また目を覚ましたら、知らない天井…とはならない。
一度見たもんね。
まだ頭がくらくらするような気がするが、動けないほどではないだろう。
窓から外を見てみると、ちょうど朝日が上がったところみたいである。
今度は起きた時に女性はいなかったので、1階に降りてみる。
そうした女性はいなかった。
朝早いからかなと思い、外に出てみようとする。
「あら、どこへ行くのかしら?」
びっくりした。さっき確認した時にはいなかったはずなのに、後ろには女性が立っていた。
森の中ならもうスパッといかれているだろう。
村を滅ぼした冒険者の集団よりよっぽど強いと思う。
「外には出ない方がいいわよ。ここ森の深層だから。気づかれたときにはもうお陀仏。あの世生きよ。」
そう言われれば自分か住んでいたところと、少しにおいが違う。
森にはそれぞれにおいがあって、深いところの方が少し獣のにおいがするような気がする。
ここは、そんな感じのにおいだ。
「まあ、そんなに警戒しないで。とって食べようと思っていたのならもう食べちゃっているから。とりあえずそこに座って。」
まあそうだろう。
外にも出れない、家の中にも自分より圧倒的に強い人がいる。
こうなっては成るようにしか成らない。
「うん、わかった」
「うまくはしゃべれなさそうだけど、私の言ってることはわかっているっぽいし、質問にも受け答えはできるよね。」
「できる」
そういうと僕は椅子に座った。
見た目は手作り感のある様子だが、がたつきもない。
ゴブリンの村の椅子よりよっぽど快適だ。
やっぱり人間ってすごいんだな。
「まずあなた名前は?」
「ない」
「あら、そう。じゃあ歳はだいたいわかる?」
「たぶん、3か月」
「結構早熟なのね、まあ名前は不便だから考えるとして、これからのこと考えよう」
「うん、なまえ、ほしい」
「じゃあフロースとかどう?」
「それ、いい、気に入った」
「そう、よかったわ。」
すると、フロースの体が光った。
それは優しく、体全体を包み込むようにして。
これは母に光の玉をもらった時と似た感覚であった。
「あれ、うまくしゃべれるようになってる。」
そう、体が光った後、うまくしゃべる方法のようなものが流れ込んできた。
体も緑色であった皮膚が少し色を落とし、人間に近づいている。
「これまでに何があったかおしえてくれる?」
ここで、フロースは村が焼かれたこと、襲われたこと、光の玉をもらったことを詳細に話した。
あれ、なんだか涙があふれてくる。
「あなたも辛かったのね。お母さんとお父さんを亡くしたんだもの。今は気が済むまで泣きなさい。よく頑張ったわね。」
女性はそれまでどこか警戒したような声色であったが、ここばかりは母親のような声であった。
フロースは落ち着くと、気になっていたことを聞いた。
「名前なんて言うの?」
「あ、そういえば言い忘れていたわね。私の名前はアジュール。今はわけあってこんな奥地に住んでるただの一般人よ。」
さすがのフロースもただの一般人だとは思っていなかったが、詮索しようとは思わなかった。
そんなことをしてしまえばこの先の関係に亀裂が生じると思ったからである。
「その光の玉のことなんだけど、もしかしたら“人間のカケラ”と言われてるものかもしれないわね。」
そういって、アジュールは昔話をしてくれた。
それは、人間になりたいと願っていたコボルドが、夢の中で神様に光の玉をもらい、人間と交流していく中で自分も人間に近づいていくというものであった。
ほとんど伝説のようなものになっていて、誰も見たことがないことであったが、あるのかもね、とアジュールはいった。
「それじゃあこれからの事だけど、とりあえずはこの森で生きていてるくらいに強くなることが目標ね。それと、文字は書けないみたいだから、その練習もしましょう。」
「え、勉強嫌い。」
「でも、文字書けなきゃ独り立ちするとき大変よ。」
その時、フロースは雷に打たれたような衝撃を受けた。
いつか僕はここから追い出されるらしい。
てっきり、ずっと一緒にいられるのだと思っていた。
「さ、そうと決まれば外で訓練でもしましょう。外出ただけで殺されるとか不便極まりないですからね。」
これからスパルタな訓練が始まるのだろう。
そんなことは言っていなかったが、その“気”が物語っていた。
「まあ、きれいな女性に教えられるなら頑張れるかな。」
そうボソッとつぶやく。
「ぶつぶつ言ってないで行くぞー」
その母親のような感じや、姉のような感じはいつかかわるのだろうか。
これ、一生恋愛対象に入らないやつだよね。
これからの頑張りに期待である。
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