はぁーー。
俺は玉座に座ってため息をついた。
まさか数日の間に精霊大陸があんなことになっているとは思わなかった。
まさか俺を神として崇めているとは思わなかった。
「ははは、精霊大陸の者は見る目がありますな、ははは」
俺が帰ってきてからずっとディアブロはこの調子だ。
俺がこんなにも嫌がっているのに何をそんなに喜んでいるのだろう。
マジで意味がわからない。
「アルス様こそ、アルス様こそが真のこの世の神だぁぁー!!」
スイッチの入ったコイツはマジでアホ過ぎる。
「俺はここの王だぞ。何がどうなると神になるんだ?」
「アルス様こそが神でございます、ははは」
意味がわからんし、なんでお前が高らかに笑う。
「はぁー、勘弁してくれよ」
そりゃ心の声も漏れる。
まじで勘弁して欲しい。
神様気取れる程、神経図太くないんだよ、俺は。
「これでも控えめにしている方でありますよ。なんなら世界中で祭りを開催しても宜しいと思います」
まじでコイツは迷惑過ぎる。
いっその事本当に滅ぼしてやろうかと本気で思うぐらいだぞ。
何にせよ精霊大陸に問題はなかった。
これで気になっていた事は一通り片付いたはずだ。
となると残されたのはドラゴン退治か。
てっきりセレネが霊獣に続き、ドラゴンの子供でも産むかと思ったが取り越し苦労だったようだな。
あれ以上レジャー施設が賑わう必要はない。
「いえ、先日のドラゴンでしたらレジャー施設におりますよ」
おい、今なんつった。
「昨晩の宴会の後に小さなドラゴンが飛んでおりましたので捕まえてレジャー施設に入れております」
全く知らんかった。
みんなが酔い潰れて、俺がバルコニーでコーヒーを飲んでた時か?
「左様でございます」
「普通に俺の心の声と会話するのはやめてくれ。怖すぎるぞ」
「いえいえ、アルス様の御心をお読みする事など私には不可能でございます」
こいつはこうやって平気で嘘を付きやがるから恐ろしい。
「ははは、アルス様こそが我が世界の神!」
また叫びだした。
こいつはほたっておこう。
にしても、ドラコン……いたのか。
そろそろ夕食の時間だ。
昨日散々飲んで騒いで朝方酔い潰れた奴等もそろそろ起きる頃だろう。
さてと今日の夕食はなんだろうな。
最近の心の支えは食事しかない。
食べ物の事ばかり考えているのもわかっているが、そうでもしないと気が紛れないのだ。
相変わらずこの世界で俺がやることが何もない。
衣食住。
着る物なんて魔術でどうにでもなる。
それに元々魔族は全裸が基本だ。
俺が人型になる事を命令したのと同時に服を着るように命令しただけだからだ。
食事はどうゆうルートで仕入れているのかはわからないが毎回美味い食事が出てくる。
住居、文字通りというかガチ目に城だ。まんま城。
魔術があるせいで光熱費なんて一切かからない。
金もある。鬼のようにある。
ずっとここでグータラしていても生きていけるのだ。
ただ娯楽がない。
俺を満たしてくれるだけの娯楽だ。
娯楽のないくだらん生活は求めてはいないのだ。
気になったゲームをやり、気になった漫画が読めて、気になったアニメを見れて、気になったプラモデルを作れて、気に入ったキャラクターに囲まれる。
そういった満たしがこの生活にはない。
つまらん!
本当につまらない生活だ!
いっその事この世界に娯楽を作るか?
とか思ったが細かな作り方なんぞ知らん。
漫画、致命的なまでに画力がない。
アニメ、テレビその物が普及していないのだ、これも厳しい。
テレビゲーム……論外。
プラモデル、プラスチックって何から出来ているんだ?
つーか魔術使ったらミニチュアなんて直ぐに作れるからなんも面白くもない。
あっ、映画上映的な感じでシアタールームみたいなのを作って、入場料をとればいけるかもしれない。
戦後の日本も映画館に人が殺到したらしいし、イケるかもしれない。
っても儲けはいらないんだよなぁー。
だからといって無料にしたらとんでもないことになるだろう。
つーか映画製作なんて凄まじく時間もかかるし面倒くさくからなしだ。
中世ヨーロッパだったら剣闘とか闘牛、吟遊詩人や大衆演劇など人気があった訳だ。
いつの時代も娯楽に飢えていたんだな。
日本が恵まれていたのが良くわかる。
ここでも何かしらの娯楽があればいいのだが何もない。
そうなると食に拘ってもいいではないか。
つーか食に拘る以外に今は何もない。
この世界で過ごす時間が長くなれば長くなるほど心が廃れていっている気がする。
何かしらの発散方法が必要だな。
剣闘や闘牛みたいに血が流れるのは好きではない。
今更、古臭い歌や音楽、踊りにも興味がない。
スポーツ、ルールを教えるのが面倒くさいし、魔族の身体能力だとルールそのものを変えないといけなくなる、それも面倒くさい。
こう考えると作るよりも与えられる事に慣れすぎていた。
つーか個人的な能力でいえばこの程度のもんよ、俺なんて。
それを神扱いしやがって、ふざけている。
もっと能力があれば行き詰まった時に考えるんじゃなくて、もっと早い段階で娯楽を量産させているだろう。
結局このつまらない日常は俺の怠惰が招いた結果だ。
こんな神なんぞどこを探してもおらんよ。
それよりも夕食だな。
俺は転移して食堂へと向かった。
今日は俺が秋津島から持ち帰った新鮮な魚介類を中心としたメニューだな。
刺身の盛合せ、シンプルに塩で焼いた魚、煮付け、フライ、刺身、焼き貝、アワビのバターソテー、しゃぶしゃぶ用に出汁の入った土鍋や刻んだ野菜なんかも用意されていた。
今回一番嬉しかったのは寿司だ。
握り寿司が出てきた。
唯一のミスはワサビを用意していなかった事だ。
完全に俺の失態である。
西洋ワサビはあったんだがやっぱり本ワサビとは全然違う。
折角の寿司なのにと落胆していたらディアブロが慌てて用意してくれた。
わざわざ秋津島へ転移して購入してきてくれたらしい。
ありがとう。寿司が美味い!
そしてやっぱり転移は便利である。
キンキンに冷えた日本酒と合わせて食事を楽しんだ。
と言うか酔い潰れ組はまだ寝ているのか?
すでに半日は経つぞ。
起きてきたら起きてきたで煩いから寝ててくれてもいいんだけどな。
たまにはゆっくりと風呂にでも入るとしよう。
最近は風呂の時間が忍耐の時間になっているからな。
「風呂に行ってくる。セレネが起きたら飯でも食わせてやってくれ」
俺は風呂場へと向かった。
珍しくディアブロがついて来ない。
気を使ってくれたのだろうか?
久々の一人だ。
こんなにも風呂が広いとは。
あーやっぱり一人は落ち着く。
ゆったり一人で体を洗い、ゆったり一人で湯船につかる。
一人の時間も大事だなぁー。
こういう時間に幸せを感じるよなぁー。
「お待たせ致しました」
俺の一人の時間は終わりを告げた。
「……やっぱり来たのか」
「アルス様の隣に控えるのが私の仕事でございますから」
なんだか久々にそれ聞いたな。
まぁ、男が増えるのはまだ良いか。
って脱衣所が煩い……嫌な予感しかしないんだが。
「アルス、お待たせ……まだ頭がガンガンする」
最悪だ、一番煩いのが登場した。
「まだ寝ていて良かったんだぞ」
「アルスがお風呂だからってディアブロさんが呼びに来てくれたの」
こいつ、ついて来ないと思ったらなんて余計な事を。
俺の一人の時間を返せ!
「アルス様を思えばこそ。直に他の者も来るでしょう」
本当に余計な事を。
「先日は失礼いたしました。お風呂の時間と聞いて慌てて参上いたしました」
結局みんな勢揃いしとるやんけ!
誰が風呂は全員で入ると決めた!
各々一人ゆっくりと入ればいいんだよ。
風呂ってそういうもんだよ。
俺の一人の時間よ、さらばだ。
「アルス様、お一つ如何ですか?」
デジャヴュ!
メティスさん昨日の懺悔はどこへきえた。
謝ったばかりの事をもう一度繰り返すというのか。
いや、待て!
メティスにお酌をしてもらう所までは良いのだ。
メティスに飲ませてはいけない。
「悪いな。貰おう」
ゆったり湯船に浸かりながら飲むキンキンに冷えた日本酒。
美味すぎる。
やはり綺麗なお姉さんにお酌して貰うと美味いなぁー。
「アルス様お一人で飲ませるとは、私も付き合いましょう。皆も気にせず飲むが良い!」
おい、クソ悪魔。
なんちゅー事をぬかしとるんだ。
おい、メティス嬉しそうに飲むな。
セレネ、せめてお猪口でいけ、徳利で飲むな。
メティスさんすでに距離が近ーい。
ディアブロの号令のせいで再び地獄が幕を開けたのであった。
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