Destiny×Memories

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Past.06 ~君を傷つける過去~

公開日時: 2020年11月8日(日) 04:09
文字数:2,108

「ヒアってさあ、弱いよね」


 猫耳娘の直球が、オレの心にグサリと刺さった。


 事の発端は小一時間前。ドゥーアの街を出たオレたちは、草原で魔物を倒していた。

 オレやリブラ以外のみんなは何やら戦い慣れていて、オレは完全に足手まとい状態だった。

 そして、冒頭のナヅキの発言である。



「ソカル、アタシたちよりあんたのパートナーのが足手まといなんじゃない?」


 ナヅキの言葉に、オレはぐっと黙る。

 やめろよ……結構傷つくんだぞ。


「何? 僕のパートナーに文句あるの?」


 売り言葉に買い言葉。まさに一触即発という雰囲気な二人に、オレとフィリは情けないことにおろおろとする。


「あ、そう言えば」


 空気を読まない声が響いた。リブラだ。みんなが一斉に彼女を見やる。


「ヒアさんの真名まなは何ですか?」


「まな……って、何?」


 そんな彼女が言ったのは、聞いたことのない言葉だった。オレが首を傾げると、リブラは説明してくれた。


「真名、です。“双騎士ナイト”なら契約時に真名で契約したと思うのですが……」


「ああ……。アタシの場合だと“Prism”なんだけど、あんたは?」


 ナヅキの例に、オレはソカルと契約した時に言われた言葉を思い出す。そう言えば、そんな感じの単語を言っていたような気がする。

 あれは他人に言って良いものなのだろうか。

 一応ソカルに目配せをすると、彼は嫌そうな顔のまま黙っていた。


「……確か……そう、“Blaze”、だったはず」


 黙ってるってことは言っても大丈夫なんだろう、と勝手に結論づけて、オレは答える。


「“Blaze”……“焔”、ですか」


 リブラの言葉に、オレは皮肉だなあと笑う。

 オレは焔なんて……嫌いなのに。


「じゃあ、もしかしたらアーくんは魔術師の素質があるのかもですね!」


 フィリがわくわくした声で告げる。

 まあ、適材適所とは言うけどさ。


「魔法なんて使ったことないぞ?」


「大丈夫ですよ、僕はこれでも魔術師の端くれ! 教えます、魔法!」


 楽しそうだな、フィリ。

 内心呆れながら、オレは魔法の特訓とやらを受けることにした。


 +++


「まずは魔法陣を発動させるです」


 ま、魔法陣って、何。と思っていると、フィリが詳しい説明をしてくれた。


「自分が使いたい魔法をイメージするですよ、単純に魔法を使うというのをイメージするだけでも大丈夫です」


 よくわかるようなわからないようなその説明を受け、とりあえず目を瞑って実践してみるオレ。

 えっと、イメージ、イメージ……。


「素質があれば大抵はそれで簡単な魔法が使えるです。上級魔法はまた別ですが」


 珍しくよく喋るフィリの説明を流しながら、オレはなおもイメージしようとする。

 簡単な魔法ってこう、あんまり派手じゃないやつだよな。ゲームの最初で覚えるような。

 ふと、ふわりと足元が光る感覚に気づく。


「あれは……魔法、陣?」


「見たことない魔法陣です……。……アーくん、心に浮かんだ言葉を言ってください! それが呪文です!」


 ナヅキとフィリの言葉に、魔法陣とやらを発動できたことを知る。フィリの指示に従い、オレは心に浮かんだ言葉を発する。


 ……ソカルが、辛そうな顔をしていたのには、気づかないまま。


「……――“焔よ,踊れ! 『テア』”!」


 瞬間、ボッという物が燃える音に、ハッとする。見ると、目の前にあった木が、燃え、て。


「……あ……」



 ――お逃げください、××!――


緋灯ひあ



「あ……あ、」



 ――城が……燃えて、――


『緋灯』



「ああ、あ……」



 ――貴方の為に死ねるなら、私は……――


『大丈夫よ、緋灯』



「……っあ、あ……」



 ――貴方のせいではありませんから……どうか……――


『火は、あなたを守るわ、緋灯』



 ――ご自分を、責めないでください――


『だから、自分を責めないでね』




「っあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁッ!!」


 +++


 突如叫びだしたヒアに、僕は失敗した、と焦る。本来なら、彼が魔術を習得しようとしてる時点で止めるべきだったのだ。それを、僕は……。


「ヒア!!」


 彼の元へ駆け寄る。とにかく、反省も後悔も後だ。


「ひ、が、みんな、もえて、」


 錯乱状態のヒアを、精一杯抱き締める。

 怖がらなくていい、どうか、何も思い出さないで。


「大丈夫、大丈夫、ヒア。大丈夫だよ」


 豹変した事態におろおろとしている魔術師に、僕は指示を出す。猫耳やリブラはこの際無視だ。


「炎を消して! 早く!!」


「は、はいです! ――“水よ,飲み込め! 『アクア』”!!」


 水属性の簡易魔法が、ヒアが出した炎を飲み込む。やがて炎は消え、辺りにはヒアのすすり泣く声だけが響いた。


「ヒア、もう大丈夫だよ」


「みんな……もえるん、だ。みんな、」


 落ち着かせようと声をかけても、ヒアはまだ過去の幻影を見ているようで。

 今のヒアに、その過去を全て知られてしまうのは得策ではない。きっと、また、壊れてしまう。


「ごめんね、ヒア……」


 そっと、その意識を強制的に閉ざす。力無く倒れる彼の身体を、出来るだけ優しく地面に横たわらせた。


「一体……なんだったの……?」


 呆然としている猫耳たちに視線を移す。だけど何も言えなくて、僕は冷たいヒアの手をぎゅっと握った。



 いつだって、どんな過去だって。

 君を傷つけるばかりなんだ。



(……きみへ。そのキオクは、本当に必要?)




 Past.06 Fin.

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