俺は玉座の間でディアブロの帰りを待つ。
その時ふとあることを思った。
聖剣弱くね?
いきなり折れて出番がなくなっていたから頭になかったが、俺を殺すために存在する剣にしては弱すぎる。
聖剣の存在というものが正直わからない。
勇者に力を与える剣。
折れてしまったが、実は何か聖剣を強化する方法が存在したのだろうか?
聖剣の存在と勇者の存在。
これらを考えると精霊王は魔王を排除の対象、少なくとも邪魔な存在だと考えているはずだ。
ならば勇者と聖剣に呪いをかける意味がない。
勇者を強くするならわかる。
あえて勇者を弱くし、あえて弱い聖剣を渡す理由はなんだ?
俺がしたように制限をかけていた?
ふむ、ありえる話だな。
勇者に呪いをかけて旅立たせる。
順調に成長していく勇者。
そしていよいよ魔王討伐目前、となったタイミングで突然現れて『神の祝福を与える!』とか言って呪いを解く。
するとあら不思議。
強くなった勇者と強くなった聖剣の誕生である。
そして能力が元に戻った勇者は無事に魔王を討伐する。
なにも知らない奴らは『神の奇跡だ!』とか言って騒ぐ。
そうなれば神は今まで以上に感謝され崇められるようになる。
そんな下々の者達からの言葉を聞いて悦にひたる。
クソ野郎だな。
精霊王がこんな幼稚なクソではないことを祈ろう。
きっと深い理由があるはずだ。
俺が誕生したせいで、いきなり勇者と聖剣が拉致られるとは思ってなかった。
そして聖剣が折れるなんて思ってなかった。
そんなオチでないことを祈る。
きっと深い理由があるはずだ。
計算違いだぁ。
予定が狂ったぁ。
とか言ってないだろうな。
言ってそうだな気がしてきた。
俺の勝手な想像だが、精霊王の評価がどんどん下がっていく。
きっと深い理由があるはずだ。
もしかしたら素晴らしい神かもしれない。
武器といえばオリハルコンの剣を軽くすることは出来る。
だが重さが無くなることのメリットよりも武器特有の重みが無くなるデメリットのほうが大きい気がする。
斬れ味は間違いなく良いはずだ。
そこにプラスで重さが加わることで武器として破壊力が増大する。
浮遊鉱石は駄目だ。質量そのものが減る。強度も落ちる。
反重力の魔術を使ったとしても同じだ。剣そのものが軽くなってしまう。
実在する武器としては重さを残しつつ、持つ者には重さを感じさせない方法。
まったくわからん。
やっぱ力を上げる以外には浮かばないなぁー。
「ただいま、戻りました」
「ご苦労。で、どうだった?」
「四体のエンシェントドラゴンの確認してまいりました」
エンシェントドラゴン、確か悠久の時を生きている竜の総称だったか。
「セレネの成長具合を見ながらだが、一体ずつ討伐させるとしようか。ドラゴンが無理そうであれば先に残る霊獣を仕留めに行く」
「残る霊獣、でございますか?」
「ああ、何か知っているのか?」
「いえ、霊獣は世界を護る物と認識しておりましたので倒してしまっていいものかと」
「かまわんだろ。この世界を創ったという精霊王にも会わねばならん。最悪、俺は精霊王を殺すことになる。世界を創った神を殺すかもしれんのだ。霊獣如き誤差に過ぎんだろ」
「アルス様の身心のままに」
とはいえ問題はセレネがそれまでにどれ程強くなれるか、といったところだな。
もう少しハードモードにするべきか多少じっくりいくべきか。
なんだかんだと情があるとよくないな。
俺が短気すぎるのが問題だろうか?
多少異世界にバカンスに来たぐらいの余裕が必要なのだろうか?
そういえば前世でも旅でゆっくりしたことがなかったなあ。
如何にぎっしりと予定を組んで無駄なく動けるか。
休憩や食事の時間は削るだけ削って、無駄なく行動して遊び倒してばかりだった。
こうして考えると慌ただしく動く日本人って海外から言われていたのは当たっていた気がする。
この際、少しだけゆっくりと時間を使ってみるのも悪くないかもしれない。
ドラゴンの居場所はわかった。
霊獣の居場所には心当たりがある。
そこまで焦る必要はないか。
「セレネの様子を見に行ってくる」
「では私もお供いたしましょう」
「いや、よい。俺一人で行く」
「かしこまりました」
こいつ露骨に嫌な顔しやがった。
無視して闘技場へ転移した。
転移したのは周囲にある観客席。その一番奥だ。
ガキーン、ガキーン
金属と金属がぶつかり合う音が激しく響いている。
戦っているのはセレネと鎧くん二体。
残りの二体は離れた位置で待機しているようだ。
セレネ珍しくかなり攻撃を喰らっているのかホコリに塗れて傷だらけになっている。
鎧くんは無傷だ。
「ウォリャァーー」
気合を入れ突撃していくセレネ。
鎧くんが三メートルぐらいある巨大な剣を振り下ろす。
スッと躱すセレネ。
空振りした剣は地面を砕き爆風が起こる。
その影響でセレネの身体は横へ僅かに飛ばされる。
セレネはそのまま踏み込むが爆風で横にズレたぶん、一歩間合いが遠い。
そこをもう一体の鎧くんが横凪に剣を降る。
攻撃を途中で止め、その場を跳びのくセレネ。
鎧くんの連携が上手い。
けして鎧くんの動きが早いわけではないが、地面を叩く事で爆風を起こし、相手の出足を鈍らせる。そこへもう一体の追撃の一撃。
あれでは近づくのも困難。
近づけても一撃で鎧くんを破壊することはできない。
戦いが長引けば長引くほど鎧くんは自動修復する。
エゲツない強さだな。鎧くん。
おっ、セレネが攻撃を回避して鎧くんへ接近した。
これはセレネの攻撃が一撃入る。
そう思った瞬間、鎧くんは反対の手に持っている盾でセレネを吹き飛ばした。
ニメートル以上ある大盾。
防御ではなく普通に盾で殴ったのだ。
うわぁー。とてつもなくでかい面での攻撃。
あれは躱せない。
つーか鎧くん一体でもセレネじゃ無理だな。
それが二体。
なかなか良い感じだ。
ガンガン痛めつけてやってほしい。
非力な勇者でも攻撃を喰らいまくれば多少は打たれ強くなるだろう。
さすがだ、鎧くん。良い塩梅だ。
こっちは問題なさそうだ。
俺は転移してレジャー施設へと行った。
さて、どう成長しているのか。
相変わらず走りまくっているのは白虎か。
体長は五メートルほどで像も顔負けのサイズになっている。
そんなにビクつかなくていいぞ。
俺は敵対するヤツ以外は攻撃をしたりしないからな。
撫でやすいところまで頭をさげてくるとはなかなか甘えん坊だな。
よしよし撫でてやるからそんなに引っ付いてくるな。
いっぱい身体を動かしてくるんだぞ。
よし、行ってこい。
朱雀は俺が白虎を撫でているときから地面に降りてきている。
そんな律儀に並ぶ必要はないんだがな。
しっかりと順番を待てることは偉いことだぞ。
お前は白虎より多めに撫でてやろう。
にしてもお前もデカくなったなぁー。
最初は雛だったのにな。三メートルはあるな。
羽を拡げたら白虎よりデカイんじゃないのか。
よし、お前もおもいっきり空を飛んでこい。
わかってるな。火にだけは注意だぞ。
青龍もデカくと、いうか長くなったな。
長さでいうと八メートルぐらいか。
お前らは何を食べたらそんなにデカくなるんだ?
成長することはいいことだが成長が早すぎて戸惑うぞ。
毎日鍛えているから?
はははそれは頼もしいな。
ここの水域はお前のテリトリーだ。
しっかり見守りも頼むぞ。
朱雀がなにか燃やした時は消火を頼むぞ。
よし、泳いでこい。
玄武。
お前は相変わらずキャラなんだな。
少し大きくなっているがまだまだ陸ガメサイズか。
いやいや、違うぞ。
焦って大きくなる必要はないんだからな。
自分のペースでいいんだぞ。
おっ尻尾の蛇も大きくなっているな。
だが蛇もキャラっぽいのだな。
あざとくていいぞ。
お前の持ち味だ。
のんびりと成長してくれ。
マイペースでいいからな。
俺はのんびりとした過ごし方がわからなかったので一日中霊獣と戯れて現実逃避をするのだった。
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