Destiny×Memories

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Past.08 ~君のチカラ~

公開日時: 2020年11月9日(月) 09:42
文字数:2,107

 ――だいじょうぶ、だよ――



 夢の中で聞いたあの声が脳裏に響いたと思った、その瞬間。アイレスの炎の魔法は消え去っていた。


「……ッ!! 無効化魔法だと……!? いつの間に……!!」


 驚くアイレスには先ほどの声は聞こえなかったらしい。


「一体……何が……」


 呆然とするオレたち。ソカルが心配そうにオレを見た。


「ヒア、大丈夫!? ……ケガはない?」


「あ、ああ。なんとか……」


 そんなオレたちを見ていたアイレスが、再び呪文を唱えようとする。


「さっきのはどうせまぐれだ!! 今度こそ当ててやるぜ!

 ――“天空を燃やす灼熱よ! 我が敵を薙ぎ払え!!”」


 手をかざすアイレスを見て、オレは今度こそダメか、と硬直した。

 【戦神いくさがみ】と呼ばれた彼の剣には、炎が集まっている。



 ――ちからが、ほしい?――



 また、声が聞こえた。守るチカラを。戦うチカラを。

 オレが、ここにある意味を。



 ――わかった……。きみのカラダ、かりるよ――



 その瞬間、身体に何かが入ってくる感覚が、した。



「くらえッ!! “『スカイフレイム』”!!」


 アイレスの炎が、オレたちを襲う。やばい、と思った瞬間、オレの身体が勝手に動いた。


『――“《ダークエンド》”!!』


 口から勝手に言葉が出て、炎を無効化した。行き場を失った熱だけがその場に残り、じわりと熱い。

 え、何、何が……!?


「ヒア……!?」


 ソカルがひどく驚いたような顔をしている。もちろん、ナヅキたちも、アイレスも。


「お前……何者だ?」


 飄々とした表情を消してオレを睨みつけるカミサマに、オレは辟易する。ふと手に違和感を覚えて見てみると、いつの間にかオレは変な形の剣を握っていた。


「な……なんだ、これ……」


 見覚えのないその剣を見て、ソカルが呟く。


「コピシュ……?」


 それはこの曲がった剣の名前なんだろうか。

 何でお前が知ってるんだ、とかいろいろ考えていたら、また身体が勝手に動き出した。


『――“暗黒の世界,罪人の償い……。《ダークネス・アトーンメント》”!!』


 暗い魔法を宿した剣で、アイレスに切りかかる。


「う……ッああああッ!!」


 攻撃はアイレスに届いて、彼は悲鳴を上げて跪いた。


「くそ……ッ!! まだ覚醒して間もない“双騎士ナイト”がこんなに強いはずはない……!! なんで……!!」


 ぶつぶつ呟くアイレスに、オレは複雑な思いになる。

 だって、このチカラはオレのものじゃない。きっと……あの深い海のような空間で聞いた、あの声の主のものだから。



「……【戦神】。あれほど勝手な行動は慎むよう言ったはずですが?」



 そんな思考の渦に沈むオレの前方から、不意にまた知らない声が聞こえた。


「……【識神しきがみ】のお出ましかよ……」


 アイレスが苦虫を潰したような顔でそう言った。【識神】……ってことは、またカミサマなのだろうか……?


「はじめまして、“双騎士”諸君。私は【識神】ミネル。

 この馬鹿を回収に来ただけですので、そんなに警戒しなくて結構ですよ」


 アイレスの後ろから姿を現した茶髪の男はそう名乗り、武器を構えたままだったオレたちを鼻で笑った。


「けど……あんたもそいつの仲間なんでしょ? だったら」


「先ほども言ったでしょう、私はこの馬鹿を回収しに来ただけだと。

 今あなた方と争う気はありませんよ」


 ナヅキの言葉に、ミネルはため息をつく。馬鹿呼ばわりされたアイレスは不満そうな顔だ。


「……最も、次にお会いするときは全力でお相手をさせていただきますが。

 それでは、失礼いたします。“双騎士”諸君……そして……――」


 最後の方の言葉は聞き取れなかった。二人の【神】の姿は最初からそこにいなかったかのように消えてしまったから。


「……に、逃げられたー……」


 はあ、と脱力するナヅキに、ソカルが首を振る。


「見逃してもらった、と言った方が正しいね。

 実際、今の僕らでは神と同等に戦うことすらできない」


 その言葉に、オレは思わずギュッと拳を握った。

 ……あれ?


「あ……身体、動く……」


 いつの間にかあの声の主は消えたようだ。

 自由を取り戻した体に、心底ほっとする。助かったとはいえ、勝手に体を操られていい気はしない。


「そうだヒア、さっきのあれは一体……!」


 思い出したかのようにソカルが問う。みんなもオレをじっと見る。そう、言われても……。


「オレもよくわからないし……」


 困ったように言うと、みんなも困惑した表情をした。

 本当に……なんだったんだ? あいつ……。


 ――ああ、また、名前を聞きそびれた。



  +++



「【神】が動き出したようだぜ」



 白で覆われた建物の中。金髪の青年が、淡々と報告をする。

 ……【神殿】と呼ばれるその建物の中で、最も厳かな雰囲気が漂うその場所に、“彼ら”は集まっていた。


「【太陽神】を殺そうと、奴らも必死なわけか」


 彼より薄い金髪の青年が、深くため息をついた。


「どうしますか? 今の彼らに【神】と対等に戦う術はないはずです」


 あるとしたら……という言葉を飲み込んで、白髪が首をかしげる。


「……あの二人に合流させよう。ちょうど今、近くにいるはずだから」


 水色の髪の少年が、そっと笑って“彼ら”に指示を出した。


「【太陽神】も……《彼》も、殺させない」



 それは、まるで深い海。



(……あなたへ。どうか、すべてを抱え込まないで)




 Past.08 Fin.

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