だ。
俺は瓦礫が飛んだであろうエリア近辺まで魔力を広げ回復の魔術を使って住民を癒やした。
そして最後にこの壁に出来た大穴。
問題があるかどうかはわからないがこの穴や亀裂からこの洞穴自体が崩れる可能性もある。
俺は土の魔術を応用しながら開いた大きな穴を補強して塞いだ。
ふぅー、取り敢えずこんなもんかな。
このアホのせいでめちゃくちゃ魔力使ったからな。
こうみえて結構慌てたし、思った以上に真面目に力を使ったぞ。
くそ、もう一発ぐらい引っ叩いておこうか。
そう思って女を見た。
がっつり泣いてた。
「お、親にも殴られた事ッッ!」
バチィーーン!
取り敢えずムカついたのでもう一発引っ叩いておいた。
「に、二度も、二度も殴ッッ!」
バチィーーン!
よし、これで危険なセリフは回避出来た。
「な、なんで三回も叩くのよっ!」
「それはお前が言ってはいけないセリフを言おうとしたからだ」
「あんた私にこんな事をして良いと思っているの?」
「思っている。アホな事をしでかしたヤツがいたらお仕置きするのは当たり前だ。お前こそ何をやったのかわかっているのか?」
いくら自分の自由を勝ち取る為とはいえ、関係のない住民を巻き添えにすることは許さん。
「どうせ私の国になるのだから私が何をしようと自由でしょ」
バチィーーン!
「国は個人の持ち物ではない。国民の物だ」
左右二回ずつ叩かれたほっぺたを抑えながらアホみたいに泣き出した。
はぁーー、なんでこんなんばっか寄ってくるかなあ。
まじで真剣に一度お祓いに行こうかなぁ。
つーか、この世界にお祓いってあるのだろうか?
下手に行動して、変なイベントに巻き込まれて、変な祝福とかされたら嫌だからやめとくか。
ワンワン言いながら泣いてる女を無視して現実逃避した。
「お待たせ致しました。アルス様」
今までこいつは何をしていたのだろうか。
「で長には会えそうか?」
「はい、直ぐにお会いになれるかと」
今の一件が影響したか?
それともこのアホを出汁にしたか?
なんにせよ会えるというなら会いに行くか。
「よし、それでは案内を頼む」
俺は女を担ぎ上げるとディアブロの案内のもと、ドワーフ国の長の所へと向かったのだった。
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