Destiny×Memories

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Past.03 ~焔の揺らめき~

公開日時: 2020年11月7日(土) 18:43
文字数:2,588

 ――まあまあ、緋灯ひあったら。火が怖いの?


 ――仕方がないわね……。ほら、火はもうないわ。


 ――ふふ、大丈夫よ、火はあなたの名前なんだから。


 ――あなたを傷つけたりなんて、しないわ。



「……母さんは、嘘つきだ」



 ふわりと意識が浮上する。いつの間にか眠っていたらしい。

 起き上がり辺りを見回すと、ドアに寄りかかって立っているソカルがいた。

 ……どうやらオレはまだ、異世界とやらにいるようだ。


「やっと起きたね、ヒア」


「おー。……ここは?」


 ドアの方からオレが座るベッドまで近づいてきたソカルに、オレは尋ねる。


「修道院の部屋の中。君、あれから意識を失っちゃったから」


 あれから……? ああ、そうだ。

 そういえばオレは、目の前に居るコイツと『契約』とか言うものをしたんだったか。


「……なあ、『契約』したらどうなんの? なんか効果とかあるのか?」


「まあね。基本的には戦うときにお互いの感情に呼応して戦力が上がる、と言われてる」


 た、戦うんだ、やっぱり……。


「……ん? 基本的には……ってことは、例外もあるってことか?」


「らしいよ。僕も詳しくは知らないけど……前にいた“双騎士ナイト”がそうだったらしい」


「前にいたって……じゃあそいつらがカミサマと戦えばいいんじゃん……」


 なんでオレがわざわざやらなきゃいけないのだろう。

 先代がいるならそいつらに任せればいいじゃないか。だってオレ、一般人だし。

 内心で思わずそんな愚痴を零してしまうオレ。


「……うーん、それができるなら今頃やってるんじゃないのかな……」


 先代についてはよく知らないらしいソカルもため息をついた。


「……でさ、ソカル。契約したら次はどーすんだよ?」


 とりあえずため息ついていても埒があかないので、今後の予定を聞いてみる。

 確かこういうのはボスを倒せば元の世界に戻れるとか、そういうオチなはず。


「神に会うために……王都を目指さなきゃいけない」


「王都? って県庁所在地みたいなあれか。カミサマはそこにいんの?」


「実際にそこにいるわけじゃないけどね。王都にある“神の祭壇”……そこに行けばいいらしい」


 “神の祭壇”というまた胡散臭いワードに思わず顔をしかめてしまう。


「結局お前もよくわかんねぇってことか」


「仕方ないだろ、僕だってこんなの初めてだし」


 まあそうそう体験できることではないよな。小さくため息をついて、オレはベッドから降りた。


「……んじゃー今から行くか……って、もう外真っ暗じゃん……」


 窓の外を見ると、完全に日が沈んだ後だった。……オレ、どれだけ眠ってたんだよ……。


「出発は明日の朝だね」


「……だな」


 ああ、何かやる気半減だ。元からそんなになかったけれど。

 はあ、とふたたびため息をついて、オレはベッドに座る。


「寝ようにもさっきまで寝てたしなー」


「……それは眠れないね……。……じゃあ、聞いてもいいかな」


 オレのぼやきに返事をしてから、ソカルはそう言った。


「何を?」


「さっき寝言で……」


「寝言!?」


 うわ、オレ何言ったんだろ。慌てるオレを横目に、彼は続けた。


「……『母さんは嘘つきだ』って。……何かあったの?」


「え? ……あー……そういや今日は久々にあの夢見なかったな……」


 代わりに見たのは幼い頃の夢だ。火を怖がるオレに、母さんは笑って火を消してくれた。

 優しかった、母さんの夢。


「……あの、言いたくないなら別に」


「えっ!? あ、いやそういうつもりじゃないんだけどっ」


 急に黙ってしまったからソカルは勘違いしたらしくて、オレは急いで首を振る。


「えーとな、ガキの頃の夢を見たんだけど……。オレ、ガキの頃火が怖くてさ。火を見るたびに泣きじゃくってたんだ。

 それで母さんはオレがいるときは火を使わないでくれて……。火は怖くない、オレを傷つけたりしないって言ってくれて。

 でも……母さんも父さんもその数年後、交通事故で……」


 奇跡的に助かったオレは、燃え盛る車の中で焼け死んでいく両親を見ているしかなかった。


「その時思ったよ、やっぱり火は……怖いんだって」


 よく見るあの夢でも、火は『オレ』の大切なものを奪っていくから。


「そう……。ごめん、何か……」


「え、いや、いいって! 気にするなよ! そうやって気を使われる方がオレは嫌だし」


 急にしおらしくなったソカルに、オレはまた慌てる。

 死神と言いつつ意外と人間味のあるコイツに、少し好感が持てた。


「ってか、オレはさっきまで寝てたから良いけど……お前、そろそろ寝ろよ。明日持たないぞ?」


 オレがそう言って笑うと、ソカルも少し微笑んで頷いた。


「そうだね。そうする。おやすみ、ヒア」


 もぞもぞとオレの隣のベッドにもぐって、ソカルは挨拶をする。


「おー。おやすみ」


 オレはそっと笑って、電気を消してやった。

 風力発電だというこの村にある風車の音が、静かになった部屋に響いていた。


 +++


 そして、次の日の朝。


「うーん、良い天気!」


「そうだね。絶好の出発日和だね」


 清々しく晴れた空に、オレは思い切り伸びをし、ソカルも頷く。


「ほらこれ、お弁当。しっかりやるんだよ!」


 そう言って二人分のお弁当を渡してくれたのはリーサさん。どうやら見送りをしてくれるらしい。

 そのリーサさんの背後には修道院に住む子供たちもいて、みんな手を振ってくれている。


「がんばってねー!」


「カミサマなんてやっつけちゃえー!」


 思い思いの言葉を口にする子供たちに、オレとソカルは笑いかけた。


「おー、がんばるがんばる。行ってきます!」


 リーサさんと子供たちの声援を受け、オレたちはどこまでも続く草原を歩き出した。最初はとりあえず次の街に行くらしい。

 二人旅って不安だけど……まあ、なんとかなるだろうな。

 オレはひどく軽い気持ちで、前を歩くソカルの後を追った。



 +++



「――異世界の勇者が動き出したか……。アズールめ、余計な真似を」


 どこかの場所で、黒い影が呟いた。


「どうしますか?」


「……ふっ。我らが手を下すまでもない。その辺の魔物に食われるだろう」


「ですが……勇者を守るために『奴ら』が現れないとも限りません」


 別の黒い影の言葉に、リーダー格らしい影は笑った。


「それはそれで好都合だ。『奴ら』が……“守護者”どもが出てきた時……それが我らが動く時」


 影は椅子から立ち上がり、言った。


「さあどう出る、【太陽神】の守護者ども……。くく……『神戦争』の始まりだ!!」



 焔の少年は、揺らめいて。



(きみへ。そのキオクを、疑って)



 Past.03 Fin.

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