この作品は単体でもお楽しみいただけますが、『ちくねこだん2045』及び『続・不思議の街のヴァルダさん』をお読みいただけますと、より深く楽しむことが出来ます。面白かったら、各話ごとに星が入れられますので、評価して頂けると嬉しいです。
月が出てからしばらく経ったが、全力さんは眠り続けていた。
夢の中で、全力さんは黄色く輝く砂浜にいた。夜明け前の薄暗い浜に、まだ猫だった頃の全力さんが下りてくる。その後ろに、全力さんそっくりの三毛猫が更に続いた。全力さんは、舳先に顎を乗せてそれを見ていた。船は晩の陸風の中で停泊して、全力さんは幸せな気分で、三毛猫たちがわんさか現れるのを笑いながら見ていた。
「あれは、全力さん爆弾よ」
ヴァルダを少し優しくしたような顔の、不思議な制服を着た少女がいつの間にか傍に立っていて、全力さんにそう言った。
「全力さん爆弾?」
「そう。全力さん爆弾。星条旗を見ると突っ込んでいってね。自爆するの」
「なして、そげなモノ作ったん?」
「日本はこれから戦争になるから。ヴァルダもひーちゃんも、剣乃も土佐波も徒呂月も、皆その戦争に巻き込まれるわ」
徒呂月というのは知らなかったが、後は皆、全力さんがこの村に飛ばされる前の友だちだった。全力さんが、まだデブの三毛猫だった頃の。
「戦争は嫌やなあ……。戦争になったら、ご飯が食べられなくなるんやろ?」
「大丈夫。全力さん爆弾がこの国を守るの。アナタは英雄として皆に称えられるようになるのよ」
英雄とかそういうのはどうでもいいから、もう一度猫に戻って、皆の待つ『死者の書のしもべ』に帰りたいと全力さんは思った。
「もう一度、お腹いっぱいご飯が食べたいなあ。人間はもうこりごりや。生きとるだけでも一苦労やからな」
「そう?」
「うん。鳥よりちいとマシなだけや。ヴァルダにこき使われても、猫の方がええ。ひーちゃんは優しいしな」
「アケミの事はいいの?」
「アケミは大丈夫や。もう一人で何でもやれる。わしみたいなオワコンが傍におったら、却ってよくない」
全力さんがそういうと、制服を着た少女は微かに微笑んでいった。
「大丈夫、帰れるわ」
「ホンマに?」
「帰ってくれないと、私も困るの。だからあの魚を打ち倒しなさい」
「魚ってなんやっけ?」
「その時になれば、きっと思い出すわ。私の名前はユキ。元の世界に戻れたら、きっとまた会いましょう」
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