Destiny×Memories

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Past.11 ~アクアリウム~

公開日時: 2020年11月10日(火) 21:00
文字数:2,069

「じゃあ、ちょっくら先輩の強さってのを見せてやろうか!!」



 そう言ってイビアさんは、札を構えて呪文を唱え始めた。


「――“彼の者を切り裂く光よ,宿れ! 『ライジングシュニット』”!!」


 魔力を込めたらしいその札を投げ飛ばすと、札は狼みたいな魔物に当たり光を放った。


「さすがに簡易魔法じゃ効かねえか……。黒翼っ!!」


 光が収まって魔物を見ると、魔物は多少ダメージを食らったようではあるもののまだピンピンしていた。

 イビアさんの声に黒翼が刀を構えて飛び上がり、そのまま彼の刀は魔物の肩を切り裂いた。


「まだだっ!! ――“『風陣連武ふうじんれんぶ』”!!」


「――“……光を集め,輝きを放つ咆吼を上げよ!! 『ハウリングリヒト』”!!」


 黒翼の風を纏った追撃と、その間ずっと呪文を唱えていたらしいイビアさんの魔法が込められた札が放たれたのは、同時だった。

 魔物は断末魔を上げながら、その場に倒れ込んだ。


「すごい……倒した……!」


 オレたちが呆然としていると、イビアさんは札を構えたまま首を振った。


「……いや……まだだ!!」


 その言葉と同時に、倒れた魔物の影が伸び、オレたちの方に向かって来た。


「っリブラ、危ない!!」


「きゃあ!?」


 リブラの足元に来た影を、持っていた剣で切り払う。

 しかし次の瞬間には、オレが別の影に捕まってしまった。


「うわあ!?」


「ヒア!!」


 じ、地味に痛い……。

 ソカルがそんなオレを助けようと鎌を振りかざすが、それはイビアさんに止められた。


「待てソカル!」


「……っなんで止めるんだ!!」


「今攻撃したらヒアに当たるだろ!」


 イビアさんに諭され、ソカルは鎌を握り締めて言葉をなくす。オレという足手まといがいるからか、みんなは攻撃できずにいる。


 ああ、また、おれは。


「……緋灯ヒア


 不意に、黒翼に名前を呼ばれる。顔をそちらへ向けると、何の感情も浮かばない彼の瞳が、オレを貫いた。


「……魔法を、使え」


「ま、ほう?」


 確かにオレから攻撃したらこの状況は変わるだろう。

 でも、オレは魔法なんて……。


「ヒア、ダメだよ!! その力は、君を……!!」


「緋灯」


 慌てたように首を振るソカルを遮って、黒翼がまっすぐオレを見つめる。しばらく考えてから、オレはフィリに習ったことを思い出しながら呪文を唱え始めた。


「……――“全てを焼き尽くす炎よ,我に……”」


 そこまで詠唱して、ハッと気付く。そうだ、オレの……魔法は……っ!


「ヒア……!」


 ソカルの声に、オレは彼らの方を見やる。心配そうな顔をするソカルたち。だけど、オレは……。


「逃げるのか?」


 黒翼の冷めた声音に、オレは歯を食いしばる。脳裏に過ぎるのは、炎に包まれた、あの夢。

 あんな思いをするくらいなら……オレ、は……!!



 ――だめだよ、それじゃあ――



 不意に深い海のような、あの声が頭に響いた。

 魔物の影がオレを握り潰そうと強めた力に、思わず顔をしかめる。



 ――逃げるのは……後で後悔してしまうよ――



 後悔……だけど……!!

 ぐっと手を握り締めたオレに、声はふっと笑った。



 ――今きみを死なせるわけにはいかない。カラダを、借りるよ――



 それに反論するまでもなく、また身体が勝手に動いた。


『――“煉獄の闇,全てを破壊する剣となれ! 《フェーゲフォイアー》”!!』


 手に現れた曲剣に魔法を込め、オレを捕らえている魔物の影に振り下ろす。影は悶えながらやがて動きを止め、オレはやっと解放された。


「今の技……!!」


 イビアさんが驚いたように目を見張る。オレの手がまた勝手に動いて、人差し指が自身の唇に当たる。まるで内緒だと言うように。


『まだ……』


 まだ……なんだろうか。

 最後まで聞く前に、オレは急激な眠気に意識を手放してしまった。


 +++


 再び気がついた時には、オレはまたあの水の中のような空間にいた。目の前には前回はいなかったはずの淡い光を放つ少年がいる。

 空間の水よりかは濃い蒼の髪をゆらゆらと水に遊ばせているその少年は、少し悲しげな顔で笑んでいた。



 ――きみは……よくここへ来るね――



 他にほとんど誰も来たことがないのに、と少年は笑う。

 

(オレだって来たくて来たわけじゃない)


 そもそもどこだ、ここ。

 オレのそんな問いかけに、少年は今度は困ったような顔をする。

 なんだ、結構普通に表情変わるじゃん。オレはそう密かにほっとする。少年は、どこか浮き世離れした印象があったからだ。



 ――ここはね……オレの精神世界、かな?――



(なんでそんな曖昧なんだよ)


 苦笑いしながら少年に突っ込むと、彼はくすくすと笑い出した。



 ――オレもよく、わからないんだ。ここがどこなのか、今がいつなのか。これはどの《ゆめ》なのか……――



(ゆめ?)


 聞き返せば、少年はまた曖昧に笑んだ。よく笑う、その割にはその笑顔はどこかいつも悲しげで。


(お前、ここで独りきりなのか?)


 気がつけば、そんなことを聞いていた。少年は驚いたような顔をし、その後に悲しそうな表情になった。



 ――そうだね。この空間では、独りきり――



 そう悲しげに笑って、彼はすぐに真顔になってオレを見つめた。



 ――少し、話をしよう、ヒア――



 きみとオレの、未来の話を。




 Past.11 Fin.

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