短いです。
⑤
続く沈黙の中、今の会話が何を意味していたのか、徐々に理解する。即ち、彼が、毒島憧英が翔たちの止めるべき革命軍に所属しているという事を。
――毒島が、敵……。
翔と毒島は、日本にいた頃からそれなりに良好な関係にあった。祐介のように親友と言って差し支えないような間柄ではなかったが、学外で会えば挨拶をするし、互いの趣味の話をすることも珍しくないような、そんな仲だ。
彼の人となりは、翔もそれなりに理解しているつもりである。だからこそ、信じられなかった。
「どうして、疎まれている側の革命軍に……」
現実を認識した翔がまず思ったのはそれだった。
「毒島の奴、英雄に憧れてたんだ。それなのに、なんで、革命軍なんかに味方してるんだろう」
帝国の民たちは、基本的に反戦派の現皇帝を支持していた。強さを貴ぶ事と、好戦的な事は別だ。そのような時代も確かにあったのだが、遥か昔、未だ帝国の地にて複数の『龍人族』の部族が争っていた群雄割拠の頃の話だ。無為に血を流す皇帝を人々は歓迎しない。
そんな中で革命を為したとしても、英雄にはなり得ない。それは、毒島も分かっている筈だと、翔は考えていた。
「翔、やつの英雄願望に関しては後だ。一旦部屋に戻ろう。ここは人目が――」
「ちょっといいか」
気が付けば、煉二の後ろにその辺りの人々と同じようなシンプルな恰好をした五人の男が立っていた。声をかけてきたのは中央に立つ碧髪碧眼の『龍人族』らしき男で、フードで顔立ちははっきりしないが、その所作からかなりの実力者であることが伺える。
「なんですか?」
訝し気に返す翔の視界には、不自然にならない程度の動きで入口の方向を塞ぐ他の四人の動きも映っている。当然警戒心を抱いたが、表には出さない。
「さっきの彼とはどういう関係なんだ?」
「どういう関係って、友達ですが」
男から向けられる視線は相変わらず翔の内心を探っているようで、気持ちの良いものではない。あからさまでは無いが、ある程度実力のあるモノなら気付ける程度の隠し方だ。
「彼が今どういう立場にいるかは知っているか?」
「……いいえ」
相手が誰なのか分からない現状、翔に毒島が革命軍の人間であると話す気はなかった。突然話しかけてきた見知らぬ誰かよりは、例え敵対しなければならないと分かっていても、毒島の方が大事であるし、信用できたのだ。
しかし目の前の男を騙すには、彼の経験は十分でなかったらしい。男の瞳に鋭い光が煌めいたかと思うと、途端に威圧感を放ち始めた。それは翔たちにばかり向けられており、他の客が気が付く様子はない。翔は内心で男に対する警戒レベルを上げる。
「一緒に来てもらおうか。逆らわない方が身のためだぞ?」
四人は即座に視線を交わす。戦っても、負けることは無いだろうとは考えられた。少なくとも、逃げるだけなら難しくない。
――どうしよう。少なくともこんな所で戦うのはダメだ。じゃあ逃げる? いや、そうしたら問答無用で切りかかってくるかもしれない。
そう考えられてしまうくらいの雰囲気を感じたのだ。それは他の三人も同じなのだろう。彼女らの視線は鋭いながらも、どうすべきか問いかけているようだった。
「……いきなり話しかけてきて、それは無いでしょう。せめて名前くらい名乗ったらどうなんですか?」
せめて時間を稼ごうと、そう問いかけてみる。男は力強い眉の片方を意外そうに上げると、先ほどまでの威圧感を少し薄れさせた。
「名乗ればついてくるのか?」
「それは、分かりません」
もう隠す必要はないだろうと、警戒を前面に出して答える翔に、男は〈ストレージ〉より一本の剣を取り出して見せた。それは漆黒の鞘に金でシンプルな意匠の施された美麗な剣で、束の部分にはグローリエル帝国を示す紋章が刻まれている。
「これで分かるだろう?」
バスタードソードと思しきその剣が何を意味しているのか、翔は記憶の片隅に引っ掛かったものを取り出そうとするが、出てこない。
「帝国騎士団の騎士団長さん、ですかー……」
代わりに、寧音がその答えを示した。そうであるなら、断る理由は無い。むしろ好都合だった。
寧音に肯定の返事を返す騎士団長を、翔はじっと見つめる。未だ彼は翔たちに疑惑の眼差しを向けており、発せられる威圧感も、周囲で酔っぱらった客たちが楽し気に騒いでいるのが不思議な位だ。
――問題はどうやって無実を証明するかだけど、まあ、なんとかするしかないか。
「分かりました。行きます」
翔の返事に、騎士団長はただ無言のまま頷いた。
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