なんとなく、本当になんとなくだが精霊大陸に対して妙に嫌な感じがした。
気になった俺は精霊大陸へと転移して来ていた。
転移したのは街の外だ。
外から街を見渡した感じは別に問題はなさそうであった。
前に来たときのように変な結界や変な魔術に覆われているわけでもない。
別に問題はなさそうだったので帰ってもよかったのだが先程した嫌な感じがどうも気になったので街の中を探索した。
何気に精霊大陸をゆっくりと見るのは初めてだ。
男女問わず綺麗な見た目のエルフやワイルドな格好をしたいろんな種類の獣人が街を行き交っている人族は見当たらない。
普通の人族の姿をした俺が珍しいのかチラチラとすれ違う人達からの視線を感じる。
特にこれといっておかしい所はなさそうだ。
違和感を感じるような物はない。
人通りの多い方を選びながら街を進むとやがて繁華街へとたどり着いた。
通り沿いにはいろいろな店が並んでいる。
多種多様な種族がいるせいか店の種類も豊富だ。
腰蓑のような服が売っている店もあればドレスを売っている店もある。
なんに使うかわからない動物の骨を大量に売っている店もあれば宝石を扱っている店もある。
ちらほらと屋台もある。
が、購入するには若干の勇気がいる。
人族の王国ではまともな食べ物には出会えなかったのがかなり影響しているからだ。
見た目や匂いは良くても不味かったら最悪な気分になる。
それは避けたい。
こういった時はまずは聞き込みか?
俺はアクセサリーや宝石が売っている店に入ると女性陣へのお土産を探した。
「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました。何かお探しでしょうか?」
ピシッとした格好をした艶のある綺麗な白髪のストレートロング、切れ長の金の瞳をしたスリムで背の高いモデルのような凄まじく綺麗なエルフのお姉さんが対応してくれた。
残念ながら胸はペタンコだ。
道行く人もそうだったがエルフはめちゃめちゃ美男美女揃いだ。
美男はともかく美女は心が癒やされる。
「数人の女性にプレゼントを渡そうと思うのだが少し店内を見せてもらっていいか?」
「勿論です。どうぞごゆっくりご覧ください」
ほう、ちゃんとわかっているな。
距離を取りつつも気にならない程度にしっかりとこちらの様子も見ている。
執拗に話しかけてくる店員なんて迷惑以外の何者でもないがこの店員はわきまえているらしい。
おっ、このケースの中に入っているヘアピンなんていいかもしれない。
シンプルなデザインだがワンポイントの目立つ位置に宝石があしらわれている。
女性陣の髪の色にも合わせれるだけのカラーバリエーションもある。
「良かったらお出ししましょうか?」
流石だ。
声掛けのタイミングが完璧だ。
俺は女性陣に合う色のヘアピンの購入を決めた。
「宜しければこちらとお揃いのネックレスもございますが、いかがなさいますか?」
なんだと!
購入を決めた所をすかさず次の商品をさり気なく薦めてくるとは。
見せてもらったネックレスはシンプルなデザインでペンダントトップにヘアピンと同じ石があしらわれていた。
これも購入だ。
「同じデザインのイヤリングとピアスもございますが?」
どんだけ商売上手いんだ。
勿論購入だ。
恐るべしエルフの女性店員。
こんだけ見た目が綺麗だと言われるがままに全て購入してしまった。
俺は気持ちよく支払いをしてお礼を言った。
「ありがとう、お姉さん。また必要な物があったら買いにくる」
「申し訳ございません、お客様。良く間違えられるのですが私は男性です。エルフは見た目、男女にあまり違いがありませんので」
なんてことだ、恐るべしエルフ。
そしてなんなんだ、このガッカリ感は。
こいつの言葉にノッてセットで購入したが損した気になってきた。
とはいえ今更キャンセルなど出来んのだが。
って違う。
俺は声をかけてきたエルフの店員を綺麗な女性だからと購入したわけではない。
いつも頑張っている城の女性陣に喜んでもらう為に購入したのだ。
断じてエルフの店員が綺麗なお姉さんだと思ったからではない。
くっそ!
胸がない段階で気づくべきだった。
街の事を聞こうかと思ったがこいつからは聞きたくない。
俺は支払いを済ませて再び繁華街を歩く。
しばらくブラブラ歩いていると一つの屋台に目が止まった。
揚げパン?
カレーパン?
いや違う。
奥で仕込みをしているところを見ると練った生地の中に炒めた挽き肉を入れている。
これはピロシキか。
「悪いな、一つくれ」
俺は一つ購入するとすぐに味見をした。
美味い。
表面がサクサクに揚げられており、もちっとした小麦粉の生地の中に香辛料と一緒に炒められた挽き肉と細かく刻まれた野菜。
揚げているのにも関わらず周りの生地は油っぽくなくサラッとしており中の具材もパンチの効いた味付けになっている。
俺は出来立てを購入出来るだけ購入すると空間収納へと入れた。
これは他の料理にも期待できるかもしれない。
俺は他の店でも味見をしながら真っ赤なスープのボルシチやホワイトソースで煮込まれたミートボールなどの料理を購入した。
ここの料理は若干塩分が強めではあるがかなり美味い。
ちゃんと出汁を使う文化があるようだ。
単純に人族の街がおかしかったのだろうか?
他の店で買った串焼きやスープ、煮物も美味かった。
人族の大陸に比べると寒い地域になるので食材が痛みづらいのもあるのかもしれない。
なんにせよ美味い物が食べれて満足である。
しばらく歩くと大きな通りがいくつも交差する中央に作られてある大きな広場へと出た。
そして俺は愕然とした。
嫌な予感の原因がそこにあったからだ。
広場の中央には遠くからでも目立つデカイ銅像があったのだ。
キラキラと輝く、俺の銅像だ。
……。
もはや言葉はでなかった。
どうりですれ違う人の視線を感じると思った。
そういうことか。
「おお、神様だ!ついに神様がおいでになられたぞぉー!」
「うぉー、神様だぁ!」
「国を救ってくださってありがとうございます!神様!」
なんだかよくわからんがいきなり周囲にいた奴等が騒ぎになって俺の周りへと集まりだしアホみたいな人だかりができた。
つーか、誰が神様やねん。
俺は集まって来た人混みから逃げるために精霊大陸の城へと転移して逃げた。
「誰だ?」
「侵入者か?」
やかましい。
これ以上騒がれたらうるさいので魔術で動きを縛ってから玉座へと向かった。
先日襲われた事もあるのだろう。
かなり警備には力を入れているらしく至るところに兵士がいたが問答無用で片っ端から魔術で縛り上げて先へと進んだ。
扉を開けると玉座には見知らぬ男が座っていた。
「おお、ようこそお越しくださいました」
「アホな女王はどこだ?」
「ティターニア様なら現在執務室で、公務の引き継ぎをしております」
まじでこいつは誰だ?
「魔王様、前日はありがとうございました。この度ティターニア様に変わりこのアルフヘイム国の王に就任した、アルーヴです」
丁寧に挨拶をされたが全く記憶にない。
「ああ、魔族の国の王をしているアルス・ディルナルだ」
ひとまず挨拶は返しておく。
全く記憶にない、いけ好かないイケメン顔なエルフの王様だが、礼儀は大事だな。
「アルス様はこの国をお救いになられた我らの神です。どうぞお気遣いなどなされずに、この国を自由にお過ごしください」
まじで意味のわからんことを言い出した。
誰が神だ。
魔族の王だと言っただろうが、頭がおかしいのか?
「いつから俺が神になっているんだ?俺は魔王だぞ」
「アルス様に国を救って頂いた事に変わりはございません。それに国を救って頂いた時に発せられたアルス様の神々しいまでの輝き。まさしく国に伝わる伝承通り。神以外に表現の仕様がありません」
なんだそれ。
確かに魔術を使った時に体が勝手に光ったが、だからといってなんで神になる。
俺には理解出来ない。
「勝手に神にするな。というか街の広場にあった銅像はなんなんだ?勝手に人の銅像を建てるな」
「私共のせめてもの気持ちです。銅像の建設は一つの形です。アルス様の偉大な功績は後世に語り継いでいく事を誓います」
なんちゅー迷惑な話しだ。
「感謝しているならあんなもん勝手に作るな。迷惑だ」
「そう仰らずに。国民にもアルス様の偉大さを広めるためです。街の吟遊詩人にも歌わせています」
すでに吟遊詩人まで使って広めているとは……なんか変な宗教みたいになってないか。
俺が精霊大陸の国民から崇められていると考えるだけで背筋がゾワゾワする。
「広める必要もないし、後世にまで話さなくていい。銅像も撤去してくれ」
「いえ、神に対して失礼になります。それはアルス様の頼みであっても出来ません」
こいつ、俺の事を神だとか言いながら神である俺の意見を却下するのか。
そのほうが明らかに失礼だとは思わないのだろうか。
「お前、俺の命令が聞けないと言うのか?」
「滅相もない。どんな命令であろうとアルス様からの命とあれば受け入れる所存でございます。ただし我らの神であるアルス様を咎めるような行動だけは出来ません」
俺の命令であろうと俺に逆らう事はないと言うことか。
なかなかの忠誠心だがそんなもんはいらんのだよ。
ディアブロみたいなのが増えたらガチで困る。
こいつ等が虫ケラ以下の強さなのが救いか?
本当に強さも伴ったディアブロみたいなのが増えたらヤバ過ぎる。
違った意味で俺が死んでしまう。
こういう輩は無視だ。
直接迷惑がかからないなら無視するに限る。
「好きにするが良い。だが俺に迷惑をかけたら国ごと滅ぼすからな。忘れるなよ」
「勿論でございます。この身に変えても約束は守らせて頂きます」
これ以上は頭痛がしそうなので俺は魔王城へと帰ったのだった。
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